∥002-16 なんで学園?
#前回のあらすじ:【夢世界】のルール:眠る前に身に着けていた物を持ち込める
「はいはーい、ぼくも質問いいですか?」
「どうぞどうぞ」
梓の質問がひと段落付いたことを確認した後、おもむろに挙手したぼくにヘレンは笑顔で快諾してみせる。
聞いておくべき事項は幾つかあるが、次に聞いておくべきはこれだろう。
「えーとじゃあ・・・何で【イデア学園】なのかな、って」
「ふむん、それは『学園という体裁を取った理由』と『イデアという言葉の意味』の二点に対するご質問という事でいいですか?」
「あっはい・・・だいたいそんな感じでお願いしまっす」
ついついはしょり過ぎな感じの質問になってしまった・・・と思いきや。
まさかの質問の意図を汲み取った上での念押しが入り、ぼくは若干引き気味のままこくこくとうなずく。
それを目にした少女はにっこりと微笑むと、ぱちんと指を鳴らし真っ新になったホワイトボードへと図解を加えつつ説明を始める。
「えー・・・オホン。お二人に限らず、【神候補】としての素質を持つのは多感な少年少女・・・だいたい十代ぐらいの年代の方が多いんですよ。勿論、例外は居ますけどね?まあそれはともかく、全体の8割強はその位の層が占めてるんで、いっその事学園という体裁を取ることにしたワケです」
「そうなんだー」
「確かに・・・言われてみればバスで別れた6人も、ここに来るまでに見た人たちもそのぐらいの背格好だったな」
約一名、国籍年齢不詳の男が混ざっていた気もするが、どうやら彼女が語った通り【神候補】はいわゆる少年少女がなるものらしい。
それに加え、【神候補】達が修行する場である事も、そこが『学園』と呼ばれるようになった理由かも知れない。
「んで、次の理由なんですけど・・・丁度いいですので、お二人には【神使】を出して貰っていいですか?」
「【神使】を・・・?」
思わず漏れた疑問の声に、サマードレス姿・・・改め、伊達眼鏡に白衣姿の少女はにっこりと微笑んで応える。
その笑顔の真意を測りかね当惑するぼくらだったが、特に拒否する理由も無いので互いに自らの分身へ心の中で呼びかける。
落ち着いた雰囲気の洋間が一瞬、白光に包まれる。
すると、ぼくの隣には碧く輝く不定形の水塊が、そして後輩の足下には縞模様のある褐色の羽を持つ一羽の鳥がちょこんと佇んでいた。
「バスで一度見たけど、それがあーちゃんの・・・?」
「うん!モモコってゆーんだよ、ほら、先輩に挨拶して?」
「・・・(ぷいっ)」
「あ、あれっ・・・?モモコー、モモコやーい・・・?」
「あらら、どうやら梓さんの方は制御にいささか難ありって感じですねー?」
ご機嫌斜めなのか、呼びかける梓に知らんぷりを決め込む彼女の【神使】。
無視され続け涙目になってしまった自らの主をちらりと横目で確かめると、やれやれといったふうに頭を上げ、ぼくに向けカーテシーのように片翼を広げて見せた。
「【神使】とのコミュニケーションは今後、要改善・・・って所ですねえ。では本題です、まずはちょっと失礼しますねー」
「これは・・・【魂晶】が・・・?」
モモコの前でヘレンが手を掲げると、後輩の髪留めに嵌められた【戴冠珠】より無数の宝玉が飛び出し、煌めきを帯びて周囲を漂い始める。
何が起こるのかと固唾を飲んで注視していると、空を舞う粉雪のように渦巻く【魂晶】がひときわ輝くと、あっという間にモモコの小さな体へと吸い込まれていった。
まばゆい光が収まり、残されたモモコの毛並はうっすらとオーラを帯び、どこか存在感を増しているように思える。
説明を求め視線が集まった先では、ヘレンがインチキ女教師ルックのままドヤ顔で一人うなずいていた。
「レベルアップ成功!ですね。今起きた出来事を説明しますと、彼等【神使】は高次元世界の要素を含む物質・・・要するに【魂晶】を一定量取り込むことで存在進化することができます。これが【神使】を強化する方法であり、みなさんが神様になる為の方法のひとつです」




