∥002-07 そうびしなくちゃ やくにたたないぜ!
#前回のあらすじ:格差社会の闇を見た!
「・・・ほいっと!てな訳でして、今後お兄さん達には肌身離さず、コレを身に着けてもらいますねー」
あれから数分後、ぼくたちの前には先程とは若干姿を変えた【戴冠珠】が浮遊していた。
鈍く輝く白銀色の金属環の中央部分には格子模様に彩られた台座があり、そこには結晶を飲み込んだ石珠が鎮座している。
全体の直径は9cm足らずで、環の内側にはうっすらと直線で構成された文字らしき刻印が見て取れた。
おそるおそる手を伸ばすと、ひんやりとした手触りの金属環は羽毛のようにふわりと掌へと収まった。
その底知れない存在感とは裏腹に、ほとんど重さを感じさせない。
「お兄さんはトルク型ですね、首に着ける場合が多い装身具ですけど、これは心臓に近い腕の付け根にはめて下さいな」
「となると、左腕に―――?わわっ」
制服の袖をめいっぱいまでめくり上げ、掌に載せたトルクを近づける。
するとひとりでに金属環が蛇のようにしなり、またたく間にしゅるりと腕へ巻き付いていた。
思わず2,3歩後ずさるが、左腕の付け根にぴたりと収まったトルクは不思議と違和感が無く、じんわりと仄かな熱を帯びている。
それをしげしげと眺めていると、服の端をちょいちょいと引かれる感触にぼくは顔を上げた。
そこには、掌に縞瑪瑙の髪留め(やはり中央には【戴冠珠】がはめられている)を載せ、後輩の少女がはにかんだように微笑んでいた。
「ね、ね、先輩!これ付けてくれませんか?」
「ぼくが・・・?」
装飾環を受け取ると、あーちゃんはくるりと後ろを向いてかがんで見せる。
ぼくは一つ頷くと、一つ結びになっている彼女の艶やかな黒髪を持ち上げ、ぱちりとその根本へ環状の髪留めをはめた。
トレードマークとなっている朱色のリボンの下では、新たな主人の元に収まった【戴冠珠】が白々とした輝きを放っている。
それを手鏡で確認すると、少女は向日葵のような満面の笑みを浮かべた。
「ありがとっ!」
「どういたしまして、よく似合ってるよ。・・・あ、でも―――」
「ほむ、どしたの先輩?」
「肌身離さず身に着けるにしても、学校へ行く間は目立たないようにしないとだなぁ・・・服装検査で没収されたりしたら目も当てられないや」
「あっ」
言われてみれば、と二人して顔を見合わせる。
どうしようかと顎に手を当て首を捻っていると、そこへ救いの手を差し伸べる者が現れた。
ヘレンだ。
「という訳でヘレンちゃんです!何を隠そう、【戴冠珠】とその台座には隠蔽の力もありましてー、【未覚醒】のヒトにはそれと認識することが出来ないようになってるんですねー」
「・・・おお!」
「と、言う事は・・・?」
「付けてても風紀委員に没収!・・・なんて事にはならないって訳です。もちろん【神候補】同士ならちゃんと認識できるのでご安心くださいな」
「「おおおーーー(ぱちぱちぱち)」」
そうしてぼくら二人が拍手を送る中、えっへんと盛大にふんぞり返った褐色少女は白い歯を見せるのであった―――
今週の投下はここまで。
 




