∥003-14 ゴリラ・ネコ・メガネ
#前回のあらすじ:営業とれた?とれてない?
[マル視点]
「―――そういう経緯で、【神候補】の一人として彼女に協力する事にしたのよ。・・・とまあ、私が【イデア学園】にきた経緯はそんな所ね」
【揺籃寮】の一角、管理人室には現在ぼくを始めとした【神候補】達が集まっていた。
メンバーはぼく、楓さん、叶くん、そしてたった今自らの過去を語り終え、手にしたティーカップを傾け一息ついているアルトリア嬢の4名だ。
先程は初対面のぼくが気になるのか、びくびくと過度に緊張していた彼女も話しているうちに幾分リラックスできたらしい。
ローズヒップティーを一口飲み息を吐くその様子は、先程よりずっと落ち着いて見える。
「長々と話しちゃってごめんなさい、退屈だったでしょう?」
「いえいえ、そんな事は―――」
「そ、そんな事無いです・・・!!」
自嘲気味に苦笑いを浮かべる彼女に対し、手を振って否定の意志を伝えるよりも先に横合いから思いのほか大きな声が上がる。
何事かと見れば、真っ白な頬をリンゴのように紅潮させた叶くんが身を乗り出し、興奮した様子で拳を握りしめていた。
「す、凄いと思います!そんな大変な身の上なのに精力的に活動までされて・・・。ボ、ボクなんか、一度外に出るのが億劫になるとどんどん出づらくなっちゃって、今日みたいに居留守まで使う始末で―――」
「わかるわー、用事も無ければ家の中でゴロゴロするか本でも読んで過ごしたいわよね」
「着ていく服選んでる間に何か「もういいや」ってなっちゃうよね」
「あんたら全員ヒキコモリかーいっ!!」
何やら話の方向がおかしいと思えば、楓さんまで加わり後ろ向きな話題で盛り上がり始める3人。
結局みんな根っからの出不精なのであった。
思わず反射的にツッコミを入れつつ、ふと脳裏に一つの疑惑が立ち上がる。
この寮、入寮希望者が集まらない原因って、この一癖も二癖もある住人達にあるんじゃ無いのか・・・!?
ぼくが言い知れぬ不安に身を震わせていたその時。
おもむろに入口のドアが開かれ、その奥からひとつの人影が姿を現すのであった。
「もしもし、灯りが点けっぱなしでござるよー・・・おりょ、ちゃんと居るではござらんか」
「―――猫?」
「にょほ?」
思わずきょとんと顔を見合わせる二人。
戸口から姿を現したのは、コミカルな猫の頭―――らしき被り物で頭部をすっぽりと覆った、成人男性とおぼしき人物であった。
「何をしてるんだ、お前等――ー?」
ゴリラの次はそう来たか。
いよいよもって変人の巣窟疑惑に確信を抱きつつあるぼくに、男性に続いて戸口から現れた大きな銀縁眼鏡を掛けた女性は、訝しげな視線を投げかけるのであった―――




