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お釜大戦  作者: @FRON
第七章 急襲!怪力博士の巻!!
314/343

∥007-D お見舞いびより!

#前回のあらすじ:先輩のおうちにお見舞いに行こう!



[梓(あずさ)視点]



()()?」


()()・・・」



放課後、終鈴のチャイムが響く校舎を後にして駆け付けた、先輩の家。

呼び鈴を鳴らしてから十数秒、玄関のドアが開いて早々に片手を挙げて挨拶したあたしは、中から出て来た()に思わず間の抜けた声を上げてしまった。


戸口から現れたのは、5()0()()()()()()()()()()()

短く刈り揃えられた頭髪には白いものが混じり、目元には深いしわが刻まれている。


期待していたのとは違うけれど、その顔には確かに()()()()()()()



()()()()()()()、こんにちわー!」


「きみか。・・・ああ、こんにちわ」


「えーっと・・・・。先輩、居ますか?」



丸英明(マルヒデアキ)、先輩の()()()()

あんまり話したことは無いけれど、優しそうで穏やかな雰囲気のおじさんだ。


柔和な顔立ちは()()()()見れば、先輩の()()が垣間見える。

あたしは廊下の奥を()()()()と覗きつつ、先輩の在宅を確かめるのだった。



「うん、居るよ。・・・上がっていきなさい」


「はぁーい!」



言葉少なにそう呟くと、玄関の奥へと消えてゆく。


あたしは、「おじゃましま~す」と小声で言いつつ、後ろ手にドアを締めた。

久しぶりに足を踏み入れた先輩の家は、微かに花のような香りがした。



(芳香剤かな?あたしん家と違うにおいがするのって、なんだか面白い!)



()()、と鼻を鳴らすと()()()()笑いながら、あたしは細い廊下を進む。


前へ目を向けると、ドアの一つを開けておじさんが中へと入ってゆく所だった。

()()()、と小走りでその背を追いかけると、()()()()()()と部屋の中へ視線を巡らせる。


漫画本と新書、それから色んな分野の実用書が()()()()()になった本棚、壁に張られたプロレスのポスター。

壁際には使い込まれた勉強机と、その隣に並ぶ小ぢんまりとしたベッドが見える。


その上で寝息を立てる布団を被った人影に、自然と視線が吸い寄せられた。

()()()


ちょっぴり紅潮した頬、ちっちゃな目鼻とお布団の裾から覗く指先。

おでこの上には()()()と、貼るタイプの冷却材が張り付いている。



「せんぱ~い。・・・()()()?」


「うん。起こすかい?」


「ん、大丈夫!せっかくお休みしてるのに、邪魔しちゃったら可愛そうだもん」


「わかった」



()()()()と寝息を立てる先輩は、幼く見える外見がなおさら()()()()で最高だった。


たこ焼きみたいな()()()を突きたくなる衝動を必死に堪えながら、あたしは遠巻きにその姿を堪能する。

そうやってしばし()()()()していると、一旦席を外していたおじさんが再び、部屋の中へと戻ってきた。


以前、先輩から聞いてたけど、ホントに物静かな人で全然喋らない。

かといって、それが苦痛という訳でもなく、側にいて落ち着く不思議な雰囲気のおじさんだ。


実の息子である先輩が、常に()()()()()()()()()()カンジだから、よくもまあ対照的な親子に育ったものだと思う。

そんな事を考えていると、おじさんは無言で手招きしてから、部屋の外へと出て行った。


何だろう?


そう思いつつ後を追いかけると、リビングに置かれたテーブルの前でおじさんは立ち止まった。

薄緑のテーブルクロスの上には、二組のカップが琥珀色の液体をたたえて湯気を上げている。



「今日はすまなかったね。マルも昨日までは元気そうにしていたんだが、疲れが出たのか、()()()()だ」


「いえいえー。あたしも最近まで寝込んでたし、そこはお互い様(?)ですよー」


「そうか。・・・珈琲(カフェ)は好きかい?舌に合うかはわからないが、()()()()もあるよ」


()()()!?」



テーブルを挟んで向かい合わせに座ると、椅子の上であたしは差し出されたお洒落な箱に目を奪われる。

金属製の蓋を()()と開けると、その下からは宝石のように艶を放つ、色とりどりのチョコレートが姿を現した。


()()()?」と視線で問いかけるあたしに、おじさんは無言のまま頷きを返す。

()()()()とばかりに手を伸ばすと、掌の上に収まった()()()()を前に、あたしは目を輝かせた。


()()()とした焦げ茶色の表面には、波打つように細かい襞が走り、頂点には紅玉(ルビー)のように飴細工が()()()()と載せられている。

漂ってくる甘い香りは食欲をそそり、あたしは思わず()()()とつばを呑み込んだ。


箱に印刷されていたのは、海外の有名なお菓子メーカーのロゴだ。

ひょっとしなくてもこれ、()()()()()()()()だ。



「・・・()()()()()()()!」



一瞬、気後れしそうになったけれど、誘惑に負けたあたしはそれを()()()と口の中に放り込む。


()()()()と、とろけるような()()

割れた中から流れ出る、ラズベリージャムのほのかな()()


海外のお菓子は()()()()()()、と評する人が居るけれど、全然そんな事は無かった。

上品で絶妙な、バランスのとれた甘さだ。


舌の上で味わっているうちにあっという間に溶けてしまい、あたしは落胆の溜息を吐きつつカップの中身に口をつける。


こちらもまた、甘さ控えめのカフェラテ。

普段ならちょっぴり苦めで顔をしかめそうな味だが、先程のチョコのお陰で上手く()()できている。


()()、と幸せなため息を吐き出す。

すると、()()()()()()()、とばかりにこちらへ向けて箱が押し出された。


おじさん、そんな事されたらあたし、堕落しちゃいますよ?



「んんー!こっちの味もおいちー!!」



()()()()()()、と次々とチョコを口の中に放り込んでゆく。

すごい、色んな種類があるのに全部美味しい!


そうやってリスのようにチョコを頬張っていると、ふと視線を感じて()()()()()()視線を上げる。

テーブルの向かい側で、老眼鏡の奥からおじさんは()()()()とあたしを見つめていた。


急に気恥ずかしくなってしまい、あたしはカフェラテで残りのチョコを流し込むと、()()、と箱をおじさんの方へ押し返した。



「おや・・・。口に合わなかったかな?」


()()()()。なんか、あたしばっかり食べちゃってごめんなさい・・・。すっごく美味しかった、です」


「そう言って貰えると、()()の開発部も冥利に尽きると思うよ」


「・・・()()?」



おじさんの言葉に()()()()としていると、その意味を丁寧に説明してくれる。


・・・箱の表面に印刷されていた()()()()()、そこの日本支社が、おじさんの勤め先なんだとか。

このチョコも、開発中の試作品を貰って来たんだそうだ。


先輩の家に脈絡も無く、海外メーカーの高級チョコがあった理由は、()()()()()らしい。

そーなんだー、と感心しっぱなしのあたしに対し、おじさんはどこかすまなそうな様子で、先輩の部屋に向けて視線を送った。



「・・・わたしが仕事にかまけて家を空ける事が多いのを、あの子は甲斐甲斐しく支えてくれている。本人は、好きでやっているとは言ってくれているが、それが申し訳なくてね。―――マルは学校で、()()()()()()()()()だろうか?」


「大丈夫ですよー。先輩が()()()()()()なのはいつもの事だし、本人もそれが性にあってる、って普段から言ってますもん!」


「そうか・・・。あの子は、()()()()()()()みたいだね」



()()()()()()()、と手を振ってごまかす。

おじさんの穏やかな視線がなんだか気恥ずかしくなってしまって、あたしは顔を隠すように両手を()()()()と振り回すのだった。


おじさんはそんなあたしを優し気に見つめると、()()()と呟きを漏らす。



「・・・マルが家のことをやってくれるようになってから、もう随分経つ。()()()のわたしは、今以上に()()が無くてね。あの子の細やかな気遣いに、気付いてやる事も出来なかった。あれから時間も経って、互いに随分と落ち着いて来たと思っていたのだが・・・・。ここ数日、あの子から普段の()()が失われている事に気付いて、気が気では無かったんだ」


「それは―――」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()、というのは心当たりがある。

あたしも以前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


言いよどんだまま、口をつぐんだあたしを()()()と見ると、おじさんは空のカップを下げてカフェラテを淹れ直す。

()()()、とテーブルの上にカップを置くと、初老の男性はグラスの奥から()()とあたしの顔を見つめた。



「きみが大丈夫なら、少し、昔の話をしようか。マルとわたし、親子の関係が()()()()()()()()頃の出来事だ。・・・()()()()?」


「・・・()()



おじさんは多分、()()()()()()()()()()()()()()()()んだと思う。


()()()()()()と、()()()()調()

二つの出来事と、おじさんの言う「()()」が無くなることの関連性を、きっとこの人は()()()()()んだ。


あたしはゆっくりと頷くと、テーブルを挟んで初老の男性を見つめる。

ここからの話は、()()()()()()()()()―――



今週はここまで。

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