∥004-02 宇宙人=ビームはお約束
#前回のあらすじ:ファーストコンタクト
「―――そういう訳で、お前には手ごろな任務を一つこなして貰うぞ」
「えぇ・・・?」
そんなやりとりが交わされたのは出発前、【揺籃寮】の管理人室に皆が集まっていた時の事。
アルトリア嬢の思い出話を聞いた後、戸口から姿を現した叶君の姉―――会取明からぼくの歓迎会を開くという報せを受けたのだ。
楽しそうなイベントの予感に喜色を現したぼくは、すぐにその表情を曇らせることになった。
―――彼女が言うには、寮に入る新人は慣例として他のメンバーと共に任務を受けるのだという。
「これから付き合っていく上で、自分が【神候補】としてどこまでやれるかを示すんだ。何ができて何ができないのか、実力の把握は大事だからな」
「確かに大事だけれども!でもそれはもう歓迎会というより、只のシゴキなのでは・・・?」
「なあに、直に慣れる」
そう言ってニヤリと笑う彼女におおいに不安になったあの頃。
故郷の父ちゃん、天国の母ちゃん、元気に暮らしてますでしょうか。
―――以上、現実逃避おしまい。
そしてただいま現実。
眺めの回想から戻ったぼくを待っていたのは、木立を背景に草原へ横たわる菫色の燐光を帯びた葉巻型UFO。
そしてその手前をよちよち歩きで近寄る―――リトルグレイ型宇宙人の姿であった。
「えぇ・・・??」
右に90度傾いで全身で困惑を現してみる。
視界に入る光景を脳が理解することを拒否していた。
UFOにフライングヒューマノイドと訳のわからないモノをこれまでさんざん見せられた身だが、いくらなんでもこれはないだろう。
UFO特番の再現VTRそのまんまの姿の宇宙人を目の当たりにすれば、きっと誰だってそうなる。
<<地球のミナサン>>
<<ワレワレハ シングセイジンデス>>
一方の宇宙人(?)達はというと、ぼくたちの10m手前くらいまで近づき、シワ一つない小さな両手を掲げ立ち止まった。
同時に、脳裏に響いた無機質なイメージに「ひゃっ!?」と背後でかわいらしく小さな悲鳴が上がる。
「こいつ、頭の中に直接―――!?」
「気を付けろよ、こいつは宇宙人型シング―――奴らの中でもとりわけ高い知能を有する連中だ」
「宇宙人型・・・!?」
つまりこいつらも【彼方よりのもの】の一種であるらしい。
警告を発した明の顔をまじまじと見つめるぼくだったが、よくよく考えれば時間が静止したこの空間で活動できる存在など限られている。
それはともかく、そうとなればより一層警戒の度合いを引き上げなければならない。
ぼくは軽く深呼吸すると、改めてリトルグレイ―――改め宇宙人型シングの様子を観察する。
数は3体、うち1体がこちら寄りに進み出ていて、先程から両手を上にかざしている。
今の所、これまで出会った【彼方よりのもの】のように襲い掛かってくる様子は見られない。
<<地球ノミナサント トモダチニナリニキマシタ>>
<<ニンゲン トモダチ>>
更に脳裏に響くイメージに、ぼくたちは思わず顔を見合わせる。
ひょっとして、敵対する意思は無いのかも知れない―――?
淡い期待を込めて黒光りする大きな瞳を見つめると、思いが通じたのか宇宙人型は一歩進み出て片手をこちらに差し出す。
万国共通の挨拶、シェイクハンドだ。
「良かった、争わずに済みそうだ・・・な、ないすとぅーみーちゅー?」
「あっこら」
差し出された指に淡い菫色の光が灯る。
不思議な色合いのその輝きに引き寄せられるように一歩踏み出すぼく。
背後から上がった静止の声に振り向くのと、リトルグレイの指先がひときわ強い光を放つのはほぼ同時の出来事だった。
何かが額のすぐ横をかすめ、視界の端をはらりと落下してゆく前髪と何かが焦げる異臭が鼻をつく。
<<ハズシタ>>
<<ノーコン ノーコン>>
「ちょ・・・えええええ!!!??」
「だから注意したのに―――そいつらは簡単な言葉を発するけど内容に意味は無いぞ。オウムのおしゃべりと同じようなもんだ」
差し出していた手を下すと、くわっと口腔を開き威嚇する宇宙人型シング達。
それまで小さな点にしか見えなかった口腔の内側には、ヤツメウナギのような細かい歯がびっしりと並んでいた。
攻撃されたのだと理解すると同時にどっと冷や汗が噴き出してくる。
知能が高いって、騙し討ちとか不意打ちとか、そういう方向性!?
困惑するぼくをあざ笑うかのように、背後に控えていた葉巻型UFOの巨体がぶるりと震え、上空へと飛び立つ。
その下では凶悪な形相に成り果てた宇宙人型シング達がヤスリのような歯を剥き出し、地面を蹴って突進を開始した。
それを既に予想していたかのように迎撃態勢を整える仲間達。
<<<マルカジリ!!!>>>
「結局こうなるのかよ―――ッッ!!?」
耳障りな擦過音を上げ迫りくる敵に、否応なくぼくらは応戦を開始するのであった―――!
今回はここまで。
 




