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お釜大戦  作者: @FRON
第六章 震撼☆フレーズ!!
267/343

∥006-15 ファッションショーのち、遭遇。

#前回のあらすじ:こんな所でダラダラしてないで市場行こうぜ!



[マル視点]



「ど、どうでしょう?似合ってますか・・・?」


「+.゜(*´∀`)b゜+.゜イイ!」


「ハァハァ。ヤッバ・・・まぢ天使・・・推せる・・・」



()()()、とカーテンが引かれ、更衣室の中が露になる。

そこから姿を現したのは、細い身体にぴったりな服に身を包んだ(かなえ)くんだった。


新雪のような髪の色と調和するような、落ち着いたベージュのシャツ。

ネイビーのパンツはほっそりとした身体のラインを強調しており、特に腰の細さは犯罪的だ。


彼の持つ儚げな繊細さと、柔和な人柄を現すようなデザインは、フェミニンな魅力をふんだんに引き出していた。

叶くんの為にあつらえられたかのような衣装に、ぼくは思わずサムズアップで出迎える。


その隣では、ギャル風の女店員さんがやたらと興奮した様子で、絞り出すような呻きを上げていた。

慣れない賞賛の声に、頬を赤く染めて恥じらう白髪の少年。


ためらいがちに()()()、とこちらに向けられたルビーのような瞳に、隣からは再び黄色い悲鳴が上がる。

そんな様子を一歩離れた場所より、(あきら)さんが呆れた様子で見守っていた。


―――現在のロケーションは引き続き、湖上の市場(マーケット)


会取(えとり)姉弟と連れ立ってお出かけ中のぼくらは、フリーマーケットの露店を冷やかしつつ、あてもなく()()()()と散策を続けていた。

その途中、立ち寄った衣服を扱う露店にて、叶くんに目を留めた店員さんの提案により、突発ファッションショーが開始されたという訳だった。



「つっ、次!次はコレ!着てみよっか!!はぁはぁはぁ。あたいコレ、ゼッタイ似合ってると思ーし!!」


「えっ?えっ?・・・ど、どうしましょうか。おねぇ―――姉さん」


「その位、自分で決めろ」


「しゅん・・・」


「あらら」



今にも鼻血を吹きそうな勢いで、両手に持った衣装をプッシュする女性店員。

タジタジといった様子の叶くんは()()()、と助けを求めるように、姉である明さんへ視線を送る。


しかし、返ってきたのはすげない反応であった。


―――幼少の頃、今よりずっと虚弱だったという叶くん。

その頃より自分を庇護し続けててくれた姉の事を、彼はいたく崇拝しているらしい。


普段の会話の端々から、その様子は()()()()と垣間見えている。

だがしかし、今のように判断に窮したり、困った事があるとすぐに明さんに頼ってしまうという、困った()()も併発しているのだった。


寮でも何度か目にしたやりとりに、()()()()、と顔を覆うぼく。

目に見えて落ち込んでしまった叶くんをフォローすべく、ぼくは店員さんの前に進み出た。



「はい、はい。失礼しますよ、っと。・・・うん、良いんじゃないかな?きっと似合うと思うよ。でも―――結構長居しちゃってるし、コレで最後にしとこっか。店員さんも、それでいいかな?」


「えぇ・・・?でも、こっちだって絶対引き下がれないし!」


「まあ、まあ・・・」


「ご―――ごめんなさい!ボクもそろそろ、他の所に行きたいかな・・・って」


「そんなぁ・・・。まぢショック、まだまだ着て貰いたいヤツ、一杯あるのに・・・」



助け舟の甲斐もあってか、意を決した叶くんが上げた声によって、店員さんががっくりとうなだれる。

何だか申し訳ないが、叶くんの言うとおり、何時までもここに留まっても居られないしね。


渋々、といった様子の店員さんから衣装を受け取ると、何度も頭を下げながら叶くんは更衣室の中へと消える。

木組みと布だけの簡素な更衣室を見つめながら、ぼくは()()()()、と肩をすくめるのだった。



「・・・過保護すぎじゃないのか?」


「明さん―――」



待つ間、何となく手持ちぶさたにしていると、()()、と誰かが背後に立つ気配がする。

視線だけでそちらを振り向くと、頭二つ分上らへんに陽光を受けて、()()()と光る分厚いグラスがあった。


叶くんのお姉さんこと、明さんだ。


女性としては高身長な彼女と視線を合わせようとすると、どうしても自然とこうなってしまう。(()()()()()()()()()()()()()

今まで静観を決め込んでいた筈の彼女だが、何だかんだで弟くんのことが気になるらしい。


ぼくはわずかに苦笑を浮かべつつ、彼女に語り掛けるのだった。



「・・・他の人ならそうかもですけど、叶くんですから。まあ、彼なりに頑張ってくれてるみたいだし、そっと背中を押すくらいなら大丈夫じゃないです?」


「・・・そんなモンか?」


「そんなモンです。一人立ちするにしたって、最初くらいは補助輪があってもイイじゃないですか」


「そうか」



ぽつり、と呟かれた肉親からの一言。


何だか言いたいことを色々押し殺したようなそれに、ぼくは()()、とレンズの奥を見つめながら答える。

対する彼女は短くそう呟くと、それきり()()、とそっぽを向いてしまった。


今回の事に限らず、傍目から見ても明さんは、弟くんとの間に距離を取ろうとしているように感じる。


でもそれは多分、彼の()()()()()()では無いかと思うのだ。

その証拠に、すげない態度を取りつつも彼女の視線の先には、常に叶くんの姿があった。


身内の問題である以上、この件についてぼくから口を出せる部分は少ない。

それを理解しつつ、あくまで部外者として出来る事は、今みたいにそっと見守る事くらいだろう。


そんなやりとりを交わしていると、更衣室で動きがありそちらを振り返る。

再び開かれたカーテンに、周囲からの視線が一斉に集った。



「―――あ、そろそろ出てくるみたいですよ?」


「ああ」


「そ―――その!この服・・・、ちょっと()()()()()()()()()()じゃないんですか・・・!?」


「・・・()()()・・・」


「やだ・・・まぢ最高・・・もうムリ・・・」


「あ、()()()



―――果たして、姿を現したのはダンスウェアような、身体にぴったりと張り付いた衣装を身に着けた叶くんだった。

真っ白な頬を羞恥に紅潮させ、()()()()と身もだえする姿は、彼が男の子だとわかっていてもなお目に毒だ。


思わずぼくが目を丸くする横で、()()、と鼻血の軌跡を残し、店員さんが卒倒する。

どさり、と背中から崩れ落ちた彼女の右手は、天に向けて高くサムズアップされていた。


―――()()()()()()()()()


人込みでごった返すマーケットの片隅で、美の極致を目指したチャレンジャーは露と消えた。

その場に残されたのは、床板に点々とついた血の跡と、店員さんの最期を目の当たりにした少年のか細い悲鳴であった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




「・・・酷い目に合いました」


「あははははは」



ちょっぴり拗ねたように呟く白髪の少年に、隣で歩調を合わせつつ()()()と笑い声を上げる。

そんなぼくを恨めしそうに睨むと、白い頬を()()()と膨らませた叶くんは()()、と小さくため息をついた。


あれから少し時が経ち、ぼくらは先程とは違った区画にまで脚を向けていた。

別れを惜しむ店員さんに試着した衣装を返した後、向かった先はこれまであまり立ち入った事のないあたりだ。


並んで歩くぼくら二人の後ろから、数歩おいて明さんも無言で付いてきている。

相変わらず、用のない時は観葉植物のように黙っている彼女だが、視線はしっかり叶くんと、時々こちらにも向けられるのを感じている。


ぼくはおしゃべりの自覚はあるが、かといって沈黙が嫌いというタチでもない。

そもそも、うちの父ちゃんが普段、全然喋らないタイプな訳で。


そのお陰もあってか、彼女のような雰囲気の人でも特に苦にはならないのだ。

・・・いや、もう少し交流できたらな、とは思うのだが、それはまた()()()()進めて行けば良いことだろう。


―――と、そこで反対側から歩いてきた集団に叶くんがぶつかりそうになり、慌てて横から手を引っ張った。



「凄かったねー!」「ねー」「感動したー!」


「わ・・・、っと」


「あ、ごめんなさーい」


「・・・ふう、危ない危ない」



通りすがりに謝る声を残し、小集団はそのままゾロゾロと通過していく。


・・・かと思えば、似たような集団が幾つも、同じ方向から流れてきた。

あっという間に、対向側からの人波によって周囲は埋め尽くされてしまう。


ぼくはちょっと眉根を寄せると、引っ張る手をそのままに隅っこの方へと誘導するのだった。



「あ、ありがとうございます・・・」


「なんのなんの。でも、何だろ?向こうの方で何か、催しでもやってる?」


「何でしょうね・・・?皆さんの様子を見ると、これから参加するって()()じゃ、無さそうですけれど」



道の端に寄りながら、すれ違っていく人波を観察する。


その誰もが興奮冷めやらぬ様子で頬を紅潮させつつ、熱っぽく何やら語り合いながらぞろぞろと歩いている。

来る方向が常に一定である事から、どうやら何かのイベントがこの先で開催され、それが終わった結果が()()―――と、いう事らしかった。



「一体なんなんだろ?明さん、向こうに何があるのか知ってます?」


「・・・あっちには確か、()()()()()()()があったな。事前に確かめた範囲じゃ、特に目立ったイベントなんかは無かった筈だが―――」


「なるほど?それにしちゃ、なんだか皆さん()()()()()っぽい様子ですけど」


「そうだな。―――()()()()()()でもやったか?でも、一体()が・・・?」



ひとつ首を傾げた後、事情を知っているか問いかけたところ、明さんからはそんな答えが返ってきた。

眉を八の字にして唸る様子を見るに、彼女にも心当たりはないらしい。


―――補足しておくと、【学園】内部でも()()に勤しむ人達は一定数存在する。


現世の駅前で見るような路上ライブから、有志を募っての小規模な演奏会まで、その類に関わる人は意外と近くに居るのだ。

ぼくがよく立ち寄る全裸農場―――()()()パリヴァール(parivaar)農場でも、手製の楽器を演奏している人を数人知っている。


この時のぼくは知らなかったが、そうした人達が発表の場として利用しているのが、行く手に存在する小アリーナであった。

普段は演劇や演奏会といった小規模な催しに用いられ、人々の憩いの場となっているのだ。


だが―――()()()()()()()()()()()



()()―――っ?」


「?」


「えっと。誰・・・です、か?」



ふと気付いた時には、ぼくらの前に一人の男性が立っていた。


170cm後半。

全体的に細身だが、その動き一つ一つが機敏で猫のようにしなやかだ。


暗色系のフードを目深に被っており、影になった顔はその口元しか見えていない。


明らかに、こちらへ向けて放たれたその一言に、ぼくと叶くんが揃って首を傾げる。

しかし、フードの奥から放たれた()()は、ぼくら二人に向けられたもの()()()()()()


瞬きの後、男の姿が不意に消える。

そして、次の瞬間。


その姿はぼくらの間を通り越し―――その背後に立つ、明さんの目の前に出現していた。



「「!?」」


「なっ・・・!?」


「―――やっぱり!()()()()()()だ、アハハハハハ!!」



すっ。


男の手が、目にも止まらぬ速さで動いていた。

気付いた時には、その手には()()()()()()()()()握られている。


()()()()


見覚えのある、分厚く不格好な眼鏡を手先で弄びながら、男は()()()()と笑い声を上げた。

一瞬、その手先に目を留めた後、彼女の下へと視線を滑らせる。


そこには、()()()()()()、しかし()()()()()顔があった。



「あっ・・・!?」


「くそ。・・・()()()()



常用している眼鏡を奪われ、素顔となった明さん。

彼女は僅かに狼狽の色を見せつつ、小さく舌打ちする。


―――忘れる筈もない。

あの夜、月の下で目にした()()()()


ぼくと叶くんの危機に駆け付けた彼女と、目の前の少女の顔は()()()―――否、()()()()のそれであった。

仙女の正体は、()()()()()()()()()()()


半ば確信していた事だけに、いざ目の当たりにしてみると妙な納得感が。

そして、それ以上の衝撃があった。


基本的な顔のベースは、弟と同じ。

しかしより成熟した、女として花開いたばかりの美貌。


切れ長の瞳、眼前の男を睨む視線の鋭さ、メリハリの利いた肉感的な肢体。

弟である叶くんと並べてみれば、なるほど、確かにこれは同じ血を引いた双子なのだと納得せざるをえない。


だが、何かと己に自信のない弟と違い、自らの見せ方を熟知した、女性としての魅力はもはや別次元のものだった。

その()()()()()()に、周囲を流れていた人込みがたちどころに静止する。


―――辺りを、静寂が満たした。


誰もが息を飲み、視線は()()にくぎ付けにされていた。

視線の先にあるのは、素顔を露にした亜麻色の髪の少女と、その前に立つフードの男だ。



「―――()()


()()()!捕まらないよーだ、()()!!」



静寂を破ったのは、明さんの怒気を孕んだ声だった。

矢のような鋭さで手を伸ばし、男が持つ眼鏡を奪い返そうとする。


しかし、男の身のこなしは()()以上であった。

手が届くすんでの所で飛びすさり、嘲るように笑い声を上げる。


―――男の動きにつられ、目深に被っていたフードがずれ、()()()()()()()()()


先程に続き、周囲の群衆から()()と息を飲む音が立ち上る。

動揺がさざ波のように広がり、()()()()と囁く声が()()()()()から上った。



「嘘でしょ・・・」「何でこんな所に()()()様が!?」「ヤバ、近すぎ・・・!」



悲鳴のように上がる声の中、集う視線の先が謎の男の下へと移る。

それをシャワーのように浴びつつ、()()()と無邪気な笑顔を浮かべたそいつは、一挙動で()()()とフードを脱ぎ捨てた。


群衆が再び、息を飲む。

暗色のフードの下から現れたのは、きらびやかなラメ入りの装飾が施された、()()()()()()()()()()であった。


ぴったりと身体のラインに沿いつつ、最大限視線を集める為()()に作られた服。

アイドルや歌手のような、特定の業種にしか許されない()()を、男は第二の皮膚のように着こなしていた。


―――沈黙は、()()()()()()()()()()()()


黄小天(ホァンシャオティエン)

隣国である大新帝国(だいしんていこく)の現役大スターであり、【神候補】の一人としてもその名を知られる人物。


蜂蜜の(ハニー)フェイスと天使の歌声(エンジェルボイス)と評される彼は、某国若手No.1シンガーとして、我が国でもその名を知られていた。

ぼくの知り合いにも、彼に熱を上げる()()()()が居る位だ。


そして、【学園】における例外の一つとして、彼は気まぐれに芸能活動を行っていた

ファンの間で取引されるライブのチケットは、値千金の価値が付けられている程だ。


今、周囲を埋め尽くす群衆は、その全てが先程まで、彼の美声に聞きほれていた聴衆達だ。

明さんの言葉通り、事前情報ナシに開催されたゲリラライブによって小アリーナを()()()()し、つい先程その場を去ったばかりである。


その男が、何故、明さんの眼鏡を奪ったのか?

場の視線を集めるがままに、ステージ衣装の男は陶然とした笑みを浮かべるのだった―――



今週はここまで。

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