∥007-13 少女兵器、始動
#前回のあらすじ:おーぷんこんばっと!
[マル視点]
「あーちゃん、ごめん!おねがい・・・『神使メルクリウス』!!」
『!!』
謝罪の言葉と共に放たれた、コバルトブルーの水塊。
それは音も無く宙を飛来すると、少女の姿をした兵器を包み込もうと、その目前で一気に巨大化する。
―――『怪力博士』と、後輩。
どちらの対処を優先するか悩んだ末、ぼくは後者を選択していた。
ほとんど前情報が無く、何をしてくるのかわからない博士。
それに対し、知己ということもあり、あーちゃんの戦い方は一通り知っている。
【神候補】として覚醒したあの日、銀の巨人を撃破した例の一射は脅威だが、【バブルシールド】なら直撃は避けれるハズだ。
先手を打つことができれば、ぼくの分身であるメルの身体で包み込むことで、ひとまず無力化させることができる―――かも、しれない。
何もかもが見切り発車の出たとこ勝負だが、まずは当たってみるしかないのだ。
諸悪の根源たるイケオジの方は、その後でじっくり対処すれば良いだろう。
・・・考えても判らないから後回し、とも言える。
「やったか・・・!?」
『―――補助術式【有翼の靴】、発動』
「!?」
そんな訳で、まずは初手で後輩の拘束を試みた訳なのだが。
思わずフラグめいたことを叫んだ直後、案の定水玉に包まれていた後輩の姿が、突如として離れた場所に現れていた。
驚愕に眼を見開くぼくの前で、残像を残しながら幾度となく短距離の移動を繰り返す少女兵器。
「瞬間移動!?・・・うわっ!!」
『―――対象を攻撃します』
移動の瞬間すら見えぬ、超高速の転移。
水球の中から脱出した事から見て、どうやら彼女はテレポート的な移動手段を持っているらしかった。
予想外の状況に混乱する中、突如として目と鼻の先に現れた彼女より、強烈な後ろ回し蹴りが放たれる。
何とか両腕でのガードが間に合うが、体格差から大きく後に吹き飛ばされてしまった。
じんじんと痺れる腕に舌打ちを漏らしつつ、再び正面を見やる。
蹴り足を戻した姿勢のまま、伸ばされた彼女の右手はまっすぐぼくの胸を指していた。
―――その指先に、黒光りするスーツの表面を伝い光の筋が集って行く。
『攻性術式【魔弾の射手】―――発射』
「!?」
猛烈に沸き上がるな嫌な予感。
射出していたメルを慌てて手元に引き寄せると、ぼくは有無を言わさずシールドを展開した。
直後、少女の指先から一筋の光の矢が放たれ、【バブルシールド】へと突き刺さる。
一瞬、たわんで衝撃を吸収するが、勢いを殺し切れずぼくの身体はシールドごと弾き飛ばされていた。
予想外に威力に、ぼくは慌ててシールドを身体の前面から、全身をすっぽり包む形へと拡大する。
そこへ、更に二射、三射と、立て続けに放たれる光弾。
それを喰らうたび、ぼくを包む水球はピンボールのように、あちこちへと吹き飛ばされてしまった。
ごろごろと転がり、視界の上と下が目まぐるしく二転三転する。
『発射、発射、発射―――』
「こなくそっ・・・!!」
『防性術式【金剛石の盾】―――展開』
「・・・弾かれたっ!?」
再び、スーツの表面を光の筋が走る。
集った光のラインは、左手の甲に半透明のラウンドシールドを出現させていた。
防戦一方ではいけないと、メルの一部を切り離し放った水球は、少女の身体に届くすんでの所で光の盾によって阻まれる。
儚げに揺れる幻像の盾であるが、その防御力はどうやら見た目通りでは無いようだ。
「以前と、戦い方が全然違う・・・。どうなってんのさ、あーちゃん!?」
「うふふふふふ。ようやくご理解頂けただろうかね?」
「!?」
記憶にある戦い方と全く異なる姿に愕然としていると、それまで沈黙を守っていた顎鬚の男がくぐもった笑いを上げる。
大きく両の手を開き、つらつらと己の『作品』の自慢を始める博士。
「新世代怪力兵のフラッグシップモデルたる、『怪力兵拾号』!その設計に於いては、高い汎用性と拡張性を意識しておるのだよ!連射可能な高威力射撃【魔弾の射手】!堅牢なる防御フィールド【金剛石の盾】!縦横無尽な高速機動を可能とする【有翼の靴】!正に蝶のように舞い、蜂のように刺す!どうかね?これが吾輩会心の一作、最高傑作なのだよ!!」
『お褒めに預かり光栄です、博士』
【魔弾の射手】が最初に撃ってきた光弾、【有翼の靴】が瞬間移動で、水塊を弾いた盾が【金剛石の盾】、だろうか?
・・・どうやら、攫われていた間に洗脳されるだけではなく、戦闘法まで勝手にインプットされてしまったらしい。
戦後最大の怪人と呼ばれる『怪力博士』、その懐刀と呼ばれる『怪力兵』。
彼を扱った映像作品では、一般市民を騙して改造し、己の命令に絶対服従する人間兵器へと造り変えてしまうシーンがあった。
これはつまり、そういう事なのだろうか?
普段見知った少女の変わり果てた姿に、愕然とした気持ちで奥歯を噛みしめるぼく。
当初立てたプランは、早くも根底から崩されてしまった。
先に無力化しようとした後輩には攻撃が通用せず、あまつさえ一方的に攻撃を受ける始末だ。
黒幕たる『怪力博士』は、その背後で高見の見物。
更には、実力がまったく未知数の黒髪の女性まで控えている。
この布陣を突破し、後輩を連れ帰るにはどうすればよいのか?
早くも暗雲が立ち込めてきた戦況に、ぼくは灰色の脳細胞をフル回転させるのだった―――
今週はここまで。




