∥002-08 ここらで一つ場面転換をば
#前回のあらすじ:だいじなもの・戴冠のトルクを てにいれた!
「―――さて、よろしいですか?」
ぱん、と音がした方へ視線をやると、ヘレンが掌を合わせた姿勢でにっこりと微笑んでいた。
「お二人とも、いきなり色々な事が起きてさぞかし混乱してると思います。疑問に思う事や質問したい事、いっぱいありますよね?」
「そりゃ、まあ・・・」
「何かあったっけ?」
「・・・梓さんの反応が鈍いのはさておき、落ち着いてお話できるよう場所を変えさせてもらいますねー、ちょちょいのちょいっ、と!」
ぱちん。
小さな指が打ち鳴らされるのと、視界に入る景色が落ち着いた雰囲気の洋室に様変わりしたのはほとんど同時の出来事であった。
見るも無残な有様になっていたバスは、毛足の長いペルシャ風絨毯と木製の執務机、向い合せに二つ並んだ空色のソファーへと変わり果てている。
背後へ振り向くと、四角く切り取られた青空の下、2羽の小鳥がゆっくりと横切る様子が遠目に見えた。
「・・・・・・(あんぐり)」
「という訳で、私のお城へようこそ~、そうかしこまらず楽になさってくださいなー」
「わーい!」
鳩が豆鉄砲を喰ったような表情で呆けるぼくを尻目に、警戒心なぞ欠片も無いといった様子の後輩はトテトテとソファーへと向かう。
そのままぽすんと腰掛けると、サイドテーブルに置かれていた焼き菓子らしきものをパクつき始めた。
満面の笑みを浮かべひたすら咀嚼する姿はげっ歯類系小動物のようだ。
「―――じゃなくて!寛ぎすぎでしょ!?」
「もぐ?」
「あはははー・・・」
たっぷり溜めを作り喰い気味に入ったツッコミに、宙に浮かんだままサマードレス姿の少女があいまいな笑顔を浮かべる。
当の本人はと言えば焼き菓子が気に入ったらしく、視線をこちらに向けつつも両手に確保した菓子をしっかと握りしめていた。
その姿にぼくは小さくため息をつくと、ヘレンに促されるまま後輩の隣へ腰を下ろす。
小ぢんまりとしたフォルムながら、空色のソファは体重を分散させつつしっかりと受け止めてくれる。
「結構いいモノを使ってるみたいですね。それで、ええと―――」
「はい、それではここらでひとつ、おさらいと行きましょうか」
そう告げると、向かいのソファの上に浮かんだまま、褐色少女はぼくたちを交互に見つめるのであった―――




