∥002-13 戦慄のブルー
#前回のあらすじ:ラ○ュタは本当にあったんだ!
右手に目を向ける。
進行方向へ向けて伸びる廊下には一定間隔で配された燭台らしき窪みが続き、その間には焦げ茶色の木製扉が立ち並んでいる。
左手に目を向ける。
外に面するこちら側には採光用の窓が口を空けており、差し込む陽光は落ち着いたクリーム色の漆喰壁に浮かぶ微細な文様を照らし出している。
ここは【イデア学園】―――その構成要素となる建造物の内部・・・らしい。
先程の一幕の後、ヘレンに促されるまま歩き続けたどり着いたのがこの場所だ。
「さあ、着きましたよ~」
「おっ?」
そうこうしている内に目的地へたどり着いていたのか、頭上から掛けられた声にぼくは足を止める。
サマードレス姿の少女が浮かぶ横には、これまでの道中でも目にした木製の扉が鎮座していた。
「ここに入ればいいの?」
「ですです」
「それじゃお邪魔しますよ・・・っと。しかし、手触りといい存在感といい、これが夢の中とはまるで思えな―――」
「おろ、先輩?・・・先輩の声だ!!」
ここが目的地で間違いないのかヘレンへ視線を送り、彼女がうなずくのを確認した後に扉のノブへと手を掛ける。
夢の中であるはずのこの場所であるが、にも関わらず握りしめるドアノブからはしっかりとした手ごたえが返ってくる。
その存在感にぼくが内心舌を巻いていると、ドアの奥から何やら聞き覚えのある声とドタドタと迫ってくる音が聞こえる。
それに気付くと、ぼくは慌ててその場から飛びのいた。
「やっぱり先輩だー!チッスッチッス元気してましたか?今日はいい天気ですよね!夢の中なのに!!」
「うわびっくりした・・・って、テンション高いなおい!?」
バーン!!と扉から勢いよく飛び出したのは、相も変わらず姦しい後輩―――羽入梓の姿だった。
何となくそうなる気はしていたが、予想よりもずっと早い合流となったようだ。
「・・・まあ、それはいいとして。そんな事よりも―――」
「どったの先輩?」
「・・・服」
「ふく?」
ぼくはそっと目を逸らすと、極力その姿を視線に入れないように開け放たれたままのドアの中をゆっくりと指差す。
その動きを目で追っていた梓はしげしげとぼくの指先を眺めた後、きょとんとしたまま小首を傾げて見せた。
「さっさと着替えて来なさい!!はしたないですよ!?」
あーちゃんはパジャマ姿だった。
しかも着替え途中だったのか、アニマルプリントの施された上着に対し下はすらっと伸びた健康的な生足が晒されている。
そして一瞬見てしまったが―――青だった。
自分の惨状を確かめている後輩の様子が見えないよう、必死に背けた頬が自然と紅潮するのを感じる。
逸らした先の視界にひょっこりと顔を出したヘレンがにそりと笑うと口の両側に手を当て、「ち」「か」「ん」と声を立てずに口を動かした。
無言のまま拳を振り上げるジェスチャーでそれを追い払うと、おっちょこちょいの後輩が慌ただしく部屋の中へ戻ってゆく音をBGMに、ぼくはしばしの間頭を抱えるのだった―――
短いですが今回はここまで。




