∥001-B 閑話・とある文通仲間の邂逅について
#前回のあらすじ:あーちゃんに外人の文通相手が発覚!
[エリザベス視点]
―――そう、あれは忘れもしない2年前。
私のEメールアドレスに届いた誤送信メールに返信した事が、全ての始まりでした。
馴染みのない日本語で綴られた文面は素朴なもので、ついつい人違いだと知りつつ返信してしまったのですわ。
無論。
偶然を装った罠の類では無い事は、当家の者を使って調査済み。
当初としては、ほんの気まぐれでしたのに―――
いつしか彼女との何気ないやりとりは、私の中でとても大きな部位を占めるようになっていましたの。
彼女と話さんが為、一から日本語をマスターしようとする程までに。
辞書を片手に、返答の文面をああでもないこうでもないと考えた日々も、今となっては良い思い出。
すべてはそう・・・愛の力ですわ!
そして―――今。
キャシー・・・羽生梓は私の目の前、直接触れられる距離に居る。
感無量とはまさに、この事ですわ!!
「えっと。それで・・・リズ、さん?」
「はい!はい!」
「なんで、あたしの顔知ってるのー・・・?」
「―――はい?」
こてん、と首を横に倒して(Cute!!)キャシーが呟く。
その仕草の愛らしさに身もだえする私の脳裏に、不意にアラートが鳴り響きましたの。
何故、文章と通話でしか繋がりのない彼女の外見を知っているのか?
―――それは勿論、当家の者に命じて顔写真(盗撮!)と住所とプライベートな情報を入手(犯罪!)―――
「はっ。・・・こっこっこっこの間顔写真交換したばっかりじゃありませんの!そうですわよね!?お忘れですのっ!!?」
「ええ?・・・えー、そうだったかなぁ・・・?言われてみれば・・・うーんん・・・?」
あ、危ない、危ない所でしたわ!
咄嗟についたでまかせに誤魔化されてくれたのか、キャシーは小首を傾げながらも納得してくれた模様。
頭上に「?」を沢山浮かべたままうんうん唸る彼女の前で、私の心臓はふるえるほどビートを刻んでいましたわ。
今はどうやら半信半疑といった様子ですけれど―――
ここはあえて、押し切るまでですわ!!
・・・そこへ、丸海人がおずおずといった様子で声を掛けて来ましたの。
「えっと、つまり。あーちゃんのお友達だった、って事で、いいのかな?」
「え?えーとうん、・・・多分そう。言われてみれば、電話でお話しした時と同じカンジだしー?」
「なるほどなー、うんうん」
・・・丸海人。
キャシーの通うハイスクールの上級生にして、学内で一番親密と目される、異性。
この男。
仲は良いものの、恋人という程の関係では無いと調査結果にありましたが・・・。
一体、何が狙いですの?
ぎろり、と軽く睨みつけると、小柄な少年はおや、と一瞬怪訝な表情を浮かべました。
疑心暗鬼が膨れ上がる私の内心を知ってか知らずか、彼はにっこりと人好きのする笑みを浮かべ、こう続けましたの。
「・・・それにしても、綺麗な日本語ですね!びっくりしちゃいました。ひょっとして・・・、梓さんとお話しする為に、勉強されたんですか?」
「そだよー。リズったら、凄いの!電話番号教えて貰った後、最初話した時はあんなにたどたどしい日本語だったのに。1か月もしないうちに、すっごく流暢に話せるようになったんだよ?」
「おお・・・それは確かにスゴい。―――あ、紹介が遅れましたがぼくは丸海人、○×のマルに海の人と書いてマルカイトと言います。あーちゃ・・・梓さんとはよく話す『男友達』って所です」
「そ、そうでしたの。まあ、今はヘレンの力で会話も通じてますし、語学の習熟度相とは無関係ですけれど。私の方も、よろしくしてあげましてよ」
「こちらこそ!そんなわけでよろしく、・・・エリザベスさん!」
そう言い終えると、ばちんと下手糞なウインクをしたきりマルは黙りましたわ。
―――ひょっとして、これは助け舟のつもりですの?
そしてあくまで、自分はただの男友達だ、と。
その真意を測りかね思わず見つめ返しましたが、彼は相変わらずニコニコと笑顔を浮かべたままです。
次いで、恐る恐るキャシーの様子を盗み見れば・・・。
先程までの疑問はどこかへ行ってしまったのか、にこにこと私と丸海人を交互に眺めていました。
これは―――誤魔化せた、という事ですの?
少々シャクに触りますが、ここは彼へ素直に感謝しておくべきでしょう。
私は友好の証とばかりに、マルの小さな手とためらいがちに握手を交わし、そして―――
その手を放す前に、彼は小さくこう付け加えるのでした。
「・・・今のは貸し一つ、ですよ?」
「・・・っ!?」
驚愕の表情のままに小柄な姿を見返すと、彼は何事も無かったかのようにキャシーとお喋りを始めた所でした。
丸海人・・・。
敵かどうかはまだよくわからないけれど、中々に油断のならない人物のようですわね―――
※2023/1/8 文章改定




