∥002-19 どっきどきの同棲生活(未遂)!!
#前回のあらすじ:ヘレンやばい(確信)
「―――さて!それでは【任務】の詳しい説明はまたの機会にするとして、続いて本日のメインとなる場所へ案内しちゃいます!」
「・・・ここまでで充分びっくりさせられたんだけど、この上更に凄い所があるんだ?」
「(わくわく)」
「それは勿論超凄いですよー?何しろこれからお二人が『学園』での大半を過ごす場所ですから!その名も―――」
「ちょっとお待ちなさいですわーーーーっ!!!」
えっへん、とばかりに薄い胸を反り返らせたヘレンの発言を遮ったのは、何処かで聞き覚えのある若い女性の声であった。
周囲を行き交う人々は突然の出来事に驚き立ち止まり、同じく硬直中のぼくらで一旦目を止め、その背後に立つ人物へと視線を向ける。
視線の先、大ホールの只中には真紅のナイトドレスを身に纏い、腰に手を当て仁王立ちする麗しき少女の姿があった。
金の長髪にサファイアブルーの瞳、釣り目気味の眦を釣り上げ、北欧系らしい色素の薄い頬をわずかに紅潮させている。
見間違えようもない、あの姿はバスの中で別れた金髪少女、エリザベスのものであった。
【神候補】の一人であるという前情報のとおり―――彼女もまたここを活動の拠点としており、この場へ姿を現したのであろう。
カツカツとヒールを鳴らしぼくたちの前で立ち止まった彼女は、両手を前に組み苛立たしげな様子で中空のヘレンを軽く睨む。
派手目の美少女である彼女がそういう仕草をすると、余計に威圧感が際立って思わず尻ごみしてしまいそうだ。
「おやおやリズさん、今日もお勤めご苦労様です」
「・・・ええ御機嫌よう!でも今はそんな挨拶はどうでもいいですの。わたくし、貴女とそこの小男―――丸海人に文句がありますの!!」
「―――え、ぼく!?」
「おやおや~・・・困りましたねえ?駄目じゃないですかーお兄さん」
「―――え、ぼくが悪いのこれ!!?」
何だか知らないうちに犯人に仕立て上げられそうな雰囲気に、両手を上げ必死に無実をアピールするぼく。
その様子を何故か赤面顔で睨みつけるエリザベスは、わなわなとふるえる右手を突きつけ声高らかに糾弾を続ける。
「しらじらしいにも程がありますわ!事もあろうに私の・・・じゃなかったうら若き乙女とひ・・・一つ屋根の下で暮らそうだなんて!!」
「―――はい?」
「うらわかきおとめ?」
「ああ~~~・・・(納得)」
突然巻き起こった騒動に若干の人だかりが周囲に出来上がりつつある中、ぼくとあーちゃんの二人はきょとんと呆け顔で互いを見つめ合う。
その上空では納得顔のヘレンがひとり膝を打ち、ふよふよとエリザベスの傍へ滑空すると小声で何やら囁き始めた。
「つまり―――で―――の空きが―――」
「そ、そうだったんですの?私てっきり―――」
そのまましばし密談を交わした後、二、三うなずくと何故かがっしと力強く握手した二人は何事も無かったかのように、超イイ笑顔でこちらへと向き直る。
思い切り怪しいその様子に思わずじとりとした視線を送ると、金髪少女はぎくりと肩を震わせそっと視線を逸らした。
超怪しい。
「―――それで、どういう事なんです?(ジロリ)」
「うっ!・・・ヘ、ヘレン!説明を求めますわ!!」
「はいはーい、何を隠そう・・・これからご案内するのはここ、【イデア学園】で生活する場――学生寮――なんです!【任務】や【クラン】としての活動を除いて、最も多くの時間を過ごす訳ですから、とっても大事な場所なんですねー」
「「おお~~~(パチパチパチ)」」
思わず拍手を送るとヘレンは何故か悪そうな表情でにそりと笑う。
一方、その様子を目撃したエリザベスはこれまた何故かばつの悪そうな表情でひきつった笑顔を浮かべ、ぺちぺちと気の抜けた拍手を中空で漂う少女へ送った。
「それで―――ぼくが入る寮は何処になるんですか?」
「あたし達が暮らす場所かぁ・・・先輩先輩、どんな所か気になりますね!」
「―――そうだね!」
満面の笑顔で、未来への期待に胸を弾ませる後輩―――いや弾む程胸は無いのだけれど。
そしてその姿を微妙な笑顔で見つめる3名。
わかっちゃいたけれども、見事なまでにあーちゃんだけ後の展開を察していなかった。
―――それから十数分後。
予想通りというか何というか、梓はエリザベスがマスターを務める【クラン】・・・『Wild tails』のホームで暮らすことが告げられ、きょとんとした表情のままウッキウキでスキップする金髪少女に引きずられていった。
それを隣に浮かぶヘレンと揃ってハンカチを振り、ぼくは涙を呑んで見送るのであった。
どうかあのおっちょこちょいで忘れっぽい後輩が、迷子になったり悪いおじさんに付いて行ったりしませんように―――!
なんか投稿できてなかったので改めて投下ー。




