∥007-14 少女兵器、躍動。
#前回のあらすじ:後輩が見たこと無いスキル構成な件について
[マル視点]
『―――【魔弾の射手】』
「【バブルシールド】っ!・・・えーいくそっ、埒が明かない!先に博士の方を狙って―――」
『させません。【有翼の靴】―――【金剛石の盾】』
戦闘はなおも続いていた。
漆黒のスーツに光のラインを浮かび上がらせ、右手指先から魔弾を放つ少女兵器。
高速で飛来する光の弾を防ぐと、ぼくは後方で高みの見物を決め込む、おヒゲの中年男性向けてメルの分身体を放り投げた。
当たれば急速に巨大化し、問答無用で拘束してしまう水塊。
しかしそれも、瞬間移動してきた後輩の展開した光の楯によって間一髪、防がれてしまう。
先程から、戦いはこんな感じに一進一退の膠着状態が続いていた。
押し込まれていないだけマシなのだが、どうにも向こうの攻めが消極的というか、様子を見られている気がする。
そんな予感を肯定するかのように、それまで戦況を伺っていた博士が怪し気に笑い声を上げた。
「うふふふふ。存外に持ちこたえるなあ、少年!・・・いやはや。君に関し、最初抱いていた評価を上方修正せざるを得ないねえ」
「そいつはどうも!」
「【バブルシールド】、だったかな?儚げなシャボン玉のようで、これが中々。拾号の攻撃にも、よく耐えている!・・・フム。ここは一つ、耐用試験と洒落込もうではないか。―――拾号?」
『はい、博士』
「ギアを一つ、上げなさい」
『かしこまりました。オフェンスコンディション2―――武力制圧』
博士の言葉を皮切りに、後輩から感じる圧がぐんと増す。
これはまずい。
そう言外に感じ取った直後。
目と鼻の先に転移してきた彼女のガラスのような瞳と目が合い、ぼくははっと息を呑んだ。
『【魔弾の射手】―――並列起動×2』
「ちょっ・・・!?」
漆黒のスーツに、二筋の光のラインが走る。
2発。
同時に放たれた魔弾は互いに絡み合い、宙に螺旋の軌道を描きながら紺碧の水壁に突き刺さった―――!
これまでに感じた事の無い程の衝撃に、思わず息を詰まらせる。
衝突の勢いでぼくの身体は、シールド毎はるか後方へと弾き飛ばされていた。
(目が、回る!こんなのまともに受けてられないぞ・・・!)
二度、三度と石畳の上をバウンドし、広間の中をピンポン玉よろしく行き交う水玉。
先程の一撃だが、【バブルシールド】でも受け止めるのがギリギリだった。
こんな無防備な状態で喰らったら、まずもってタダじゃ済まないだろう。
ぐるぐると廻る視界の中で、いよいよ本気を出し始めたと思しき後輩の姿を求める。
・・・そんな懸念を嘲笑うかのように、右腕に二筋の光のラインを浮かび上がらせた少女が、視界の端にかすめるように映る。
反射的にそちらへ両手を突き出すのと、螺旋状の光弾が打ち出されるのはほぼ同時の出来事であった。
『【魔弾の射手】×2―――発射』
「こなくそっ!メル、3枚重ね!!」
『・・・!!』
コバルトブルーの水塊が、さらに二つ。
少女とぼくの間に出現したメルの分身体は、瞬く間に半円状の水壁となって、迫りくる魔弾の前に立ちはだかった。
―――螺旋状の光弾は追加展開された盾を瞬く間に貫くが、それで勢いを殺されたのか、3枚目のシールド表面で消失する。
目の前で霧散してゆく光弾に、ぼくはそれまで止めていた息をゆっくりと吐き出した。
「ほほぅ!・・・そういうのもあるのかね。では拾号、お前も力の組み合わせ方というものを、披露してあげなさい」
『かしこまりました。【有翼の靴】―――【金剛石の盾】』
「・・・ぶっ!?」
一難去って、また一難。
博士の一言に無表情で頷くと、少女は瞬間移動の術式を起動する。
スーツのくるぶしの部分が怪しく煌めき―――
次の瞬間、彼女はぼくの目と鼻の先に居た。
反射的にシールドへ【神力】を込めるぼく。
それに対し、少女兵器は光の楯を展開し―――そのまま水壁へと押し付けた。
コバルトブルーに淡く光る膜を通して、視界一杯に光の楯が広がる。
・・・どうやら、例の楯はサイズを自在に拡大・縮小できるようだ。
2m大にまで拡大され、後輩の動向が【金剛石の盾】によって一切、見えなくなってしまった。
「前が・・・見えない!でも一体、何のつもりで―――はっ!?」
『【魔弾の射手】―――並列起動×3』
ぞわり、と首筋に寒気が走り、視線だけで背後を振り向く。
しかし、気付いた時には時、すでに遅し。
光の楯を目隠しに、背後へ転移していた少女兵器はぼくの背中目掛け、右手指先を突き付ける。
その腕には、三本の光のラインが輝いていた。
(これ、ヤバ―――)
『発射』
無慈悲な一言と共に、これまでとは比較にならぬ光の奔流が指先より放たれる。
そのエネルギーの膨大さから、ビーム状へと変形した光弾はあっさりと【バブルシールド】を消し飛ばしていた。
今更回避も間に合わない、万事休す―――
思わずぎゅっと目を瞑った、その瞬間。
何処かより現れた銀の旋風が、ぼくの身体をかき抱き、横合いへとカッ攫っていた。
標的を空振りし、そのまま背後の石壁へ突き刺さる光弾。
凄まじい爆音。
衝撃が駆け抜ける中、ぼくは頭上に「?」を浮かべたまま、銀色に輝く兜をぽかんと見上げていた。
「失礼。・・・ですが間一髪、間に合ったようですね」
「え?えっ??その声、ひょっとして―――」
「おーっほっほっほっほ!!」
「「「!?」」」
被り物のせいでくぐもった、しかしどこかで聞き覚えのある声。
鈍色の鎧姿から響くそれに、ぼくは一つの仮説へと思い当たる。
突如、ぼくのピンチに颯爽と駆け付けた鎧姿の人物。
その正体について口にする前に、薄暗い室内には唐突に場違いな高笑いが響き渡っていた。
博士含め、ぼくらは一斉にそちらの方へと視線を向ける。
果たしてその先には、一人の少女が佇んでいた。
天をも衝かんばかりの金髪縦ロール、豊満な肢体を包むエレガントなイブニングドレス、強い決意を秘めた碧き瞳。
握りこぶしを腰に当て、仁王立ちに構えた真紅の令嬢はびし、と『怪力博士』一行へ指先を突き付けていた。
「よーーーーやく見つけましたわ!この!エリザベス=フィリップス=ミラーの目が黒い内は!キャシーの身を好き勝手させるだなんて事・・・ぜーーーったいに許しませんことよ!!!」
唖然とする一同の前で、高らかに参戦を告げる。
たった今、鮮烈な登場シーンを決めたのは、後輩の友人にして、所属クラン『Wild tails』の主。
エリザベス嬢、その人であった―――
今週はここまで。




