∥001-06 西郷!犬養!高杉!ジェットストリーム維新を仕掛けるぞ!!
#前回のあらすじ:UFOは実在した!!!
[マル視点]
「改めて、おいどんは西郷!名は易盛!薩摩隼人の血を引く男の子にごわす!!」
「私は犬養剛史。・・・西郷君と同じ、【クラン】の会長を務めております。以後、お見知りおきを」
「サワッディー!」
「あ、こりゃどうもご丁寧に・・・」
3人組×2のうち、先に話しかけてきたのは男子組のほうだった。
先頭だって話しかけてきたのが、やたら恰幅のいい五分刈りの青年。
アクの強いしょうゆ顔に、太眉、短く切りそろえたまるっとした頭―――と、近代史の教科書で一度は目にする姿にそっくりだった。
そう、上野公園で愛犬と一緒に聳え立つ、アノ像のお方である。
しかし惜しい、あと一字で同姓同名だったのに。
その後ろに控えるのは、白の詰襟に身を包んだ精悍な雰囲気の青年だ。
静かな口調ではあるが、何処か心地が良い声。
歌手か弁舌家がハマり役になりそうな、不思議と耳に残る声の持ち主だった。
こちらも歴史上の偉人と微妙にニアミスした名前なあたり、何かそういう縛りのある集団なのかも知れない。
・・・となると、3人目となる人物の名が気になるところだ。
詰襟の青年の隣で腰に手を当てたまま破顔する、残る一名へと視線を向ける。
見たところ、東南アジア系の浅黒い肌色の男性だ。
がっしりとした体格を支える筋肉はゴムのようにしなやかで、自然体であってもその所作一つ一つに隙が無い。
メリハリの利いた筋骨隆々なボディはいかにも強そうだ。
・・・格闘技か何かでもやっているのだろうか?
ぼくはちらちらと彼等の間に視線を走らせつつ、ぺこりと頭を下げた。
「ぼくはマル。○×の丸に海の人と書いて、マルカイトです」
「おう!マルっちゅうのか、よろしゅう頼むでごわす!!」
「うむ、お互い仲良くできると嬉しい」
「・・・(ニッコリ)」
「あ、はい。どーもはじめまして」
・・・と、フレンドリーに握手を求めてくる青年達。
それにこりゃどーもどーも、と汎日本人的な挨拶を交わしながら、順に握手に応じていく。
しかし内心では、がっちり握られた手から伝わってくる膂力にちょっぴり緊張していた。
―――彼等が、ヘレンちゃんが口にした『共に戦う仲間達』というやつだろうか?
いかにも実力者っぽいその雰囲気に気圧されつつ、つぶさに観察してゆく。
それを知ってか知らずか、大柄な青年はニカッと白い歯を見せると腰をかがめ、足元に侍る小さな生物を抱えあげた。
「おんしも任務は初めてやろうし、分からんことは何でん聞きいてくれ。―――そして、こやつがツン。おいどんの【神使】にごわす!ツン、丸どんに挨拶するでごわす」
「オン!(しっぽふりふり)」
「あれが―――【神使】!ヘレンちゃんが言ってた・・・。他の人にも居るんだ」
「うむ。我々【神候補】は必ず、何らかの形で【神使】を持っている筈です」
柴犬だろうか、大柄な主人の胸の中から人なつこく見つめてくるその姿に、思わずほっこりしてしまう。
その一方で、ぼくは西郷青年が告げたワードに、胸の高鳴りを隠せずにいた。
―――【神使】。
それは先程、謎空間で褐色少女から説明された存在の名だ。
彼女から授けられた『切り札』の存在にもそれは関わってくるのだが、その説明はまた後程。
ぼくらはお互いに声を掛け合い、お陰で場の空気もほぐれてきた。
犬養青年は一つ頷くと、背後へ視線をちらりと投げた後、紹介がまだだった褐色の偉丈夫の名を口にするのだった。
「・・・紹介が遅れたが、彼がもう一人の我が同志―――高杉=シンサック君です。宜しくしてあげてください」
「マイペンラーイ」
「またもや惜しい!と、言うか・・・。一人だけ国籍が違ーう!?」
「・・・ケンチャナヨ?」
満を持して登場した、維新政府勢最後の一人。
彼はとってもマッチョで、よく日に焼けていて、ちょっぴりパクチー臭かった。
はい。
どう見てもムエタイ戦士です、本当にありがとうございました。
思わずズッこけたぼくに、浅黒い肌の志士はバンテージに覆われた右手を差しだす。
それ、お隣の国の言葉ですよね???
力強い手に引かれて立ち上がると、ぼくは改めて疑惑の視線を送る。
その先で、国籍不詳のムエタイ戦士は神に捧げる踊りの真っ最中であった。
どこへどう突っ込もうか、と眉根を寄せて悩んでいたところに、出し抜けに涼やかな女性の声が上がる。
「―――そろそろ、宜しいかしら?」
「えっ・・・?」
視線を向けるとそこには、未だ未接触の少女達の姿があった。
三者三様の衣装に身を包んだ少女達。
その中央の一人が一歩進み出て、こちらをじっと見下ろしている。
西郷どんと同じく、謎空間から戻る前の車内には居なかった筈の人物―――【神候補】だ。
「一応、わたくしからも自己紹介しておきますわ。エリザベス・フィリップス・ミラー。・・・親しい者にはリズ、と呼ばれておりますの」
「は、はぁ・・・」
以後お見知り置きを―――と、綺麗なカーテシーと共に告げる。
その声と、視線に込められた強い意志に思わずぎくりと身を縮めた。
しかし同時に、ぼくはその姿から視線が離せなかった。
くたびれたバスの車内という、いささか場違いなロケーションで出会った彼女。
それは真紅のイブニングドレスに身を包んだ、それはもう見事な金髪ドリル縦ロールのお嬢様であった―――
※2023/08/20 文章改定




