∥002-17 イデアって何さ!
#前回のあらすじ:レベルアーップ!
「【魂晶】を取り込んで・・・レベルアップ!!」
レベルアップ、何とも胸躍る言葉である。
思わず握りしめた拳にも力が入ろうと言うものだ。
熱い眼差しでヘレンの姿を見つめると、エセ女教師ルックの彼女は無言のまま微笑んだ。
高鳴る鼓動を抑えきれず、あらん限りの期待を込めぼくは口を開く。
「ぼ、ぼくのレベルは・・・!?」
「お兄さんはもっと稼いでから来てくださいね?(ニッコリ)」
「なん・・・だと・・・?」
現実は非情であった。
「では本題に戻りますねー、『orz』の姿勢でうなだれてるお兄さんもそのまま聞いてて下さいね?何故【イデア学園】なのか、という事についてです。メルちゃんやモモコさんのような【神使】は皆さんの化身、すなわち別の個でありながら、本質的に『同じ』存在です。この『本質』―――あらゆる事物に宿る、形而上学的な要素――本質――を指し、これを『イデア』と呼びます」
「それって、学園の名前と同じ・・・?」
「そうですねー。その『イデア』がどんなものかと言いますと・・・言語や認識を越えた先にある唯一絶対の『本物』のようなモノだとお考えください。例えばリンゴを例に上げれば、そこに宿る要素は『赤い』『丸みを帯びた』『汁気が多い』等々、多岐に渡りますね?それと同じようにお二人にも様々な要素が宿っています。ですが、あの通過儀礼をクリアしたお二人にはヒトであると同時に『神』としての要素が宿っているんです。・・・ですがそれは未だ芽の出ない、か細いものに過ぎません」
一旦言葉を切り、後ろを向いたヘレンはホワイトボードにディフォルメされたぼくとメルの絵を、その二つの間に『=』を書き加え、その両方から線を引っ張った先に『神』と更に書き加えた。
彼女が言及した偉人とは、恐らく古代ギリシャの学者プラトンの事だろう、確か世界史の授業に出てきたと思う。
「先程例に上げたリンゴには色や形、種類など多種多様なバリエーションが存在しますが、『リンゴとはどういうものか』でおおむね人々の間に通ずる共通認識が存在します。これを単に言葉が通じるからとか、流通する品種が限られてるからだとかではなく、唯一絶対の本物――リンゴの『イデア』――が人々の奥底に存在するからなんだ!・・・っと、そういう考え方があるんですねー。―――ではこれを、【神候補】に置き換えてみましょう」
ホワイトボードには更に、現在描かれているディフォルメ絵すべてから延びる矢印が追加され、その集合地点に二重丸で囲われた『イデア』が書き加えられる。
・・・話が哲学的になってきたせいか、そろそろ理解が追いつかなくなってきそうだ。
眉間を指でマッサージしつつふと嫌な予感を感じ取る。
恐る恐る隣を見ると、案の定梓が目を回したまま頭の天辺から煙を上げていた。
「【神使】は【神候補】の持つ要素を抽出して具現化させた存在です。これは皆さんの化身であり、更には本質により近い存在である事を意味します。神を目指すということは、霊的に存在を昇華させ、より本質に近いところを目指すことに他なりません。なので私はその為の場所に、目指すべき到達点の名前を付けました」
「そ、それで【イデア学園】・・・と?」
「ですです。まあ・・・ここまで長々と語っちゃいましたが、最初にお会いした頃説明したとおり『【神使】を鍛えてけばいつか神様になれるよー』位の認識でもオッケーですよ?」
「・・・急にぶっちゃけたな!」
「まあ、結局やるコトは変わんないですしねえ」
そう言うと、インチキ女教師ルックからいつもの純白サマードレスへ早着替えしたヘレンはへにゃりと笑顔を浮かべるのであった―――
今回の投下はここまで。




