∥003-13 別に伝説の聖剣が無くても私は倒せる!的な
#前回のあらすじ:ククルカン/神様のつくりかた
[アルトリア視点]
「神様になって―――能力を制御する?」
「ですです」
「じゃあ・・・『詰め物をされた女神』は?」
たて続けにショッキングな情報を詰め込まれたせいか、千々に乱れた思考を必死に纏め私は一言疑問を放つ。
それにヘレンはんー、と細い指を顎に当て考えると、からっとした笑顔を浮かべた。
「結果的には解決しなくも無いですが・・・ぶっちゃけ要りませんね!」
「そんなあ」
私は凹んだ。
命がけで、本当に死んでまで追い求めたものは別に無くてもなんとかなった。
重要な事実だが、せめてこうなる前に知らせて欲しかったとつくづく思う。
真っ白な床に突っ伏す私に「あらあらー」と首をかしげつつ、白板へ向き直ったヘレンは先程描いた関係図に青色のペンで書き足してゆく。
「例えばですがー・・・一人の男性が居たとします、名前はピックマンさんとしましょう。ピックマンさんはある日を境に狗頭人身の怪物へと変貌してしまいました。―――さて、この変化は遺伝子的にはありえませんが、霊的に言えば『ありえます』」
人型のイラストに青いペンで立て耳と鋭いツメが書き加えられる。
「この現象は憑依とはまた違いますが、重要なのは『急激な肉体変化を引き起こす霊的現象の実在』です。そしてアルトリアさんには現在、二つの霊的存在が憑依しています。一つはフィリップ=ジャーミンの亡霊、そしてもう一つが―――貴女の祖霊です」
「祖霊―――?」
記憶が確かであれば、祖霊とは特定の血族に連なる先祖の霊が信仰の対象となったモノを指す筈だ。
そしてヘレンは私の状態を『能力の暴走』と表していた。
点と線が繋がり、ようやく脳裏に自らの身に降りかかった災難の正体が明らかになる。
「つまりこの姿は・・・その、祖霊がとり憑いたせい?でもそれじゃあ、さっき言った内容と矛盾するんじゃ―――」
「ところが矛盾しないのですよ、これが。あまり詳しいコトは話せませんが・・・ヒトという種の起源は一つじゃ無いですから」
「・・・どういうこと?」
遺伝子的に人間は類人猿へ変貌しない。
だがこの姿が自分の先祖のそれなら、石造都市の猿人とは一体何だ?
困惑する私の脳裏に、収集した伝承の中にあったいつの時代かわからない程に旧く、荒唐無稽な伝え語りが蘇る。
―――暗黒大陸の最奥には、あらゆる生命の根源となる"もの"が潜んでいる。
■■■から出ずるものはいずれ■■■へと還る―――
「―――さて!脱線はこのぐらいにしておいて、重要なのは『白き神』の血筋に優秀なシャーマンとしての力が受け継がれていて、幸か不幸かアルトリアさんがそれに目覚めたという事実です」
ぱん、と掌を打ち合わせる音に思索に沈みかけていた意識が引き戻される。
慌てて顔を上げると、そこには褐色の少女が何事も無かったかのように微笑む姿があった。
「ごめんなさい―――少しぼうっとしていたみたい」
「結構長くお話ししてましたからねー。じゃあ、そろそろ話の〆と行きましょうか」
そこで言葉を切ると、何時の間にかホワイトボードを片付け、元のサマードレスに着替えたヘレンが私の眼前へとふわりと移動した。
僅かに上げた私の視線とヘレンのそれが純白の地平線を背景に交差する。
「私の―――【イデア学園】の下でシャーマンとしての力を磨き、神の位階を登れば、能力を制御して元の姿に戻ることも可能な筈です。ですが―――強制はしません。アルトリア=ジャーミンさん、貴女はこの取引に応じますか?それとも応じませんか?」
「私は―――」
少しだけ、目を瞑り心を落ち着かせる。
答えは―――既に決まっていた。
■■■に当てる字はシュブでも黒山羊でもお好きなものをお選びください。
今週はここまで。
 




