∥001-05 必殺名○屋打ち!
#前回のあらすじ:トンネルを抜けるとそこは・・・?
[マル視点]
「な・・・何じゃこりゃ~~~~っ!!???」
車種としては中型に分類される、コミュニティバス。
あちこちに補修の跡が散見されるくたびれた車内にて、ぼくは驚愕の表情を浮かべまっすぐ窓の外を指差していた。
ああ!窓に!窓に!
鈍色に輝くUFOの大群が!!
驚きのあまり尻もちをついたぼくの目の前で、未確認飛行物体どもはビュンビュンと不規則に飛び交い続ける。
UFO。
いわゆる『空飛ぶ円盤』と呼ばれる存在は、人々の噂の狭間に棲息する。
第二次大戦中は、戦闘機乗り達によって『フー・ファイター』として。
戦後から現代に掛けては、陰謀論、あるいは怪談のファクター・・・『異星人の船』として、まことしやかに囁かれた。
その形状、実体には所説あれど。
何れにせよ―――あくまで空想上の存在。
それが実体を伴って、白昼堂々姿を現すような事などありえない。
「その、筈―――なんだけど。何かコレ、本物っぽい?」
ぺたり、と窓ガラスに掌を添え、ぼくはそう一人ごちる。
車道を飛び交うUFO達は20体程で、サイズもまちまち。
目測で50cm~1m強くらいだ。
宇宙船として見るには、いささか小型にすぎるように思える。
「―――いや、そういえば。宇宙人自体があのサイズに収まるくらいのミニサイズだ、とか。そんな説を何処かで聞いたような・・・?」
そんな、胡乱な思索に浸るのも束の間。
ぼくの存在に気付いたのか、付近に居た円盤のうち数体がすいっ、と滑るように移動し、目の前に現れる。
そして、次の瞬間―――
『TuLiLiLiLi・・・!!』
「うわぁ!?」
突如、べたべたと窓ガラス一面に円形の物体が張り付いてきた。
ガラス越しに見える円形の中心には、びっしりと細かいキバらしきものが同心円状に並び、がじがじとガラスの表面へかじり付いている。
いつだったか、海の生き物を紹介する番組で見た、ヤツメウナギの口腔を想起させる光景。
そのおぞましさに、ぼくは思わず悲鳴を上げて窓際から飛び退いた。
ぺたん、と床の上に尻もちをついた後、わなわなと震える指先を窓の外へと向ける。
「お、襲ってきた・・・敵!?つまり―――ぼくにインベーダーゲームをやれってこと!!?」
なんてこった、UFOは実在したのか。
てらてらと光るメタリックなボディは伝承通り。
にも関わらず、その生態は野獣と大差のないもののようだ。
勿論、謎空間へ呼ばれる前はこんな物体、影も形も無かった筈である。
あの少女―――ヘレンはぼくの死因について、『見ればわかる』と言っていた。
そして、戻ってきたこの場所には、その言の通りに違和感全開の闖入者が存在した。
そこから導き出される答えはひとつ。
―――あのUFO達を全滅させれば、ゲームクリアーという事だ。
ごくり、と人知れず唾を飲みこむ。
見たところ、円盤の数はこの場に居るもので全てのようだ。
サイズは小型犬~大型犬程度、宙に浮かび高速で飛行する特性も加味すると、中々の難敵と云えよう。
仮に銃火器で武装していたとしても、ソロではちょっと戦闘を躊躇うような相手。
だが、こちらにはヘレンが授けてくれた『切り札』もある。
ちらり、と微動だにしない他の乗客達に視線を走らせる。
彼女達を何時までも、このままにはしておけない。
覚悟を決めるのなら、早い方がいいだろう。
意を決し、ゆっくりと立ち上がる。
―――そこへ出し抜けに、野太い男の声が飛び込んできた。
「おぉ!おんしがへれんが言うておった新入りか!」
「・・・!?」
さあ行くぞ、と意気込んだところに上がった声に、ぎくりと肩を震わせる。
おそるおそる首だけを巡らせると、いつの間にやら車内には見知らぬ男女の姿が現れていた。
数は1,2,3・・・6人。
それぞれ3人ずつ、綺麗に男女別に分かれている。
そのうち近い方の集団へ目を留めると、やたらと恰幅のいい五分刈りの青年へ視線が吸い寄せられた。
どうやら、先程の方言混じりの声は彼のもののようだ。
青年はこちらを認めると、にかっと人好きのする豪快な笑みを浮かべるのであった。
「凍てつく刻の戦場へよう来た!わしは西郷、此処に沸いた【しんぐ】共を討伐せんとはせ参じた【神候補】―――つまり、おんしの先輩ばい!!」
※2023/08/16 文章改定