表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お釜大戦  作者: @FRON
第六章 震撼☆フレーズ!!
261/343

∥006-09 叶くんのお姉さん

#前回のあらすじ:唐突なBSS!あるいはNTR!しかしてその真相は・・・?



[マル視点]



「・・・空が赤い、なぁ」


『なう~・・・?』



()()()と窓から差し込む光の色を見つめながら、そんな事を呟いた。


誰に聞かせるでもないその言葉に、鳴き声で相槌を打ってくれた愛猫をひと撫で。

掌の下で暖かい毛玉が()()()、とくすぐったそうに動いた。


先程の場面から、数刻。


外はすっかり陽が傾き、既に夕闇がすぐそこにまで忍び寄っている。

ぼくが現在居るのは、寮の自室だ。


市場から逃げるように立ち去り、ここへ閉じこもって以降。

今の今までずっと、()()していたのだ。


時間と場所を空けたお陰か、ぼくの心中は市場に居た時程には混乱していない。

こうしてベッドの上に腰かけたまま、ずーっと猫を撫でているうちに、最低だった気分も幾分か持ち直してきたのだった。



(アニマルセラピー、なんて言葉もあるくらいだし。おりんちゃんのお陰かも・・・ね?)



心の中でそう呟くと、感謝を込めて愛くるしい小動物を指先でくすぐる。

くすぐったそうに身じろぎすると、彼女はそのまま()()()()と寝息を立て始めた。


和毛に包まれたお腹が、ゆっくりと上下する様子を見つめていると、玄関の方から物音と共に、少しハスキーな声が聞こえてくる。



「・・・ただいま」



あの声は、(かなえ)くんのお姉さん―――(あきら)さんのものだろう。


何だか、彼女の声を聴くのも随分、久しぶりな気がする。

ここ数日はぼく自身忙しかったのもあり、寮の面々とロクに顔を合わせれていない日々が続いているのだ。


そんな事を考えていると、()()()()という足音が玄関から、管理人室の方角へゆっくりと遠ざかって行った。

普段、明さんと叶くんの姉弟はあの部屋で暮らしている。


ぼくが叶くんの所に遊びに行く折、彼女の姿を見ると大抵、部屋の中で何か書き物をしているという印象だ。

そういう時はそのまま、部屋で叶くんと話をしたり、二人で(場合によっては他の寮の住人も連れて)任務(クエスト)に出かけたりする場合が多い。


そういった時も、彼女の方からそこに干渉してきた事があまり無かった。

時折、視線は感じるのだが、用事がない時は喋ること自体が本当に、ほとんど無いのだ。


物言わぬ観葉植物のように、じっと部屋の中に佇んでいる少女。

―――かといって、それが不快に感じるという事もあまり無い。


多分、他者との距離感の取り方が上手いのだろう。


存在を意識するギリギリのポジション、それを彼女は常にキープしているように思う。

手が触れそうな所にいるようで、どこか遠い場所に居る存在。


ぼくにとって会取明(えとりあきら)とは、そういう印象の女性だった。



「・・・()()()()()()()?」


「うぇっ!?あ、はい!」



―――なんて事を()()()()と考えていたら、だしぬけに扉の外から声を掛けられ、ぼくはベッドの上から数センチ飛び上がった。



「・・・ど、どうぞ」


「邪魔するぞ」



()()()()、とドアノブが回り、少しだけ開いたドアから顔を出したのは、先程管理人室へ行った筈の明さんだった。

どうやら、もう一度こちらへ戻ってきていたらしい。


内心の動揺を悟られないよう声を抑えつつ、ぼくは戸口をくぐる彼女を眼で追うのだった。



「・・・あ、叶くんのお姉さん。えーっと、飾り気のない部屋ですが、いらっしゃい」


「―――ああ」



反射的に入室を促したぼくだったが、入口のあたりで佇む彼女の姿に()()、と気付くと、()()()()と立ち上がる。

今更ながらに客用の椅子を引っ張り出し始めたぼくを、彼女は()()と見つめると()()()とそう呟いた。


()()、と微かに音を立てて、木製の椅子に腰かける。

上体の動きにつられ、長く艶やかな亜麻色の髪が()()()と流れた。


何もせず腰かけているだけだが、すらりと背が高く、それでいてメリハリの利いた体つきの彼女はただそれだけで絵になる。



「―――あ、お茶でも淹れます?」


「・・・いや。そこまで掛かる用事じゃない」



何となく所在無くなったぼくは、もう一度腰を上げかけたが、すっぱりと断られてしまった。

そこで互いに言葉が途切れる。


中腰の体勢から普段使いの椅子に腰かけ直すと、ぼくは上目遣いで(自然とそうなる)彼女の様子を()()()と盗み見た。

珍しく他人の生活領域に踏み込んできた彼女だが、そのいでたちは普段、寮で見るものと同じ、紫紺のジャージ上下だ。


()()()、とした芋臭い上下で身を包み、極めつけには、大ぶりな眼鏡によって顔の輪郭が半ば隠れてしまっている。

常々思っているのだが―――この恰好、()()()()()()()()()()()()()()


何しろ、彼女の弟は()()絶世の美少年。

叶くんの双子の姉ともなれば、その素顔を隠そうとするのも納得だ。


何しろ、ぼくは生まれてこの方、男である事を差っ引いても叶くんを超える美人に出会った事が無い。

正確に言えば()()()()、心当たりがあるのだが―――今は、()()は置いておくとして。


記憶に新しい北海の大決戦において、叶くんの名が大々的に知れ渡った要因の一つに、その美貌があるだろう。

その姉ともなれば、世の男どもが血眼になったとしても、仕方のない事だと言える。


・・・()()()胡乱な事を考えつつ、ぼくは来客との会話を開始する。

訪問の目的を聞く段にあたり、先に口火を切ったのは彼女の方だった。



「急に押しかけてすまんな。話というのは『()()』―――(フォン)さんの事だ」


「あ、なるほど。・・・それじゃえーっと、大方の話はもう、知ってたりします?」


「まあ、()()()な」



どうやら、楓さんから依頼されたアイディア出しの件について、彼女も既に聞き及んでいたらしい。


そもそも、諸々のきっかけとなったのが、彼女から紹介された『宝貝』(パオペエ)なのだ。

()()()()()()を知る者として、言い出しっぺ当人としても、事の推移が気になったという所だろうか。


真意を確かめるように()()()、と視線を向けると、亜麻色の髪の少女はそれを知ってか、()()()、と口元を釣り上げた。



「どうやらちょっと目を離してたうちに、()()()()()に話が転がったみたいだな?」


「・・・ええ、まあ、そんなカンジです。何時の間にか話が大きくなっちゃって、こちらとしては戦々恐々ですよ」


「はっはっは。まあ、無料(タダ)より高いモノは無いという、分かりやすい話だな。私としては()()()()する機会を逃して残念、という所か」



そう言うと、ちっとも残念そうに見えない表情で()()()と笑う。

そんな彼女に苦笑を返すと、二人してひとしきり笑った後に、()()()、と呟きを漏らした。



「・・・どうやら、()()()()()()()()()で安心したよ」


「えっ?」


「聞いてた話だと、もっと塞ぎこんでそうだったからな。うちの愚弟が、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』だなんて、帰って早々に騒いでたんだ。―――まあ、どうやら取り越し苦労だったようだが」



・・・ぼくは何時の間にか、気分が塞ぎこんでいた間の様子を目撃されていたらしい。


記憶を振り返ってみれば、寮に戻った時に何事かを話しかけられた気が、しないでもない。

どうやら、アイディア出しの話題はきっかけに過ぎず、本題はぼくの様子を確かめに来たようだ。


()()()()、と思う反面、こういう場面で彼女が自ら動くという珍しい状況に、驚きつつもなんだか申し訳なくなってしまった。



「いやぁ・・・。方々に迷惑掛けちゃったみたいで、なんだか申し訳ない。()()()()()()()()も、心配要らない、って彼には伝えといて貰えます?」


「―――あのな。()()、何時まで続ける気だ?」


「・・・えっ?」



後ろ頭をかきつつそう言うと、返ってきたのは思いがけず不満そうな声だった。


思わず顔を上げると、眉根を寄せて()()()()()()()()()、といった表情の彼女が、こちらに向かって身を乗り出していた。

モデル並みの長身の彼女がそうすると、余計に()を感じてぼくは思わず、椅子の上で数cm後ずさってしまった。



「私は何時まで、『()()()()()()()()』なんだ?・・・()()()()()()()()()。もう何度も呼び捨てで良いと、そう言ってるだろうに」


「あ、はい。・・・ごめんなさい」


「よろしい」



そこまで言い切ると、腕組みしたまま()()()と客用椅子の上に腰を下ろす。

恐る恐る視線を投げると、それから逃げるように()()、とそっぽを向いてしまった。


・・・()()()()()()



(えーと、この状況は一体?)



束の間、部屋の中を沈黙が支配する。

彼女の発言を振り返るに、どうやらぼくは彼女に対する、常日頃からの()()()()()()()を窘められている、らしい。


自分としては完全に無意識なのだが、彼女としてはそれがかえってお気に召さなかったようだ。


・・・と、言ってもねえ。

普段から何事も()()なくこなす彼女の事を、ぼくは自然と内心においても『()()』付けで呼んでしまっているのだ。


確かに、()()()()()()()()呼びは他人行儀で距離感があったかもだけれど。

いきなり呼び捨ては、流石にハードルが高くないだろうか?


とは言え、ここはぼくが折れておく場面だろう。

恐る恐る、眼前の少女へ呼びかける。



「あ、明・・・」


「(無言で頷く)」


「・・・()()


「お前な」


「ごめんなさい!」



意を決した呼び捨てトライも、ついつい敬称が付いてしまい頓挫してしまった。


眉をいっそう八の字にして睨む彼女に、()()()()と頭を下げるぼく。

もはや完全にクセになっている呼び方に、彼女は小さく舌打ちを零すと、()()、と嘆息するのだった。



「はぁ。・・・いきなりあーちゃんみたく、渾名で呼べ、とまでは言わんが。もうちょっと()()、何とかならんのか?」


「善処します・・・」



心の片隅に、()()()、とたった今飛び出た名前が突き刺さる。

我が後輩の事は、先程までとは言わないまでも、未だぼくの中では整理し切れていないようだ。


そんなぼくに掛けられた次の言葉は、思いがけず優しいものだった。



「―――やっぱりお前、()()()()()だろう。話してみろ、その方が楽になる」


「あ・・・」



ぼくの内心を察したのか、明さんはそう言うと()()とこちらを覗き込んでくる。

思いがけない優しさにぼくは言葉を失うと、呆然と彼女の顔を見つめ返した。


分厚いガラスの奥から、グレーの大きな瞳が物言わず見つめている。

不思議とその視線に突き動かされるように、ぼくは市場であった一幕について、()()()()と語り始めるのだった。





  ・  ◇  □  ◆  ・




「―――そうか。あいつの事だから、何か事情はあるとは思うが」


「ぼくも、そう思います。でも、どうすればいいかわからなくって・・・」


()()



市場で目にした光景。


中年男性と連れ立って行動していた後輩。

ここ数日の彼女の様子。


それらを訥々と語り終えると、明さんは顎に手を当てて()()と考え込んだ。

―――が、すぐに顔を上げると()()()とこう零す。



「・・・()()()()()()()()()?」


「と、言いますと?」


「本人に聞けば、それで済む話だろう。あいつの人柄からして、()()()()()()と悩むよりはハッキリ聞いてしまったほうが、解決も早いに決まってる」


「・・・()()()



小首を傾げ腕組みしたまま彼女が零した言葉に、思わず頷くぼく。

言われるまでもなく、ぼくの後輩は素直を絵に描いたようなキャラクターだ。


事実関係をハッキリさせるには、本人に聞くのが何よりもの近道なのだ。

言われてみれば、当たり前の事実を改めて突き付けられ、ぼくは()()()と頷くのだった。



「・・・でも、それでもし()()()()()()()()()!だなんて事になったら―――?」


「そこまはあ、諦めて祝福する他無いんじゃないか?だが、まあ・・・()()()()()()()()()だろ。私の目から見ても、あの子の視線が向いている先は明らかに、お前一人しか居ないよ」


「あ、いえ。()()()()()()言いますか、そのう」


「・・・?」



そして話題がぼくと後輩の関係性に至ったところで、ぼくは口から出かけた反論を呑み込んでしまった。


羽生梓(はにゅうあずさ)と、ぼくこと丸海人(マルカイト)が付き合って()()だの、()()()だの。

そういう噂はうちの学校でも定期的に、何度も産まれては消えてを繰り返しているのだ。


()()()()()、そんな事実は()()()()()()


そもそもの発端は、ぼくと後輩の()()()()()から始まる。

始まるのだが、果たして()()をどう説明したものか。


()()()()()()と言葉尻を濁しつつ、()()()と目の前の少女の顔を伺う。

―――()()()()()()()()


ふと、そんな衝動にかられ、ぼくは()()()と動きを止める。

この場に当人である梓が居ない事が気になるが、いい機会だし、ここで纏めて吐き出してしまいたい。


その方が精神衛生上良いし。

あまり触れ回って欲しくない過去の話ではあるが、口の堅い明さんならそれも大丈夫だろう。



(よし、()()()()()()()



()()と決めると、ぼくは内心の動悸を抑え込みつつ、ゆっくりと語り始めた。


ぼくと、あーちゃんと、()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――


今週はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ