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お釜大戦  作者: @FRON
第三章 ようこそ揺籃寮へ!
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∥003-12 白き神の伝承

#前回のあらすじ:ヘレンちゃんは悪魔か神か



[アルトリア視点]



「むかーしむかし、とあるアフリカの密林(ジャングル)へ、ふらりと一人の旅人が訪れました。旅人はそこに住む獣混じりの住民に言葉を教え、家の建て方を教え、作物の育て方と家畜の世話を教えました。喜んだ住民は旅人に一族の娘を嫁がせ、二人とその子供たちは石造りの都市で穏やかに暮らしていました」



―――どこかで聞いたような話だ。

そんな感想を抱きつつ宙を仰ぐと、そこにはサマードレス姿の少女(ヘレン)がゆらりと空を漂ったままこちらを見つめていた。



「ですがその日々も終わりを迎えます、男は再び旅に出なければならなかったのです。住民たちと家族は嘆き悲しみますが、いつか必ず戻ることを約束して旅人を見送ります。密林深くにある石造りの都市で、旅人の家族たちは今でも彼を―――『白き神』の帰還を待ち続けているのです」


「・・・断片的だけれど、収集した『石造都市』に纏わる伝承にそんなモノがあった気がするわ」



おしまい、と締めの言葉を紡いだ彼女に、おぼろげに記憶に残る密林の部族から仕入れた情報との類似性を指摘する。

ヘレンは細い両腕を組むと、満足げにうんうんと頷いてみせる。



「ですねー。情報元は伏せますが、今のがアルトリアさんのご先祖様に伝わる昔話です―――よいしょっと」


「!?」



ヘレンは私の目線くらいまで高度を下げると、おもむろに何処からかホワイトボードを取り出すとどんと目の前に置いた。

いきなりの出来事に目を白黒させる私。


それを尻目に、いつの間にかスーツ+白衣姿のエセ教師ルックへ着替えたヘレンは伊達眼鏡を光らせつつ、くるりとこちらを振り返りドヤ顔を見せた。



「この類の神話・伝承は大西洋沿岸地域に幅広く存在するんですが、そのどれもが共通する要素を持っているんですねー。細かい差異はもちろんありますが、大体が『来訪者』『技術の伝播』『最後に訪れる別離』といった共通項が認められます。不思議ですね!」


「え、その板どこから・・・て言うかその恰好、なに?」


「様式美です!(フンスッ)」



とうとうこらえ切れずに漏れ出た疑問に、片手を腰に当てふんぞり返ったポーズで答えるヘレン。

もう一方の手はレンズの入っていない眼鏡をクイッと持ち上げ「どや?どや?」とばかりに得意げな表情を浮かべている。



「に―――似合ってる、わよ?」


「そうでしょうそうでしょう(フンスッ)」



無言で求められた感想に引きつった表情のまま応えると、宙に浮いたままヘレンの上体は40度ほど後ろにのけぞった。

色々と予想の斜め上を行く展開に、私は細かいネタにまでツッコミを入れる事を諦めた。



「・・・私も聞いた事くらいはあるわ。中南米だとか、ナイル川流域にも共通点のある伝承が存在するみたいね」



気を取り直し、先程の話へと軌道を修正させる。


肉体の変貌を解く手がかりを集める経緯で、各地の民話・伝説を調べていた際『白き神』との関連性を匂わせる伝承の多さに内心驚いたものだった。

『彼』―――あるいは『彼ら』は実に広大な地域で教え、人々を導き、そして無責任にも全てを投げ出して海の彼方へと旅立っている。



「ですです。そして薄々勘付いてるとは思いますが、ジャーミン家は遥かな昔『白き神』と呼ばれた一族の末裔なんです。ウェイド=ジャーミンは偶然にもご先祖様の約束を果たしていたというワケですね!」


「そんな―――でも、確かに・・・」



―――結果は散々ですけど、と一言付け加えられたヘレンの言葉に、これまでおぼろげだった自らの血筋に纏わる背景がはっきりと像を結ぶ。

確かに、そう考えると辻褄が合う。



「でも・・・じゃあ、私のこの身体はなに!?まさか、ずっとずっと昔に混ざった石造都市の猿人の血が目覚めたとでも言うの!?」


「いいえ?狼男でもあるまいし、ある日突然肉体が変貌するだなんて多少血が混ざったくらいじゃありえません」



―――伝承にある密林(ジャングル)の石造都市には白い類人猿が住まうという。


剛毛に包まれた両腕を抱き、悲鳴のように放った疑問の答えは実にシンプルなものであった。

確かに、肉体の変貌は一晩のうちに訪れ、それ以来ずっと私を悩ませ続けている。



「じゃあ、一体これは・・・何?」


「一言で表せば、アルトリアさんは常時、能力が暴走状態にあるんですよ。憑依現象はご存知ですか?大部分は暗示の産物ですが、悪霊や悪魔に憑かれて表情や言動までそれまでと全く異なるモノになってしまう―――」



ヘレンはホワイトボードに大きく『霊体』と書き、そこから人型のイラストに向けて矢印を伸ばすとその上に『憑依』と続いて書き加えた。

インクを足している訳でもないのにすらすらと描けるペンに内心驚きつつ、私は白板の上に示された関係図を凝視する。



「―――その道数十年の呪術医も私のコレには手の付けようがないと匙を投げたのだけれど・・・」


「暗示でもそこいらの雑魚霊の仕業でもなく、連綿と受け継がれた血筋により発現したれっきとした『異能』だからですよ。―――話は戻りますが、アルトリアさんの異変の原因は今お話しした通り。そしてその解決法は―――」



言葉の続きを固唾を飲んで見守る私へ不敵に笑うと、伊達眼鏡をクイッと持ち上げ褐色少女(ヘレン)はこう言い放つのであった。



「神様になって、能力を制御することです!」



NGシーン


「解決法は―――」


「ゴクリ・・・」


「デートして、デレさせることです!」




お後がよろしいようで。

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