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お釜大戦  作者: @FRON
第三章 ようこそ揺籃寮へ!
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∥003-06 アウトサイダーとその他のゴリラ

#前回のあらすじ:シスコーンBIG



[???視点]



払暁(よあけ)を思わせる薄暗闇の廊下。

全ての輪郭がおぼろげに映るなか、()()はかろうじて板目の見えるフローリングを踏みしめ、ぎしぎしとくぐもった音を上げ廊下を進んでいた。


採光用の窓から差し込む黄金色の陽光を避け――あたかも闇に潜み光を忌む怪物(アウトサイダー)のように――ふらふらとした足取りで歩む何者かの輪郭が、床から反射したわずかな光で浮かび上がる。


()()は、黒々とした人型の物体――しかしその輪郭に奇妙で不可解な特徴が認められる――であった。


人影らしきものは幽鬼のようにひっそりと、しかし確実にその歩みを進め―――やがて一枚の扉へとたどり着く。

ドア枠の上に掲げられたネームプレートに記された『会取(えとり)』の文字にしばし注視すると、やがて影は頭部(らしき部位)を巡らせ、横手にある販売カウンターの方向でその動きを止めた。


スライド式のガラス戸によって廊下と隔てられた先は、光満ち溢れる世界であった。

誘蛾灯に吸い寄せられるように近寄る影は、何かをためらうかのように震える掌をガラス戸へかざす。


人の声、ローズヒップの甘い香り、談笑。


薄いガラスを通し内部より漏れ出るそれらへ焦がれるように、しかし恐れるようにじりじりと影は進む。

やがてカウンターの前に立つと、黒々とした掌を貼り付けまばゆいばかりの光に包まれた部屋を()()は覗き込んだ。


箪笥、戸棚、その上に並べられた実用性に溢れる小物に、時折混ざり点在する可愛らしい小さな人形の数々。

木製のテーブルの両側にはシンプルな椅子が置かれ、3人の少年達がそこで談笑に耽っていた。


人、人だ。


()()が他者と会話を交わしたのは一体、どれだけ前の出来事だっただろうか。

もう遠い昔のように感じる。その胸に去来する感情は―――『孤独』であった。


内側から湧き上がる感情に突き動かされるように、影はその手を伸ばし―――ガラス戸に触れ大きな軋みを立てた。

ぎくりと影は動きを止め、部屋の中へ視線を戻す。


先程まで談笑していた少年のうち一人が、こちらを向いたまま彫像のように静止していた。

その顔からは表情が抜け落ち、つぶらな瞳は驚愕によって大きく見開かれている。


しまった、と思う間もなく彼の口は恐怖の形に歪み―――この世の終わりのような絶叫が迸った。



「ゴ・・・ゴリラだぁぁぁぁぁあっ!!?」



・ ◆  ◇  ◆ ・



[マル視点]



立てばウホウホ、座ればゴリラ、歩く姿は類人猿。


そんな何処かで聞いたようなフレーズがふと脳裏をよぎる。

ぼくの前には、ちょこんと椅子に腰かけ悲嘆に暮れる―――ゴリラが居た。


身長は160cm強、全身をうっすらと覆う細やかな毛並は黒ずんだ金色で、頭部の毛足は特に長く――人間で言うところのショートカット程度――きれいに櫛で整えられ艶を放っていた。

そしてその身体は上品なブラウスとライトグリーンのフレアスカートに包まれ、揚句に特大サイズの女性靴を履いていた。


何を隠そう―――彼女は類人猿(ゴリラ)などでは無い。れっきとした人間である。


名前はArturia(アルトリア)=Jermyn(ジャーミン)、19世紀末に西アフリカの港町でその短い生涯を終えた、英国貴族の血を引く少女らしい。


【神候補】の一人であり、【揺籃寮(ここ)】の先輩でもある彼女は来客に気付き、ぼくらの居る管理人室を訪れ―――

それに気づいたぼくが上げた絹を引き裂くような悲鳴に動転して転び、今に至るという訳だ。


彼女の名前と簡単な身の上については、現在会話ができる精神状態に無い彼女に代わり楓=(フォン)先輩が語ってくれたのだった。



「ここ、【イデア学園】には2種類の【神候補】が存在するんだ。まずは君たちのような【スカウト組】、ヘレンが直接交渉して覚醒させたパターンだね。そしてもう一つが―――【召喚組】だ」


「召喚・・・?」


「文字通りの意味さ。【彼方よりのもの】(U F O)の犠牲者にそうそう都合よく素質がある訳がないんだから、人員の補充手段を他に求めるのは当然の帰結だね。ヘレンは過去の歴史上に存在した覚醒者の魂に接触し、第二の人生と引き換えに戦力として協力するよう要請しているという訳だ」


「な、なるほど・・・だから19世紀の人が今こうしてぼくたちと同じ場所に居るんですね。わかっちゃいたけど、つくづくとんでもない事やる娘だなあ・・・」



物知りの先輩の口より語られた驚くべき情報に、半ばあきれ混じりのため息が漏れ出る。

毎度毎度の事ながら、ごくあたりまえのように時空の壁を無視するのは勘弁してほしいものだ。


ぼくは、俯いたまましくしくと小さく嗚咽を漏らすアルトリア嬢へちらりと視線を送った後、ふと浮かんだ疑問を口にする。



「・・・ところで先輩、【召喚組】の人たちってどれくらい学園に居るんですか?」


「【スカウト組】と【召喚組】でざっと5:1といった塩梅だね。―――かくいう僕もその一人さ。この寮にはもう一人紹介していない【召喚組】が居るけど、生前に覚醒者として力を磨いた彼等は前者と比べると、最初から即戦力として期待されて招かれる側面が強いんだ。中には伝承に残るような武勇を持つ人も居るよ」


「・・・マジ?」


「うん、マジ」



それはつまり―――古今東西・天下無双の英傑達がここから歩いて行ける距離に暮らしていて、あまつさえ直接言葉を交わすことさえができるという訳だ。


すごいな学園。でもなんでゴリラ。


そんなぼくの内なる疑問を察したのか、先輩はアルトリア嬢にまつわる悲劇的な、そして驚くべき事情を明かすのであった―――



今回はここまで

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