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お釜大戦  作者: @FRON
第八章 ゼロの決死圏!!
327/342

∥008-09 Aチーム・怪物探索班の様子

#前回のあらすじ:ここまで来て戻れだって!?



[(かなえ)視点]



「ソナーは相変わらず()()()ッス。そっちはどうッスか?」


「ぜ、前方まっすぐの位置から動いてない・・・()()()、です」


「了解だ。では、引き続きこのまま前進するぞ。()()()?」


「え?えっと、その・・・」



磁針が示す方向を口にすると、即座にそんな質問が飛んでくる。

『伏龍(フクリュウ)盤』(バン)に手をかざしつつ、白髪の少年は困ったように首を巡らせた。


―――()()()()()()()()()()()()

尻すぼみになって消える少年の言葉を補足し、代わりに応えてくれる友人たちは今、この場に居ない。


壁に張り巡らされた配管、視界の端を()()()()()とよぎるペンギン水兵、クルー達から向けられる視線。

流れて行く視界の中、ボクは無意識に普段、一番近くから見守ってくれる()()()()姿()を求めていた。


ここは潜水艦ヴィリー(Willy)号の中、住み慣れた【揺籃(ようらん)寮】ではない。


いつも朗らかな()()()()も、飄々としながら不思議な安心感のある()()()()()も、ここには居ないのだ。

ボクは今、誰にも頼らず()()()()()()()()()()()()()ならない。


それがたまらなく―――()()

真剣な眼差しに射すくめられて、ボクはどうしていいのかわからず、続きの言葉を呑み込んだ。


―――艦内にヘレンちゃんが現れた後、ボクたちは2()()()()()()を突き付けられた。


このまま()()()()()()()()か、それとも引き返して、()()()()()()()()()()()()か。

マルさん達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()


寅吉(トラキチ)さんをはじめ、戦闘スタイルが海中に向かない人達を中心に、この場から離れた形となる。

残るぼくたちは海中を探索し、()()()()を見つけ出すのが役割だ。


シートに座るぼくのひざの上には、マルさんから譲り受けた『()()()』が載せられている。

それを中心に、淡く輝く『伏龍(フクリュウ)(バン)』が()()()()と、空中に光の軌跡を描き出していた。


中央にある大きな光点が、()()()()()()()

そして、進行方向はるか先にある赤い光点が、先程遭遇した()()()()だ。


更には、大きな光点を両側から挟み込む()()()()()()()も、盤の上には描き出されていた。

()()()』とこの艦の()()()、その二つを『伏龍の盤』とリンクさせて、出力した結果が()()だ。


潜水艦ヴィリー号は現在、巨大な棚氷に生じた亀裂(クレバス)の隙間を進んでいる。


一歩間違えれば、氷壁に衝突しかねない危険な状況。

しかし、ボク等を載せた艦は危なげなく、狭く入り組んだ隙間を()()()()と進んでいた。


視覚化されたソナーのお陰で、衝突を回避する適度な位置を保ち続けている結果だ。

これだけでも多大な功績なのだが、当の叶少年はそれを()()()()()()()()()()()()()


それどころか―――彼の内心は、()()()()()()()によって埋め尽くされていた。



(今からでも、ヘレンちゃんに頼んで地上へ向かった方がいいんじゃ?どうせ、ボクなんかに出来る事なんて、()()が知れてるんだから・・・)



そんなネガティブなモノローグに、際限なく気分が落ち込んでゆく。


白髪の少年は己の内心を表すように、()()と視線を伏せた。

こうなった発端は、先程のやりとりがきっかけだ。


自身に向けられた問いかけに答えられず、黙りこくったまま無視してしまった。

それが相手に悪印象を与えたかどうか、臆病な少年は確かめる勇気を出せず、()()()()()()()()()()に陥っていたのだ。


今からでも、少女艦長の言葉にきちんと答えたほうが良いのではないか?


だが―――それを言い出す勇気が出ない。

怒鳴られ、叱責されるのが恐ろしい。


実際はそんな事は無いのだが、病弱な身体に生まれ育ってきたこれまでの17年間が、少年の臆病な心を()()()り形作ってしまっていた。

彼の言葉を待っていたクルー達も、その様子がおかしいことに気付き、顔を見合わせ始める。


―――()()()


「もーっちろん!このまま全速前進、れっつごーだよ!!・・・ってコトでいいよね、()()()()()()?」


「えっ?え・・・っと」



鬱々とした気分を吹き飛ばすような元気のいい声が、唐突に横合いから上がる。

驚いてそちらへ視線を向けると、隣のシートに座る(あずさ)が丁度、勢いよく右手を振り上げた所だった。


ルビーのような瞳を瞬かせると、叶はおそるおそるといった様子で口を開く。



「その。ぶ、ぶつかると危ないので、速度は控えめ・・・で」


「あ、そっか!壁のこと忘れてたや、()()()()()()



そう言うと、ポニーテールの少女は()()()と舌を出して破顔した。

()()()、と太陽のような笑顔を咲かせる目の前の少女を、ボクは()()()()()()を見るような気分で見つめる。


―――実際、梓さんは()()()()()()だ。


彼女はマルさんと特別親しく、よく【揺籃寮】にも訪れる。

高身長でファッションモデルのようなスタイルの彼女は、マルさんと二人並ぶとまるで年の離れた姉弟のようだ。


だが、実際は彼女のほうが()()()()なんだそうだ。

始めはその、何かとエネルギッシュな振舞いに戸惑わされたものだが、今ではどうにか緊張せずに接する事ができるようになった。


終始明るく、賑やかな彼女。

その在り方はボクとは()()()だけれど、かえって()()()()()()()のだ。


そんな彼女を見つめていると、不思議と()()()()()()()()()()()()()ことに気付く。

―――あれだけ騒いだ弱気の虫は、何時の間にかすっかり()()を潜めていた。


平静を取り戻したぼくに、白い歯を見せる少女は薄い胸を反らすと、こう言うのだった。



「だいじょーぶ!さっきの()()がまた来たって、あたしが()()()()!って追い返してあげるから!!おとーとクンは自信を持って、みんなを導けばいいんだよ」


「ボクが、()()・・・?」


「そうそう」



()()()、と再びおひさまのように笑う彼女。

それを前に、ぼくは()()()()()()を見るように目を細めた。


―――ゆっくりと、視線を上げる。

そのまま、()()と会話を見守る乗員たちの顔を、順番に見つめて行く。


()()()()()の軽快そうな少年。

穏やかな眼差しが安心感を醸し出す青年。

筋骨隆々で一見怖そうに見えるが、以外に親しみやすい青年。


艦を取り仕切るクルー達から集うその視線には、少し心配するような()が含まれていた。

先程恐れていたような、()()()()の感情など微塵も感じられなかった。


これまで辛抱強く待ってくれた彼等に対し、感謝と申し訳ない思いが胸にあふれてゆく。

そうだ―――()()()()()()()()()()()()んだ。


役不足かも知れないけれど、力不足かも知れないけれど。

今はこのぼくに、潜水艦の行く末が求められている。


何もせず失望されるより―――()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()

小さくて大きい、()()()()のように。



「―――進行方向はこのままで。ツェツィーリエ(Zäzilie)さん、索敵に変化があれば・・・ボクがすぐに、お知らせします!」


「っ・・・!()()()。了解したぞ」



つい震えそうになる声を振り絞り、湖のような色の瞳を真っすぐ見つめながら、そう伝える。

少女艦長は何故か、()()と視線を逸らすと、どこか上ずった声でそう応じるのだった。



「―――聞いての通りだ!微速前進、耐圧核を擦ったりしたら大目玉喰らわすぞ、いいな!!」


「「「了解(jawohl)!!」」」



提督帽を目深に被り直し、ツェツィーリエは号令を飛ばす。


―――かと思えば、()()()()とこちらを幾度か盗み見ているようだ。

首を傾げながら見つめ返すと、なぜか慌てたように彼女は()()()と、向こうを向いてしまった。


・・・何かあったのだろうか?


少女艦長の不可解な反応にもう一度首を捻るも、それに答える者は居なかった。

その疑問は解消される事無く、潜水艦ヴィリー号はクレバスの間隙を進んでゆく。


その行く手には、無限に思える暗闇が続いていた―――


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