∥002-15 衣装はバナナに入りますか?
#前回のあらすじ:空色のソファーふたたび
巡回バスでの戦いの後。
【神候補】としての協力を要請されたぼくは―――二つ返事でそれをOKした。
理由は幾つかある。
先んじて協力を表明したもう一人の【神候補】―――
普段から何かと危なっかしい後輩が見ていられなかったのもその一つ。
次に、【神候補】としての活動は主に睡眠中―――
【夢世界】と呼ばれる、一種の異界にて行われるという情報がヘレンから齎されたからだ。
「以前の説明のおさらいですが、我々の拠点である【イデア学園】は【夢世界】に場所を間借りして造ったモノです」
「改めて聞くと信じられないような話だけれど・・・どうやって夢の中の土地なんて手に入れたの?」
「そりゃまあ、こちら側の偉いヒトにお願いしたり色々ですねえ」
「えらいヒトって、誰なのかな?」
「神様です」
「「・・・神様!!?」」
ヘレンからもたらされた驚愕の事実に、思わずぼく達二人の声がハモる。
「神様のタマゴが居るんですから、そりゃ神様だって居るに決まってますよ。ここを造るのに協力してくれた神様はそのまま【イデア学園】に住んでますから、いつか会う機会が来ると思いますよ?」
「マジですか・・・」
眼が点になったぼくらが零した一言に「マジです」と応じつつ、おすまし顔のヘレンは何処からともなく取り出した伊達眼鏡に白衣でインチキ女教師スタイルへと変身した。
更に取り出したホワイトボードへ図解を加えつつ説明を続ける。
「話を戻しますよー?【イデア学園】はここ!【夢世界】に存在します。こちら側は文字通り精神の世界なので、肉の器に宿った状態と比べて霊的側面の働きがダイレクトに私たちに影響を及ぼします。わざわざ神様の修行場所をこんな所に作った理由の一つでもありますし、夢の中で活動するお蔭で現実世界への影響を最小限に抑える結果にも繋がります。・・・こちらはお兄さんにとって重要なポイントですよね?」
そうなのだ。
ぼくが彼女への協力を決めたのは、その活動に時間的な制約がほとんど無いことが主な理由と言っていい。
うちは父子家庭なので、家事に掛かる時間が削れるのは大いに困るのだ。
父ちゃんの家事能力はハッキリ言って期待できないので、毎食コンビニ弁当だとかゴミ屋敷だとか、笑えない結果が待っている可能性が極めて高い。
その点、寝て起きるまでの間に済ませられるのであれば、危険性はともかく実生活にかかる悪影響は最小限に済ませられるだろう。
更に危険性について言うなら、あの人食いUFO・・・【彼方よりのもの】の性質を聞く限りでは、いつ何時自分や、身近な親族知人友人が人知れず犠牲になったとしてもおかしくは無い。
知ってしまった以上は、危険を承知で協力せざるを得ないのだ。
少なくとも、ぼくにとってそれは当然のことだった。
無言のまま力強くうなずくぼくの様子を確かめると、ヘレンは満足したように微笑みホワイトボードへと向き直る。
「ですので、昼は高校生、夜・・・というより夢の中では神様のタマゴとして、ゆくゆくは本物の神様となれるようお二人には切磋琢磨して貰います。【イデア学園】はその活動の拠点として、更には他の【神候補】とのコミュニケーションの場として大いに活用して貰いたいですね!・・・さて、ここまででわからない所はありますか?」
「はい!はい!!」
「では梓さんどうぞ」
「服は・・・どうすれば持ち込めるんでしょうか!」
颯爽と質問者第一陣に立候補したのは、我らがアホの子・・・ではなく、後輩の少女であった。
つい先程半裸を曝しただけに真剣な面持ちで答えを待つ彼女に対し、ヘレンは何も言わずにっこりと微笑む。
「もしかして―――次からは今の衣装にオートでお着替えできるとか!」
「そんな便利な機能ないです」
「そんなー(´・ω・`)」
意を決して放った質問をバッサリ一刀両断されがっくりとうなだれる後輩。
ヘレンは苦笑しつつ『orz』の姿勢でうなだれる少女へ、実にシンプルな解決策を提示するのであった。
「代わりと言ってはナンですが、眠りに入る前に持っていた物でしたら、こちら側へ持ち込む事は可能ですよ?お布団の上に服を一式置いてから眠る、なんて対処法を取ってる人も居るみたいですねえ」
「な、なるほど・・・!」
絶望の表情から一転、満面の笑顔を浮かべた少女は『こちら側』へ持ち込む衣装の算段でも立てているのか、うつむいたまま指折り数えつつ考え込み始める。
そんな彼女の姿を横目に眺めつつ、一方ぼくはこの『対処法』について少し異なる角度から考察していた。
持ち込めるのは『眠りに入る前に持っていた物』―――
ならば、別に衣服に限らず持ち込もうとする輩が居てもおかしくはないだろう、と。
ドリームランドの設定はクトゥルフTRPGを参考にしています。
今回の投下はここまで。
2019/08/17
一部の文章を修正しました




