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お釜大戦  作者: @FRON
第六章 震撼☆フレーズ!!
268/342

∥006-16 震感☆フレーズ

#前回のあらすじ:ええっ!?あのアイドルスターが目の前に!?



[黄(ホァン)視点]



「てめぇ・・・。()()()()()()()()()?」



壇上より、怒気を孕んだ男の声が上がる。


ポマードをたっぷり付けた黒髪を()()()()リーゼントに()()た、ロカビリー風衣装の青年。

彼が睨みつける先には、暗色のフードを目深に被った男が佇んでいた。


身長170後半、やせ型ながら()()()()で猫のような身のこなし。

目深に被ったフードの下の口元が、()()()と不敵に吊り上がる。



「―――退()()()()、って言ったんだよ~。あはは!」



その発言に、周囲から殺気を孕んだ視線がフードの男へと集った。


現世のライブハウスであれば、運営スタッフによる『()()()』がかかりそうな場面であるが、ここはあくまで【学園】。

()()()()()のこの場では、今回のような騒動が日常茶飯事であった。


時系列は、マル達がフードの男と出会うより数時間前。

湖上のマーケット奥に位置する小アリーナにて、密かに起きていた出来事である。


だしぬけに発生した騒動に、周囲の聴衆からは怒りと、不安がない交ぜになった囁きが沸き上がる。

それをBGMに、フードの男は()()()()、といったふうに小さく肩をすくめて見せた。



「歌も、演奏も、全然()()()()()()()。こんな学芸会レベルの演奏、聞かされる方の身にもなって欲しいよね~?」


「てめぇ・・・()()()に来たぜ!!」


「キング様ー!」「やっちゃえー!!」



ボーカルの青年は怒りも露に、フード男を指差し啖呵を切る。


古臭いデザインのマイクがその声を拾い、()()()、と耳障りなノイズが響き渡った。

周囲からもブーイングが後押しし、一触即発の空気がその場に流れる。


一方。


フードの男は小さく嘆息すると、()()、と大きく息を吸い込んだ。

そして―――()()()()



「LALALA―――」


「「・・・!?」」



腹を満たした()はボーイソプラノの歌声となり、たちどころに周囲を己の色へと染め上げた。


アカペラで奏でられた、清涼なる調べ。

そのメロディは天使の歌声のように聞くものの闘志を奪い、たちどころにうっとりとした表情へと塗り替えてしまった。


一瞬前まで顔を歪ませ、野次を吐いていた聴衆達が水を打ったように()()と静まり返る。


寸前までの怒りを忘れたかのように、鳩が豆鉄砲を喰ったような表情を浮かべるボーカル。

男は満足げに()()()と笑うと、身に着けていたフードを一息に脱ぎ捨てた。


―――()()()()()


そこには果たして、きらびやかなステージ衣装を身に着けた、一人の青年が佇んでいた。

その姿、その声は芸事に関わる身であれば、一度くらいは目にしたことがあるであろう。


極東アジアにおける、不世出の大スター。

アイドルグループ神话(シェンファ)のリーダー。


黄小天(ホァンシャオティエン)、その人であった。


ニュースの記事くらいでしか目にしたことのない顔が、目の前にあるという事実。

あまりに現実味のない状況に、その場の誰もが当惑し、()()()()と不安げに囁きを交わしている。


その隙にとばかりに、黄は()()()と壇上に飛び上がるとボーカルの男からマイクを奪い取ってしまう。

()()、と声を上げる間もなく、メインポジションに収まったステージ衣装の男は、再び大きく息を吸い込んだ。


―――この日、小アリーナにて新たな『()()』が産まれた。

聴衆達はその瞬間の、数少ない目撃者となったのである。




  ・  ◆  ■  ◇  ・




[マル視点]



(何だ、コイツ・・・!?)



時は戻って、現在。


ぼくは(かなえ)くんを背後にかばうようにして、突然フードを脱ぎ捨てた男を唖然としながら見つめていた。

黄 小天―――ぼくも耳にしたことのある、隣国である大新帝国(だいしんていこく)出身のいわゆるアイドルスターである。


甘いルックスと、類まれな美声。


デビュー間もない彼が一躍、時の人となるのは正しくあっという間の出来事であったという。

TVのニュース番組でその活躍を目にする度に、ぼくは無性に()()()()したものだった。


それが、今。

目の前に居るのだという。


はたして、その目的は一体()であろうか―――?


屈託のない笑顔を浮かべる黄とは対照的に、能面のように無表情のまま、未だ掌中にある眼鏡を睨む亜麻色の少女。

普段隠された素顔を晒し、彼女はその美貌を露にしている。


周囲から集まる視線は、アイドルスターと彼女で1:1で二分されていた。


月と太陽のように、稀代のスターと遜色ない美貌を持つ彼女。

衆目の集まる中、感情を押し殺したような声で(あきら)さんは男に告げるのだった。



「―――何のつもりかは知らないが。返してくれないか、それ」


「ふふん、や~だねっ。どうしても欲しいなら、さ。・・・()()()()()()()()()()


()()()



間髪入れずの回答であった。


奪取した眼鏡を指先で弄びながら、得意満面で放った言葉のレスポンスは―――()()()()()()

一瞬、()()()とした表情を浮かべた後、ステージ衣装の男は唐突に笑い声を上げた。



()()()()()!・・・ああ、ごめん。()()()()()だったみたいだ。それとも―――知らなかったのかな?この僕が『神话』のリーダー、黄小天だよ~。僕がお願いしてるんだからさぁ、勿論、聞いてくれるよね~?ハハッ!」


「・・・いや、何度言われても嫌です。それより、眼鏡返せ。あと、顔近づけすぎ」


()()()・・・?」



至近距離にまで迫っていた()()()を、いかにも嫌そうに押しのける明さん。

路上でアイドルに求愛されるという異常事態でも、彼女はびっくりするくらい()()()()だった。


二度目の拒絶に、思わず周囲の空気が凍り付く。


―――アイドルグループ『神话』。

そのリーダーである彼に付けられた愛称は、『小天子(シャオティンズ)』。


清朝皇帝の()()であり、旧満州全域にてコングロマリットを形成する『黄財閥』の御曹司でもある、彼をイメージしたものである。

しかし―――この名には、()()()()が存在した。


中国大陸において『()()』とは、『()()』の別称である。

それになぞらえ、手の付けようがない程の我儘者を指す言葉を『小皇帝』(シャオファンディ)という。


()()()()()()()()()()()()において。


一人っ子政策の弊害として産まれてしまった、長子を甘やかし放題に育てた結果の、()()()()()

奇しくも、その通称もまた『()()()』である。


『小天子』とは、『小皇帝』との()()()()()()()()としての側面を持つ呼び名なのである。


名は体を現す、の言葉通り。

黄は輝かしい栄光とは対照的に、()()()()()()()()()()()としての側面もあった。


業界内の醜聞に収まらず、一般の女性ファンと関係を持った挙句、こっぴどく振った等の話が盛り沢山。

女性問題に限らず、その奔放さ、我儘さを現すエピソードが数限りなく存在するのが実態である。


だがしかし、この時点でのぼくはそんな事は()()()()()()()()()()

海を越え、日本の地にまでそれが届かなかったのはひとえに、プロダクションとその出資元である黄財閥が、全てを()()()()()結果であった。


何をしても許される、どんな我儘も聞いて貰える。

そんな環境において際限なく肥大化した自尊心は、今、()()()()()()()()()()()()()()



()()()・・・。君、そういう事言うんだ?()()()、だね・・・。ああ、()()()()―――」


「・・・()()()!?」


「こいつが()()()なのかなぁ!?あははははは!!!」



目の端を()()()()と引きつらせながら、押し殺したような声を漏らすアイドルスター。


その様子を、側から()()()()しつつ見守っていると、突然()()()と視線が合った。

―――かと思えば、次の瞬間。


突如、顔面に感じた()()に吹っ飛ばされ、()()()()()()()()()()()()()



「マルさんっ!?」


「おい!何を―――!?」



・・・()()()()、いや()()()()!?


全然、見えなかった。

気付いた時には熱のような痛みと、僅かな浮遊感。


そして次の瞬間には、背中から()()()と床板の上へ叩きつけられる。

一瞬息が詰まり、続けて全身に走る痛みにぼくは身体を硬直させた。


()()()()、と酸っぱいものの混じる唾を吐き出しながら、何とか立ち上がろうとする。

しかし―――そうする間もなく、男による追撃が待っていた。



「あははは!あはははははははっ!!」



愉し気な声と共に、()()()()()()と靴底が全身に打ち下ろされる。

恐怖と混乱の中、ぼくは必死に身を丸めて急所を守るしかないのだった。



「ぐっ、この・・・!」


「惨めだよねぇ、悲しいよねぇ?君みたいに、()()()()はさぁ!ほら、ほら、言いなよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()ってさぁ!!」


「ま、マルさぁーん!!?」


「・・・っ!!」



そうして()()()()()脚を振り下ろした後、軽く上気した顔のまま髪をかき上げると、()()、と短く息をつく。

全身くまなくストンプされ、ぼくは痛みに身動きがとれぬまま、嘲るような声が降って来るのを()()と耐えていた。


―――少し離れた場所から、叶くんの悲痛な声が聞こえる。


彼は無事だろうか?

側に明さんが付いているんだ、そこは安心していい筈だ。


そして流石に、異常な事態の連続にそろそろ周囲からも、不安気な声が上がり始めていた。

それを察知するかのように、男が声を上げる。



「・・・()()!皆もそう思わない?僕みたいに、イケメンに産んでもらえないと不幸だよね~。()()?」


「そ、そうよね・・・」「う、うん・・・」「よく見ると所々黒ずんでるし、不潔よね。チビだし」


()()()?君みたいなブサイクは、蟲みたいに踏んづけられて当然なのさ。それとも、勘違いしちゃった?人並みに、お天道様の下に出ていても大丈夫だってさ」


「だよね、だよね!」「ホァンさま、やっちゃってー!!」


「・・・()()()!」


「アハハハハ!皆もそう思うってさ!!僕みたいな()()()にしか、美女の側に立つのは許されないのさ~」



最後に背中の上に勢いよく足を乗せると、黄は上機嫌といった様子で笑い声を上げる。

アイドルの天性として、彼は集団を煽り、意のままに操る術を身に着けていた。


いわゆる()()()()によって、平素であれば眉を顰めるような行為が正当化されてゆく。

ファンを味方に付け、得意絶頂となった男は高らかに笑い声を上げた。


()()()()()()()ついでに目障りな輩を排除し、次はとばかりに、()()()と亜麻色の少女へ視線を投げかける。


ぼく達から距離を取るようにして、少女は表情を強張らせたまま事態の推移を見守っていた。

その背後には、怯えるように地面に這いつくばる少年を見つめる、白髪の少年の姿があった。


一瞬、男は()()()()()()()()()

訝しむような表情を浮かべた後、すぐに意地悪な猫のように()()()()と笑みを浮かべると、男は再び口を開いた。



「・・・ああ、スッキリした!でも、残念~。僕を邪魔するお邪魔虫は、()()()()()()()()()()()。それじゃあ―――」


「ひっ!?」


()()()()()()()()()!?」


「・・・()()!!」



言葉を途中で切り、黄は拳を振りかぶると()()―――叶くんに向けて振り下ろそうとした。

両者は数Mは離れていた筈だが、【神候補】としての身体能力に物を言わせ、瞬時に()()を詰めている。


真っ赤な瞳を大きく見開き、息を飲む白髪の少年。

その顔に拳が叩き込まれる寸前―――身体ごと、その前に割り込ませたのは明さんであった。


目と鼻の先で、()()()と静止した握りこぶし。

それを睨みながら、瞬き一つせず少女は軽く息を荒げている。


切れ長の目、深い色を湛えたねずみ色の瞳。

僅かに浮かんだ汗の玉が、()()、と整った顎の先に流れて、落ちた。


その妖しい美しさに、見る者から()()、とため息が漏れる。

床の上に転がったまま、ぼくもまた()()()()()()()と、亜麻色の髪の少女は僅かに震える声で、()()()と小さく呟くのだった。



「弟、に。・・・()()()()()()()()()


「おねぇ、ちゃん・・・」


「弟。・・・なぁんだ、()()()~。あははははは!ごめんねぇ?僕、()()()しちゃったよ~」



それまで浮かべていたサディスティックな笑みを引っ込め、男は突然、無邪気に笑い始める。


―――彼は、己の誘いが断られた理由を、()()()()()へと求めていたのである。

問題の根をあくまで他に求める、()()()()の為せる業であった。


最初にぼくが狙われ、徹底的に痛めつけて()()()()()

結果は、()()()


()()、とばかりに叶くんへ矛先を向けたところ、()()であることが判明。

これでもう、目の前の美女を手に入れる障害は何も無くなった。


―――そもそも、邪魔者も何も無関係に、()()()()()()()()()()()()のだが。

そんな事を察せられる程、男の頭は利口に出来てはいなかった。


やり直しとばかりに、男は煌びやかなスマイルと共に手を差し出す。

そして白い歯を輝かせながら、芝居がかった仕草でこう告げるのだった。



「君を一目見た時からさ、()()()()()()、って思ったんだよね~。そしたら()()()!見たこと無いくらいの美人さんじゃない?これはもう、()()()()()()()()()()よねぇ?」


「・・・・・・」


「さっきは、()()()()()()()があったみたいだけどさぁ。そちらの弟くんも、()()、してくれるよね~?」


「・・・()()!?」


「そういう訳だからさぁ。今度こそ僕の誘い、受けてくれるよね・・・?」



一瞬、向けられた鋭い視線に弟くんが短く悲鳴を上げる。

それを背に庇いつつ、明さんは()()、と歯がみするのだった―――



今週はここまで。

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