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お釜大戦  作者: @FRON
第七章 急襲!怪力博士の巻!!
284/343

∥007-07 壁の中を鼠が走る(前)

#前回のあらすじ:幸せ固め!


[マル視点]



「―――()()!?」



()()()


意識が覚醒すると同時に、()()()()と目を開く。

見慣れた天井、室内照明、視界の端に見える本棚と、そこに収められた漫画本の数々。


確認するまでもなく、()()()()()であった。


()()()、と起き上がると、視線は次に()()()()を探す。

果たして、そこにあったのは―――



()・・・()()()()()ーーーっ!!!」



・・・目覚まし時計の短針は、1()0()()()()()()()()


起き抜けのぼくに向けて、無慈悲に突き付けられる()()という事実。

それを前にして、ぼくは思わず頭を抱えるのだった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




そして所変わって、【イデア学園】。


あれから通学カバンを引っ掴んで登校し、担任の先生に平謝りしてから授業を受け、帰宅。

家では朝食の準備をし損ねた事をお父っつぁんに平謝りし、一日を終え今に至る。


方々へ頭を下げてばかりの一日であった。

・・・が、不思議とあまり怒られず、むしろ心配される場面ばかりであった。


これも普段の行い、人徳のお陰だろうか?



「なんてね。自分で言ってちゃ、世話無いよ・・・はぁ」



些か自虐気味にそう呟くと、ノックの後にドアノブに手を掛ける。

()()()()、と開けた簡素なドアの向こうから、幾つもの視線がこちらを見返してきた。


白人の少女が数人、中には見覚えのある顔もある。

猫好き少女の集まるクラン、『Wild(ワイルド) tails』(テイルズ)のメンバーたちだ。


元は空室だった部屋の中は、今は彼女達を中心に、幾人もの【神候補】達がひしめいていた。

唐突な来訪者を誰何するように向けられていた視線は、その正体がぼくだと判るとすぐに離れてゆく。


気を取り直して、部屋の中を眺める。


中央を陣取る円卓、その上に浮かぶ無数の光のラインは、【学園】を象り、その隙間を無数のメモが埋めている。

(かなえ)くんの能力である『伏龍(フクリュウ)盤』(バン)、そして、それを通じ集積された、捜査情報の数々であった。



(すごい分量・・・)



細かく走り書きされた紙片は、既に円卓の大半を埋め尽くしていた。


それに限らず、周囲で忙しなく動き回る少年少女達の手により、紙片は今も増え続けている。

ぼくが昨日(というか今朝)、ダウンした後も彼等と、その仲間達は捜索を続けていたのだろう。


だが―――この場が()()()()()()()()という事は、後輩の行方は()()()()()()()、という事でもある。


その事実に小さく嘆息すると、ぼくは()()()()と歩みを進め、部屋の片隅に置かれた小ぶりなデスクの前で足を止めた。

そこには京劇風の申面を被った亜麻色の髪の少女と、その傍らで()()()と白い頭を下げる、細身の少年の姿があった。



「・・・マルさん!」


()()()


「すいません、遅くなりました。その、あーちゃんは・・・?」


「お察しの通り、まだ見つかっていない。お前は―――調()()()()()()ようだな」


「その節は、大変ご迷惑をお掛けしました・・・」



軽く頭を下げつつ、今朝方の出来事を振り返る。


【イデア学園】から現世へ戻る寸前、捜索に熱中していたぼくを、わざわざ(あきら)さんが引き留めに来くれたのである。

事実、その直後ぼくは()()()()を起こしているだけに、彼女の行動は正しかったと言える。


―――と、同時に。

あの時、後頭部に感じた()()()()()()を思い出してしまい、()()と顔が熱くなる。


俯いたまま急に動かなくなったぼくに一瞬、怪訝そうな顔を浮かべる亜麻色の髪の少女。

しかしすぐにその理由を察すると、仮面の下で()()()と意地悪く微笑むのだった。



()()()


「!!?」


「お姉ちゃ―――姉さん?」


「何でもない、気にするな」



囁くように呟かれたその一言に、思わずその場で5cm程飛び上がってしまう。


()()()()と押し殺したような笑い声を漏らす明さん。

事情を知らない叶くんは、その隣で怪訝そうな表情を浮かべている。


何とも心臓に悪いやりとりだが、どうやら彼女にそれ以上追究する気は無いらしい。

短くそう呟くと、申面の少女は改めて、昨晩の捜索状況について尋ねるのだった。



「・・・さて。無駄話はこの位にして、昨日、お前が集めた情報について教えて貰えるか?」


「あ、はい・・・」



そして、ぼくは昨夜から今朝方までの出来事について語り始める。


とは言っても、成果と言えるのは()()()()()()()()()()()()()()()くらいだ。

円卓へ近寄ると、その上に展開された【学園】の見取り図を指差しながら、ぼくは聞き取った情報を開示するのだった。



「・・・と、いう訳で。あーちゃんは失踪する前日、()()から、()()。陽が落ちる前あたりに目撃されてるみたいです」


「ふむ。・・・ちょっと待ってろ」



そう呟くと、明さんは立ち上がり、円卓の上に貼り付けられたメモ書きをつぶさに眺めてゆく。

そうして首を一巡りさせた後、小さく頷くと彼女は再び、口を開くのだった。



「ここにある情報を見る限り、失踪前日の目撃証言ではそいつが()()()()にあたるようだ。・・・お前達、今纏めてる情報の中に、それ以降の証言はあるか?」


「えっと・・・」


()()、みたいです」


()()()だな。羽生梓(はにゅうあずさ)は現在、()()()()()()()()()()()()可能性が高い」


「・・・!!」



部屋の中に緊張が走る。

この数日、遅々として進まなかった後輩の捜索が、ついに決定的な手掛かりを得られたのだ。


()()()()()()()()()()()()()()、と付け加えた彼女が指差す先は、【学園】の()()()()()を示していた。

丁度、ぼくが今朝方、最期に歩き回っていた辺りだ。



「こうしちゃ居られない、ぼく行ってきます―――!!」


()()()


「・・・明さん!?」



居てもたっても居られず、入口目掛け走り出そうとする。


―――()

その襟首を()()()と掴む手があった。



「すいません、今急いでて・・・!」


「まあ、待て。逸る気持ちはわからんでも無いが、()()()()



細身の身体のどこに、と思うような力で引き留められ、思わず振り返ったぼくの前で彼女は落ち着いた声で呟いた。

しぶしぶながら足を止めたぼくに、明さんは円卓の上を指差しながら口を開くのだった。



「梓の捜索と平行して、犯人と思われる鳥保野(とりぼの)某についてもその足取りを追っている。目撃証言は()()と、()()と、()()だ」


「・・・時間帯も場所も、バラバラですね」


「そうだ。加えて証言自体が少なく、()()()()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()()()()()()()疑いが出てきている」


「特殊な、移動手段・・・?」



鳥保野某。


通称『怪力(くゎいりき)博士』は、目下、あーちゃん失踪事件の犯人と目される人物である。

その足取りを掴むことで、後輩の居場所を特定できるかもしれないという事で、彼の人物もまた同時に捜索対象となっていた。


しかし、博士の足取りは神出鬼没、【学園】のあらゆる場所へランダムに出没しているように見える。

そも、日本政府を相手に50年以上逃げ続けて来た相手だ。


()()()()()()()()()()で隠れている可能性を鑑み、先述のような仮説が浮かび上がってきたという事だ。



「梓が居ると目される同人物のアジトも、何らかの方法で隠されている可能性がある。そこでマル、お前は捜索へ行くとき、()()()()()()()()


「・・・()()()()()()を?」



明さんの言葉に、ぼくは思わずそうオウム返しに呟く。


おりんちゃんは、【学園】におけるぼくの飼い猫であり、同時に、式神として契約している妖怪『()()』でもある。

見た目は普通の茶虎だが、未熟ながら神通力を持ち、小さな少女の姿に化ける事も出来るのだ。


そんな彼女を、捜索に連れて行けという。



「捜索に出ている【神候補】の中には、動物型の【神使】(ファミリア)に梓の匂いを追わせてる者も居る。犬型の【神使】程では無いにしろ、居場所を探る助けにはなるだろう。加えて、りんは普通の猫ではない。『猫又』としての()()が活きてくる場面も、きっとどこかで有る筈だ」


「なる、ほど・・・?わかりました!ニオイで追えるよう、寮に借りてるあーちゃんの部屋から何か、私物でも拝借してきます」


「そうするといい」



どうやら警察犬よろしく、【神使】に後輩の捜索を任せている人が居るらしい。

今の所成果は出ていないようだが、居場所を追う上でそういうアプローチも試すべきかもしれない。


素直に頷くぼくへ、明さんは更にこんな事を言い出すのだった。



「それから伝言だ。()()から、出発前に部屋へ寄れと言われている」


(フォン)さんが・・・?」



彼女が先生と呼ぶ人物は、ぼくが知る限り、『宝貝(パオペエ)製作者』(フォン)月美(ユェメイ)ただ一人だ。


そう言えば、彼とはつい最近まで、新たな『宝貝』を制作するという用件で頻繁に会っていたのだった。

何だか随分前の出来事のようだが、そんな彼がぼくに部屋へ寄るよう伝言を頼んだのだという。


果たして、どのような用事があるのだろうか?

疑問に首を捻りつつ、ひとまず言われた通りに行動する事に決める。



「・・・わかりました!あーちゃんの部屋へ寄った後、そちらも立ち寄ってみます」


「頼んだ」


「が・・・頑張ってください!」



二人の声を背に受けて、ぼくは出入口のドアを開け廊下へと出る。

目指す先は寮の一室、あーちゃんが間借りしている部屋だ。


こちらへ遊びに来る時など、彼女はあの部屋を一時拠点にしている。

少し探せば、ニオイの残る私物も見つかるだろう。


その後は、楓さんの自室だ。

忘れず、おりんちゃんも連れて行かないといけないだろう。


逸る気持ちを胸に秘め、ぼくは廊下をひた走るのだった―――


今週はここまで。

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