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お釜大戦  作者: @FRON
第八章 ゼロの決死圏!!
342/343

∥008-24 来訪者ショゴス

#前回のあらすじ:正体不明のシング、地上へ



[マル視点]



『―――()()()



スピーカー越しの男の声が、『()()()』が来たことを告げる。

慌てて双眼鏡を覗き込むと、氷原の向こうに立ち上る幾筋もの雪煙が視界に入った。


倍率を上げて、更によく目を凝らす。


凍れる大地の向こうに白くたなびく雪煙、それを従え、奇怪な生命体がひしめいていた。

鉱物とゲル状の物質がない交ぜになった肉体、うなりを上げて回転する無限軌道(キャタピラ)()()()と陽光を受けて輝く砲塔。


見間違える筈もない、怪生物ショゴスの一団である。


先程も一度目にした姿だが、その数は()()()2()0()()、倍以上に増えている。

前回の連中は先行偵察だという事だから、おそらく今回が本命、敵の主力という事なのだろう。


蠢く原形質の集団は脇目も降らず、()()―――昭和基地の南側を目指している。

だが、連中には数の他にもう一つ、無視するわけにはいかない相違点があった。



「で、()()()・・・!!」



そう、()()()()のだ。


遠目にも、前回の個体よりはっきりと大きいことが見て取れる。

前は4~5メートル程のサイズだったのに対し、今回は優にその二倍、10メートル強はあるようだ。


前者が()()()()()とすれば、後者は1()0()t()()()()()といった所か。


基地職員達に聞いたところ、奴らはここからはるか南に見える巨峰、狂気(マウント・オブ)山脈(・マッドネス)に棲んでいるのだという。

閉鎖された環境のそこには無数のショゴスが犇めいており、時折、群れからあぶれた個体が()()()()外に出てくるらしい。


なんだか若い熊の巣立ちのようなエピソードだが、それで喰い殺されるかもしれない側としてはたまらない。

一刻も早く、威嚇射撃でもなんでもして追い返さねばならない訳だ。


そんな訳で、ぼくらは昭和基地の皆と一緒に迎撃態勢を整え、今か今かと待ち構えているのだった。


基地の南側一帯には現在、ぼくたち【学園】側と現在動けるほぼ全ての基地職員達が、この場に陣取っている。

要塞化された基地は随所に防壁や固定銃座(タレット)が備え付けられており、その間を資材や弾薬箱を持った職員達が走り回っていた。


見たところ準備万端、いつでも来い、といった雰囲気だが・・・敵も敵で、一筋縄では行かなそうだ。

その()()の一旦を、ぼくは双眼鏡の視野に収めたまま、()()()と唾を飲み干す。


氷原を突き進むショゴスの一団の最奥、そこには他の個体より一際目立つ、()()()()()()()()が見え隠れしていた。

その巨体―――推定するに、()()()2()0()m()()()


他の個体よりあまりにでかいそいつは、途方もない地響きを立てながら、集団を追い立てるように悠々と進んでいた。

あたかも、第二次世界大戦時に存在したという、陸上戦艦(マウス)を髣髴とさせるジャンボサイズだ。


レンズ越しに、無数の目が()()()、と赤い眼光を放つ。



「あいつ、こっち見て・・・!?」



()()()()()、と思った瞬間、背筋に冷たい棒を通されたような悪寒が走る。


巨大ショゴスの前部がゆっくりとせり上がり―――()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

黒光りする()()()はゆっくりと旋回し、()()()とこちらへ照準を合わせる。


ぼくは慌てて双眼鏡から視線を外すと、陣取っていた高台から飛び降りた。

そのまま一目散に逃げながら、手でメガホンを造って大声を張り上げる。



「ほ・・・()()()()()()~~~っ!!!」


『―――状況は把握している。こちらも、丁度()()が出来たところだ』


「じ、地面の下から・・・()が!?」



スピーカー越しに響く、低い男の声。


その直後、基地外周一帯に()()()()()()()()()が訪れた。

地面がせり上がり―――()、厚い雪の層を割って、()()()()()()()()()()()


みるみるうちに見上げるような高さにまでせり上がった防壁、続いてその両側にも同様の壁が現れ、視界を埋め尽くしてゆく。

あっと言う間に、基地とショゴス集団の間には()()()()()()()()()()()()()()()


突然の出来事に驚く間もなく、巨大ショゴスの砲撃が防壁へと衝突する。

()()()()()()()、そして()()


あまりの振動に()()()()()()()()()ぼくは、上下さかさまの姿勢のまま着弾したあたりの壁へと目を向けた。



「や、()()()()・・・()()?」



()()()()と煙が立ち上がる中、巨砲の直撃を受けた防壁は辛うじてその形状を保っていた。

とはいえ、着弾点のあたりを中心に放射状の亀裂が生じ、いまにも崩壊しそうな様子だ。


このまま次、同じ攻撃を受けたらと思うと、背筋が()()とする。

そうこうしているうちに、件の防壁には()()()()()が生じようとしていた。



「壁のヒビが、()()()()()・・・?」



結晶状の物体が、防壁の基部から急速に上へ向かって延びてゆく。

ボロボロだった表面は氷のような青白い結晶に包まれ、無残な亀裂はすっかり目立たなくなっていた。


見る見るうちに、防壁全体はすっぽりとコーティングされてしまう。

損傷する前にも増して厚くなった壁は、ぱっと見、強度の面でも問題なさそうだった。



異星(ヤディス)技術を使った特注の補修材だ。この程度の損傷であれば、数秒もあれば塞ぐ事ができる。勿論、()()()()()()()()だ・・・使()()()()だがな』



巨大ショゴスに遅れて、他の個体からの砲撃が防御壁へと到達する。

()()()()()()と、重い音が立て続けに響いた。


しかし、その威力は壁を破るには至らず、表面に軽い損傷を作る程度であった。

先程補修された壁も同様、何事もなかったように聳え立っている。



「異星技術、って事はこれ・・・()()()()の?」


『そうだ。この()()()と同様、我々は()()()からの技術提供を受けている。・・・尤も、連中にとってはこの程度、10年遅れの()()()()()に過ぎないようだがな』


「・・・?」


「最新技術の結晶は、南極に持ち込まないって決まりになってんだよ。要するに、()()()()だな」


我猛(ガモウ)さん!」



久我島(くがしま)の言葉にひとり首を傾げていると、背後から()()、と肩を叩かれた。

驚いて振り返ってみれば、赤銅色に日焼けした青年が白い歯を見せている。


基地職員の一人であり、先刻の襲撃では目覚ましい活躍を見せた我猛青年だ。



「鹵獲・・・って、()()()()()?」


「そいういう事。奴らが今、使っている武装があるだろ?あれは全部、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ。無論、ここもそうなる可能性はゼロじゃない。そうなった場合、後ろのラインで侵攻を食い止める為の対策って訳よ」


「この壁や、久我島さんのアーマーも、()()使()()()()()()()()()・・・ってコト!?」



ぼくの言葉に、黒角の青年はゆっくりと頷いて見せる。

その瞳には、静かな()()()()が燃えていた。


・・・彼らは自分が敗北した後の事も、()()()()()()()()でここを守っている。


想像を絶する()()、そして()()()だ。

年代的にはぼくとそう変わらないだろうに、一体何が彼を突き動かすのだろうか?



「ま、オレがそうはさせねぇけど?武装とは違って、()()()()()()()らしいからな~」


「・・・どういうコト?」


『連中は、脳から()()()()()()()()()()()()()()()らしい。だが、異能者から能力をコピーできた前例は、()()。・・・南極沿岸部の調査基地は秘密裏に、世界各国から()()()()()()()()防衛に当たらせている。ここも()()()()()()()、だ』


「要するに。オレ達自身が人類の明日を守る、絶対防衛ラインって事」



自慢げに、防寒着に包まれた胸を張る青年。

それに対し、若干()()()()()()、といった様子を声に滲ませる久我島。


今の言葉が事実なら、彼は文字通りその身をとして()()()を、()()()()()()()()()()()を守っている事になる。

敵に奪取され、使われるかもしれない兵器を補う形で、南極の防衛を担う異能者達。


()()()()()()()()()()の象徴が並び立つ光景の理由が、今新たに明らかになった。



「ま、最強のオレ様が居ればあの程度の集団?()()()()()と追い返してやるってモンよ。おやっさんも、作戦上の優先度はオレより()なんだからさぁ~?安心して守られててくれよな?」


『ふん、あまり調子に乗るなよ・・・青二才が』



低い声で唸る久我島に、逞しい拳で()()()、とアーマーの表面を小突く我猛。

一触即発、といった発言の内容とは異なり、その声色には怒りの感情は見られなかった。


勝手知ったる仲だからこそ出来る、()()()()()といった所だろうか。



「絶対に、負けられないですね・・・!」


『ああ。・・・お前たちの力も、期待している』


「ま、適当に肩の力は抜いておけよ?―――さて、そろそろ()()()()()()かね」


『連中との距離が1kmを切った。・・・()()()



久我島の言葉につられ、防壁の向こうへと目を向ける。


巨大ショゴス以外では無駄と判断したのか、先程から防壁へ降り注ぐ砲撃の雨は止んでいる。

代わりに、遠く聞こえていた地響きは、もう()()()()にまで迫りつつあった。


より接近しての、集中砲火で守りを破る算段だろうか。

ここまで敵の攻撃に耐えた防壁も、敵に取りつかれてしまえば恐らく、()()()()()()()()だろう。


()()()()()()()


ショゴスの集団が到達するまであと、僅か。

ぼくらは互いにうなずくと、それぞれの持ち場へ向けて走り出すのだった―――



今週はここまで。

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