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お釜大戦  作者: @FRON
第七章 急襲!怪力博士の巻!!
285/345

∥007-08 壁の中を鼠が走る(中)

#前回のあらすじ:捜索最終日、開始!



[マル視点]



『―――こちら本部、定時連絡の時間だ。マル、そちらの状況はどうだ?』


「えっ?・・・うわ、ほんとに掛かってきた!えーっとえーっと、()()、どうやって取るんだ?」


『にゃ~~・・・?』


『・・・カフの耳に掛けてる所の反対側を口元に持って行って、先端を2回叩いてみろ」


「あ、()()か。1回、2回。・・・あー、()()()()?こちらマルです」


『・・・やっと出たか。こちら(あきら)だ』



耳元で唐突に、聞き覚えのあるハスキーな声が響き、思わずその場で飛び上がる。


反射的に周囲へ首を巡らせるが、声の主の姿は無い。

急に慌て始めた主人の姿に首を傾げ、ぼくの足下でおりんちゃんが小さく鳴き声を上げている。


・・・と、ここまできてようやく、ぼくは状況を把握した。


明さんの声は、ぼくの耳元で光る鈍色のイヤーカフから響いていた。

【揺籃(ようらん)寮】を出る前に、(フォン)さんから受け取っていた品だ。


ぼくと共同で『宝貝』(パオペエ)の開発をしていた彼だが、それと並行して(かなえ)くんの能力を元にした()()()も開発していた。

これは、その試作品らしい。


所謂()()()、トランシーバーのようなものだと説明を受けてはいたが、どうやって使ったらいいのかわからず首を傾げる。

そんなぼくに痺れを切らしたのか、イヤーカフ越しに使用法についての助け舟が入った。


カフの根本で光る【魂晶】(ジェム)から届く声が告げる通り、()()()()、と指先で先端を叩くと、ぼくは緊張した声でそう応えるのだった。



『その分だと、まだ何も見つかってないようだな?』


「さっきから人造湖東岸を()()()()歩き回ってるけど、今の所収穫ナシです。・・・にしもこれ、凄いですね」


『先生の自信作だからな。先ずはこれをベースに量産体制を整えて、都度アップデートを加えて行く予定だそうだ』



現状の報告をしつつ、右耳に掛けたイヤーカフに手を当て、しみじみとそう呟く。


離れた相手と意思疎通する、叶くんの『伝心(デンシン)絃』(イト)

このアイテムはそれを、()()()()()()()()()ものらしい。


動力として【魂晶】を使い、あらかじめペアリングしたイヤーカフ同士での遠距離通話を可能にするそうだ。

寮を出発する際、『後で連絡する』と明から告げられていたが、それがまさかこんな形で実現するとは。


感心し通しのぼくに対し、今後の商品展開について語る明さん。

彼女の言葉通りであれば、これから先、【学園】にはちょっとした()()()()が起きることになりそうだ。



『・・・何はともあれ、今後はこうやって定期的に生存確認しつつ捜索を進めてくれ。いいか?手掛かりを見つけた時なんかも、忘れず連絡しろよ。くれぐれも()()()()()、一人で突っ走ったりしないように』


「うっ。き、肝に銘じておきます・・・」


『わかっていればいい。それじゃ、頼んだぞ』



小さくため息交じりにそう告げると、それきりイヤーカフは沈黙する。


昨日(今朝?)の出来事のせいで、彼女には大分心配を掛けさせてしまっているようだ。

内心猛省しつつ、ぼくは足下に視線を落とす。



「それじゃ、行こっか?おりんちゃん」


『にゃあ』



こちらを見返すふたつの瞳。

それと視線を合わせると、ぼくはにっこり微笑みながらそう呼びかけた。


後輩の手掛かりは、まだ見つかっていない。

彼女が失踪してから既に数日、普通の失踪であればそろそろ、生存を心配しなければならない頃合いだろう。


【夢世界】(ドリームランド)における死は精神の死、現実世界においては二度と目を覚ます事のない、()()()()()を意味する。


無論、今回は単なる失踪とは異なり、()()()()()()()()の疑いが強い。

だからと言って安心できる訳でも無く、その身の安全はいっそう心配される状況であった。


ぼくの脳裏に、羽生(はにゅう)のおじさんとおばさんの顔が浮かぶ。

彼等を悲しませる訳には、行かない。


決意を新たにすると、ぼくは再び後輩の姿を求め、愛猫に導かれるままに歩き始めるのだった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




―――2時間後。


ぼくは歩きどおしでパンパンに張ったふくらはぎを、物陰でマッサージしながら休息を取っていた。

水筒から水分を補給しつつ、周囲に()()()と視線を投げかける。


メインストリートから外れた、細い小路が幾筋も交差するロケーション。

いわゆる()()()に当たる区画であった。


あれからずっと、鼻をひくつかせながら歩くおりんちゃんの後を追っているが、今の所収穫らしき収穫は無いままである。

逸る気持ちを抑えつつ視線を落とすと、壁際のひんやりとした石畳の上に寝そべり、目を閉じている愛猫の姿がそこにあった。



「ニオイを追わせてるとはいえ、猫ちゃん頼りの探索行かぁ・・・。おりんちゃんに文句は無いけど、どうにも不安になっちゃうよね」


『・・・?』


「・・・あれ、どうかしたの?」



()()()、とついつい不安が口をついて出た、その時。

()()()、と茶色の立て耳が反応すると、おりんちゃんが急に目を開く。


ぼくの発言に気を悪くしたのか、と思わず()()()と身を固くする。

しかし、そんなぼくの心配をよそに彼女は微動だにせず、()()、と()()()()を注視していた。


つられて同じ方向へ目を向けると、細い路地の向こうに()()()()が見える。

女性―――の、()()()()()()


遠目でわかりづらいが、影は()()()()()()()()()()()()()()()ように見える。



「あっ、行っちゃった・・・」


『・・・・・・』


「おりんちゃん?」



そうこうしているうちに、女性らしき人影は()()()と背を向けると、路地の奥へと消えてしまった。


何だったんだろう?

ひとり小首を傾げていると、音も無く立ち上がったりんが、無言のまま小路を歩き始めた。


路地の奥へと向かう、小さな姿に呼びかける。

一瞬、こちらを振り返った後すぐに前へと向き直ると、彼女は再び()()()()と歩いて行ってしまった。


首を傾げつつ、その後を追うぼく。


・・・そうして路地を曲がりくねりながら、ぼくたちは歩き続ける。

途中、幾度か同じ人影を道の向こうに見つけるが、小走りに追いかけても()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(何だか、()()()()()()を聞いたことがあったような・・・?)



()()()()()()()のような、得体の知れぬ影を追って一人と一匹がひた走る。


いよいよもって()()()()()()になりつつあることを自覚しつつも、ぼくは無言のまま、りんの残す足跡を追い続けた。

もしかすると、これが後輩の手掛かりに繋がるかもしれない。


胸中に沸き上がる不安を押し殺し、小走りに裏路地を行く。

そうすること小一時間、ぼくらは町外れにある、辺鄙な場所へとたどり着いていた。


倉庫だろうか?

目の前にはレンガ造りの、古びた建物が立ちはだかっている。


区画で言えば、あーちゃんが最後に目撃された所から、それほど離れていない場所だ。

しかし、昨日一日この辺りを歩き回った身として、こんな建物は一度も目にした覚えが無かった。



「あ!()()()()()()()・・・!」


『にゃっ!』



建物の外観を()()()と眺めていると、その一角、小ぶりなドアの隙間へ滑り込む、()()()()()()が目に留まった。


それが、()()()()()だと直感的に理解する。

と同時に、小さな同行者が弾かれたように、そこへ向かって走り始めた。


負けじと後ろ姿を追うと、りんはドアの前で後脚で立ち上がり、木製の表面を()()()()と爪で引っ掻いている。



「ここを開けるの?」


『にゃあ』



短く確認を取った後、ぼくはドアノブに手を掛ける。

カギは掛かっていなかった。


僅かに開いた隙間から()()()と忍び込んだ姿を追いかけ、ぼくもまた薄暗い建物の中へと飛び込むのだった―――



今週はここまで。

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