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お釜大戦  作者: @FRON
第六章 震撼☆フレーズ!!
263/342

∥006-11 Missing

#前回のあらすじ:今となっては思い出の中にしかない、あの光景。



[マル視点]



「まず大前提として。ぼくとあーちゃんは、恋人とか()()()()()ではありません。『()()()()()()()()という、一種の契約関係にあるんです」


「なんだそれ」



【揺籃(ようらん)寮】の一室、ぼくが借りている部屋にて。


来客者である会取(えとり)姉弟の片割れ、(あきら)さんがぼくの言葉に()()()と首を捻る。

もっともな反応であるが、改めて言葉にすると、本当に『()()()()()』な関係だ。


―――なのだが、それにはれっきとした()()があるのだ。

若干あきれ気味にぼくを見つめる彼女に向けて苦笑を返すと、ぼくはその『()()』について語り始めるのだった。



「予想通りのご反応、ありがとうございます。まあ、わけわかんない、って感想が出るのも当然ですよね。・・・実を言うと、ぼくとあーちゃんは今の関係性になる前、あんまりサシで遊んだりした事も無かったんですよ」


「それほど親しくは無かったと?今の様子からは正直、想像できないんだが・・・」


「それはまあ、あーちゃんは()()()()()()のコなんで。昔からわりと誰にでも、最初から距離感バグった感じに接してましたけどね。でも、粗暴だったり、他人の悪口ばーっかり吹聴したり、そういう()()()には全然絡みに行かないあたり、人を見る目は確かなんだと思います」


「・・・なるほど。言われてみれば確かに、あいつはそういう所があるな」



―――羽生梓(はにゅうあずさ)は見るからに()()()()()()少女であるが、不思議と人間関係で本当に危ない目に遭ったことがない。


誰にでも分け隔てなくハグしたり、友達感覚で話しかけるようでいて、それをする相手には明確な()()が存在するのだ。

例として、タチの悪い、いわゆる()()()()と評されるような手合いは、彼女から接触する頻度が極めて低い。


逆に、そういった手合いが向こうから絡みに来た場合は、周囲のグループがそれを阻む形となる。

そんな関係性が友達ネットワークの中で既に出来上がっており、天真爛漫な少女を守る為の防壁が自然と形成されていたのだ。


そして幸いなことに、ぼくはそんな彼女にとって、気兼ねなく声を掛けられる相手というカテゴリに含まれていた。


会長を接点として、時折接することのある元気な少女。

それが当時のぼくの、あーちゃんに対する認識だった。


―――ちなみに。


今、こうして話を聞いて貰っている彼女もまた、あーちゃんが頻繁に絡みに行く相手にカテゴライズされる。

寮に遊びに来る場合、あーちゃんが行く先には決まって管理人室が含まれているのだ。


それこそあの『会長』を彷彿とさせる懐きっぷりなのだが、そんな彼女には実は色々と()()()が付きまとっているらしい。

アコギな商売をやっているだとか、高利で借金を押し付けた債務者を奴隷のように扱っているだとか。


他の【神候補】達から()()()()と、そういう胡乱な噂が囁かれているのだ。

だが、あーちゃんの鑑定眼はそんな彼女を、『()()()()()』と識別している。


あくまで噂は噂、アテにはならないという所か。

ぼく自身としても、実際に接した感想としては『色々とシビアなだけで、面倒見のいい頼れるお姉さん』というのが正直なところ。


あとブラコン。


・・・と言うか、彼女のぶっきらぼうな語り口調を聞いていると、どうにも連想するというか、()()()()()()()()()()()が居る。

市場で出会ったあの老夫婦、特に()()()()()()()()()()()()と、彼女のパーソナリティが被って見えるのだ。


―――彼女の本当の姿はもしかすると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかも知れない。



「・・・()()、話が逸れましたね。ともかく当時、彼女と親交があったのはぼくじゃなく、共通の友人である他の人物―――『()()』だったって事です」


「その()()、とは?」


「うちの生徒会長―――()()()人です。ぼくを含む生徒達から会長、って呼ばれてて、あーちゃんもしょっちゅう、()()()()()()()()()()、って。そう呼びながらベッタリくっついてました」



放課後の生徒会室。


意中の人と接する機会を欲して顔を出した先で、トレードマークのポニーテールを揺らす後輩に抱きつかれ、困ったように微笑む顔。

懐かしい思い出が、記憶の奥で僅かな痛みと共にくすぶる。


―――話題はようやく、『()()()』の下へとたどり着いた。


胸の奥では今でも古傷が疼き、()()()()()()と鈍い痛みを放ち血潮を流している。

彼女にまつわる記憶は未だ、ぼくの中では消えない傷跡として残り続けているようだ。


一旦言葉を切り、胸の上に掌を当ててぼくは深呼吸を繰り返した。



「・・・辛いようなら、また今度にして貰って構わないぞ?」


「いえ、話します―――()()()()()()()()


「わかった。無理しないよう、自分のペースで続けてくれ」


「・・・ありがとうございます」



彼女の言葉が、暖かい。

忘れられない過去の傷に身じろぐぼくに掛けられたのは、予想外に穏やかな声色だった。


―――やはり、彼女は優しい人なのだろう。


過去を打ち明ける相手に、彼女を選んだことはきっと間違いではなかった。

そんな確信を強めつつ、ぼくは再びゆっくりと口を開いた。



「それで―――。ぼくとあーちゃんがあの約束をしたのは、あの時、()()()()()()()()()がきっかけでした」


()()・・・?」


「はい。去年の冬の事です。会長の大学受験を控えて、最後の息抜きということで、一家そろってオーストラリア旅行に行った時のことでした。出かける前、ぼくは彼女とちょっとした()()をしてまして。それでどうしても気になって、空港のロビーで帰りを待ってたんです。でも、何時まで待っていても彼女は・・・」


「・・・旅客機事故、か?」


()()、それがその。・・・不思議な話なんですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも、帰りの便に()()()()()()()()()()。航路の途中で、旅客機同士がニアミスしたとかで。すれ違った二機の乗客には、()()()姿()()()()()()が・・・」


「・・・その中に、探していた人も?」


「はい」



目を瞑れば、たった今起きた事のように思い出すことができる。


―――空港全体が騒然としていた。

()()()()()()、シドニー空港近辺にてニアミスした二機は危く衝突を免れたが、()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()


被害状況を確認する為、帰着した旅客機にて乗客を点呼した際、発覚した事実である。

マスコミの報道によれば、直前まで座席に居た筈の乗客が、ニアミスの数分間に煙のように姿を消してしまったという。


空港のロビーにて彼女の帰りを待っていたぼくは、それを報せるアナウンスに愕然とした記憶がある。



「それからのぼくは、毎日彼女のことを探しました。関係者を探して話を聞いて、休みの日には空港まで通って、会長のご家族とも協力して。自作のビラを配ったりもしました。―――毎日、必死でした。当時の事は、正直な所あまり、覚えてません。日々の細かい出来事が抜け落ちてしまうくらいに、探し求める人以外の事が何も、目に入らなかったんです」


「・・・大好き、だったんだな」


「・・・・・・はい。でも―――いくら探しても、()()()()()()()()()()()()()()



絞り出すように、()()()()を発する。

あの頃のことは、正直思い返したくない。


()()()()()()()()


ぼくはひたすら、打ち上げられた魚のように藻搔き続けた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


息をするのも辛い、それは()()()()()()()()()()()()だ。

ぼくにとって、彼女は―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ぼくが()()()()()()()()間、恐らく、沢山の人に迷惑を掛けた筈だろう。

今、ぼくが可能な限り周囲の人へ優しくあろうとしているのは、当時の事に対する贖罪の意味も含まれている。



「あーちゃんと『()()』したのは、その頃でした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(ぼく)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな事を何度も頼みこまれて、しぶしぶ承諾したんです。()()()()()()、って。あの時はそう思ってましたよ」


「それは。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ぼくも、()()思います」



あーちゃんの真意は、恐らく今、彼女が指摘した通りなのだろう。

あの頃のぼくは本当に、ひどい状態だったみたいだから。


心優しい少女にとって、当時のぼくはとても看過できない惨状だったという訳だ。

かくして、ぼくとあーちゃんは『()()』の先生と生徒の関係となった。


約束の内容は、実の所ただの思いつきだったのかも知れない。

ただ、ぼくが()()してしまわないよう、失ったものを埋めるように、彼女が側に寄り添ったのだ。


その恩を、()()()()()()()()()()彼女に返そうと思っている。



「そういう訳でして。ぼくとあーちゃんは特に期限を設けなかったあの約束を、今でも律義に守り続けてるんです。・・・だから、彼女が自分で決めて、選択した結果ならそれが何であろうと、ぼくは受け入れます。あの男性のことを『()()』になって、これから先ずっと一緒に居たいと、そう言い出したのなら。ぼくは―――それを祝福してあげないと」


「・・・()()()



まあ、大分混乱するとは思いますけど。

そう付け加えて苦笑するぼくに、明さんはなんだか困ったように、()()()と返した。


―――長々と回想を挟んだお陰か、幾分気分が落ち着いてきた。


あの後輩が()()()()()()()()()()()、なんて事態にすっかり混乱していたが、やることはシンプルでよかったのだ。

【学園】から戻ったら明日にでも、あーちゃんへ連絡して事情を直接聞いてみよう。


()()()()()

細かいことは、後から考えればいい。


行動方針が決まり、スッキリした心持ちとなったところへ、亜麻色の髪の少女は()()()と呟きを漏らした。



「まあ、お前達の事情はわかった。何にせよ一度よく話し合ってから、二人でどうするかを決めるといい」


「ですね」


「・・・ところで、一つ聞いておきたいんだが。行方不明になった少女―――『会長』の名前は、『櫛灘 今日子(くしなだきょうこ)』で合っているか?」


「・・・()()()()()!?」


「やっぱりか。当時は連日ニュースで流されてたからな、嫌でも覚えるさ」



唐突に、()()()()()()()()()()()()()()()()の口から飛び出し、ぼくは素っ頓狂な声を上げる。

それに対し、彼女は実にあっさりと、その名を知るきっかけとなった事情を語ってくれた。


言われてみれば、ニアミス事故からしばらくはミステリアスな人体消失の謎に、各種マスコミが騒然としていた記憶がある。

少しでも行方の手掛かりが無いか、その手の番組は虱潰しにしたから間違いない。


しかしそうなると、あの頃―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


彼女は『()()()』―――ヘレンちゃんによって【学園】へと喚ばれた()()だ。

もしかすると、彼女が死去したのは案外、()()()()なのかも知れない。



「さて、私はもう行くよ。お前の様子も見れたしな」


「もうですか?随分早い・・・と言うには、色々と話し込んじゃった気がしますけど」


「そうだな。・・・()に来た時は、また学校での事を聞かせてくれ」


「あ、()()。それは勿論」


「じゃあ、またな」



そう言い残すと、来た時同様あっさりと彼女は帰ってしまった。

()()()、と閉じられた扉を前に、ぼくはしばしの間ぼうっと視線をさ迷わせる。


・・・今、さらっと()()()()()()()()()()()ような?


平素の不干渉ぶりが嘘のような彼女の行動に、戸惑うと同時になんだか()()()()()()()()になる。

()()()()は一体、どういう種類のものだろうか?


胸を騒がせる()()の正体に首を傾げると、ぼくは浮足立った様子のまま()()()()と来客セットの点検を始めるのだった―――


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