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お釜大戦  作者: @FRON
第六章 震撼☆フレーズ!!
273/343

∥006-B その頃のアイドルスターたち

#前回のあらすじ:寅吉(トラキチ)秘蔵の色本これくしょん、興味あります!



[???視点]



「・・・()()


「ッッ―――!!」



【イデア学園】東部、大小無数の建物が乱立する一角。

クランホームへ向かう廊下の途中で、一人の少女とすれ違う。


(ビー)がその少女に目を留めたのは、すれ違いざまにその目の端から零れ落ちる、()()()を目撃したからだ。

次いで、長く艶やかな()()()()()、首元に覗く()()()()()()()へ視線はうつろう。


綺麗な少女だった。


乱れた衣装に()()()()をうかがわせながら、名も知らぬ少女は脇目も振らず、はるか後方へと走り去ってゆく。

束の間立ち止まり、その後ろ姿を見送ると、碧は「()()()()()」と、口の中で小さく呟いた。


程無くして、ホームの前へとたどり着く。

ホームの扉は閉め切られていた。


()()()()、と手の甲で白い扉を叩く。



阿玲(アリン)、ミィだよ。開けて?」


笑笑(シァォシァォ)!」



数秒間を開けて、勢いよく扉が開いた。

中から現れたのは、満面の笑みを浮かべた(ホァン)―――あの時、(あきら)の眼鏡を奪った男だった。


碧もまた笑顔を浮かべ、束の間二人は抱擁を交わす。


()()、と小さく鼻を鳴らすと、友人の首元から()()()()()()()()、微かな残り香が香った。

抱擁を続けながら、部屋の中へと視線を走らせる。


視界の端に映るソファに点々と残る()()()()、部屋の中から漂う()()()()()

()()、なのだろう。


この部屋で()()()()()()を察すると、碧は抱擁を解き、ホームの中に足を踏み入れ換気の為に窓を開け放った。



「・・・さっき、外で女の子とすれ違いましたが」


「え、誰のこと?」


「泣いてるみたいでしたけど・・・。もしかしてユゥ、()()()()()()?」



単刀直入に、先程見た場面のことを口にする。


そっぽを向いて口を尖らせながら、黄は知らんぷりをした。

しかし、なおも追究を続けると、あっさりとそれ認め()()()と舌を出す。


()()()とソファの上に身体を放り出すと、青年は唄うように話り出した。



「僕のこと、好きだって言うからさ~?ちょっと()()()()()()()()だけ」


「それが、何で泣かせるような事に?」


「知らな~い。『()()()()()()』って言ったらさ、急に泣き出しちゃって。わけがわからないよ」


()()()・・・って、マーケットで会ったっていう?」


「そう!()()()!」



碧は既に、マーケットであったという()()の事を聞き及んでいた。


数日前、いつも通りに黄が女性絡みのトラブルを起こしたとか。

その中心となった人物に、眼前の青年とは別の『()()()()()()()()』が居た、とか。


際限なく付けられた尾ひれを含め、そんな話題を彼は認識していた。

そして、市場から帰って以来、黄は()()()()を探し続けている。


()()


しかし―――手掛かりとなる物も乏しく、捜索は難航していた。

そのうち諦めるだとうと思っていた所へ、今回の出来事である。



「髪は似てたけどさ。目も香りも性格も、全~っ然。・・・ああ、ハニー。もう一度逢いたいよ・・・Fu―――」



ホームを()()()()()()()()にした事なぞ悪びれもせず、若きスターは鼻歌を口ずさみ始める。

碧は呆れ果てながらも、聞こえてくるメロディに耳をそば立てずにはいられなかった。


芸事に関する絶対的な()()()()()()、そして()()

二物どころか三物をも天から与えられた男は、今日も気まぐれに騒動を引き起こす。


つまり―――まあ、()()()()()()

色々と合点が行ったところで、碧は小さく嘆息した。


阿玲と笑笑―――黄と碧は、()()()()()()


財閥の御曹司であり、幼少から歌唱に非凡な才を示した黄。

そのすぐ側から、それを見続けた自分。


ふたりは兄弟同然に育ち、互いに自然と芸事に関わるようになり、まず先に黄がアイドルとして、芸能界入りを果たした。

彼がグループを結成した時も、()()()()にメンバーとして誘われたのは自分である。


気分の向くまま気まぐれに、芸能界をひた走る彼と、それに付いてゆっくり進む自分。


懐かしく、きらびやかで、目まぐるしい日々。

その過程で、幾度となく()()()()()()()を目にして来た。


惚れっぽく移り気で、飽き性。

幼馴染は()()()()()()()()()無数の女を侍らせ、それを脱ぎ捨てる度に周囲と衝突を繰り返す。


そんな彼の最近のお気に入りは、件の亜麻色の髪の少女だ。



「・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()


「何か言ったー?」



()()()


誰に聞かせるでもなく、漏れ出た呟き。

それに、幼馴染は首だけをこちらに向け声を上げる。


碧は貼り付けた笑顔のまま、()()()()()()とかぶりを振った。



「そんな事よりも。ユゥ充てにこんなものが届いてるんですが・・・」


()()()~?」


「そうです。請求元は明峰(めいほう)商店、幅広い価格帯で展開している中堅どころの商家ですね。名目は、所有する倉庫の備品を損壊した事。・・・心当たりは?」


「知らな~い」



回想を打ち切ると、ようやくこの場へ来た()()()()()を切り出す。

封蝋された便箋から数枚の紙を取り出すと、碧はその文面を読み上げた。


それに対し予想通り、間延びした返答を返す黄。



「何時もみたいに、そっち(クラン)で払っといてよ」


「・・・()()()()()()()()()?」



重ねて確認すると、ソファに寝転んだまま幼馴染は()()()()と手を振り返す。

それを了承と取ると、碧は小さく嘆息しながら再び手元の書面に視線を落とした。


備品の賠償金その他―――()()()1(),0()0()0(),0()0()0()G()


とんでもない額である。

現世に黄財閥というバックボーンを持ち、潤沢な資金を誇る神话(シェンファ)であっても、予算の大半を持っていかれかねない規模だ。


遠征先で【彼方より(シング フロム )のもの】(ザ ビヨンド)の襲撃に巻き込まれ、それ以来【神候補】として共に活動してきた碧たち。

幼馴染のでたらめな金銭感覚に当惑するのは毎度の事だが、今回の()()はいくらなんでも度が過ぎていた。


()()()


紙面を手繰りつつ、請求内容をつぶさに目を通してゆく。

破損した窓と窓枠の修理、木箱の修繕。


様々な項目が並ぶが、中でもとりわけ目を引くのが、盗難された『()()』の賠償として計上された額だ。

900,000Gと、賠償全体の実に9割を占めている。


人造の神器たる、『宝貝』の重要性は碧も認識している。

クランでも幾つか所有しているが、ここまでの高値が付くものは寡聞ながらに耳にしたことが無い。



()()()()、でしょうか・・・?)



脳裏にふと浮かんだ疑問を晴らすべく、更に書面をつぶさに確認する。

―――が、怪しい点は見当たらない。


訴え自体も、【学園】の運営部を通した正式なものだ。


現実の役所ならいざ知らず、生ける神たるヘレンが目を光らせる運営部には、大規模な不正は許されない。

そして何より、件の『宝貝』に碧自身、()()()()があった。


市場から戻って以来、黄が持ち歩いていた品の一つ。

野暮ったいデザインの眼鏡が、()()だ。


聞けば、話題の『亜麻色の髪の少女』の()()()だという。

つまるところ、()()だ。


当時はクランメンバーと一緒になって、持ち主に返すよう必死に説得を試みた。

・・・が、()()()()()()と押し問答を続けた末、ある日を境に()()()()と見かける事が無くなったのだ。


黄に聞けば、『()()()()』としか言わず、それきりクラン内でもその事は触れられぬままである。

眼鏡を渡したくないが為についた嘘かも知れぬが、彼の事だけに本当に紛失した恐れもある。


つまり、現物を返して賠償を取り消させる事も出来ない。

()()()()()だった。



「どちらにせよ、頭の痛い話ですね・・・」



果たしてこの一件、如何に対処するべきか。


軽く頭痛を覚えつつ、若きアイドルは今日もため息をつく。

奔放な幼馴染の気まぐれに振り回され、碧の日常は今日も騒々しく幕を開けるのだった―――


今週はここまで。

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