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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
250/342

∥005-G 理想郷の少女・中

#前回のあらすじ:(あきら)さんロリ時代のお話、初手未成年者略取。


[明視点]



「ハァ、ハァ・・・。ま、待って・・・」


「ふふ、嫌でーす」



追いすがる駐在の手を()()()と抜けると、あぜ道を軽やかに走り抜ける。

私は()()()と振り返ると、ようやく追いついてきた駐在にくすりと笑いかけた。


元々インドア派らしく、意外に体力のない彼は肩を荒く上下させ、息を整えている。


周囲は夜。

星明りで仄かに浮かび上がる草むらの間からは、うるさいぐらいの虫の音が立ち昇っている。


ロケーションは田んぼ脇の小路。

私達は人目の途切れるこの時間帯に、束の間の散歩に来ていた。


街灯のたぐいの少ないこの村は、日が暮れると一気に視界が閉ざされる。

周囲を見渡しても目につくのは、()()()()と灯る家々の明かりと、黒い稜線の上に瞬く星々くらいだ。


頭上、夜天に昇る月は今、薄曇りによって覆い隠されている。


―――その雲が途切れ、白々とした光が周囲の景色を浮かび上がらせた。

あぜ道の先、亜麻色の髪の乙女が駐在をまっすぐに見つめている。


悪戯っぽい微笑みを浮かべ、少女は若干ハスキー気味な声を上げた。



「―――ホラ!私は此処にいますよ?」



両手を広げ、()()と夏の太陽のような笑顔を浮かべる少女。

それをぼうっとした心持ちで、駐在は見つめていた。


彼女が今着ているのは、彼女の母がお気に入りだった白い花柄のワンピースだ。

淡い青色の花が散りばめられた白い生地、その裾から延びる手足もまた、新雪のように白い。


この村では、時折肉体に『()』の特徴を持った子供達が産まれる。


()()()

様々な部位に()()は現れ、多くは重篤な奇形を併発し、産後まもなく死に至るという。


―――()()()()()()()()()


子供達が儚く、()()目を離した隙に命の灯を消してしまうその様を現した言葉。

だが、『()()』は特に、その傾向が強い。


()()()()()()()()()()()()()()()()、故に、彼等は『神子(みこ)』『(かみ)の子』と称された。

―――奇しくも、姉弟揃って()()()()を有する子供の片割れ。


その姿は月の光を受け、見る人を(いざな)う美しい亡霊のように、駐在の目に映った。

駐在は人知れず()()()、と生唾を飲み込む。


―――()()()()()()()()()()()()


村唯一の交番で過ごす鬱々とした日々。

その最中、ふと耳にした()


学生時代に憧れ、しかし何も出来ずただ眺めるだけしかできなかった―――()()

その対象が、思い出の中の()()()が、死んだという。


信じられなかった。

信じたくなかった。


戸惑いと後悔でぐちゃぐちゃになった心。

それを抱え、気付けばあえて近寄らなかった村はずれの一軒家の前に、駐在は立っていた。


己の浅ましさと、愚かしさに思わず手が震える。

―――今更来たところで、何もかもが手遅れだというのに。


後悔に顔をゆがめ、きびすを返す。

駐在はうつむいたままに帰り道を歩き始めた。


―――その時。


道の向こうから、誰かが歩いてきた。

少女だ、それもまだ幼い。


無地のTシャツに淡い山吹色のフレアスカート、肩の後ろくらいまでの亜麻色の髪、幼いながらに謹製の取れた顔。

その灰色の瞳はどこか、強い意志を感じさせる光を湛えている。


ふと顔を上げ、彼女の姿を見た瞬間。

駐在の全身に衝撃が走った。


―――()()()()


夢にまで見た初恋の(ひと)に。

訃報をこの耳で聞いた女性の、若かりし頃の姿に。


駐在は瞬時に、少女が彼女の家に残された遺児―――会取明(えとりあきら)であることを悟った。

それと同時に、胸の内に()()()()と煮えたぎる溶岩のような熱が生まれる。


()()()()()()―――()()()()()


()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――



「・・・どうした。何かあったのか?」


「っっ!?」



―――低い男の声に、はっと我に返る。


慌てて声のした方向を向くと、そこには一台のライトバンが停車していた。

赤一色に塗られたボディ、その上部からは、据え付けられたスピーカーと、眩く光る回転灯がこちらを睥睨している。


交番と並ぶ、この村唯一の公的機関。

―――消防団の専用車だった。


運転席の窓ガラスは半ば下ろされ、そこからよく陽に焼けた厳めしい顔の男がこちらを見つめている。


その視線に気づき、駐在は慌てて居住まいを正した。

そしてようやく、自らが()()()()()()()()()()()()()にある事を思い出す。


素早く視線を左右に送る。

―――()()()、何処かに隠れたのだろうか?


何れにせよ、好都合だ。


いつまでも反応せずにいれば怪しまれる。

駐在は努めて声を落ち着けると、ようやく話し始めた。



「・・・い、いえ。少し、月に見とれていただけです」


「そうか。・・・夜道の出歩きは、程々にな」



短く、そう言い残すと消防団の男はハンドルを握り直す。

エンジン音をその場に残し、目にも鮮やかなライトバンは道の向こうへと消えて行った。


そっと息をつく駐在の背後から、ふいに()()()()()と白い影が姿を現す。



「―――()()()()()()?」


「うわっ!?い、居たのか・・・」


「はい。急に車が来たから、茂みの向こうに隠れてました」



()()()()()()、とぴょんと飛んで、雑草の茂みに隠れる。

そんなジェスチャーをする少女に、駐在は改めて安堵の息を吐き出した。



「あ、あいつは消防団だよ。ふ、普段は便利屋みたいな事をやってるみたいだけど、いい噂は聞かないな。()()()()()()()()()、だとか」


「村の、外・・・」


「ど、どうせ()()()()()()()()()()()()んだから。そんな真似されても迷惑なだけなのに・・・ね」



どこか自嘲めいたその一言に、()()()()()、と相槌を返しつつ、少女は別の事を考えていた。


()()()()()()()()()』。

それは、彼女が弟と共にこの地を離れる、その手掛かりになるかもしれない。


先程目にした厳めしい面をしっかりと記憶に刻み込みながら、少女は()()()()と微笑みを浮かべた。




  ・  ◇  □  ◆  ・




―――()()()()()()()()()調()()()()()()()

男の求めるものを()()()に観察し、与え、時には()()()()、心の()()が緩まるその隙を狙い、一つ一つ譲歩を引き出してきた。


最初、()()()()の軟禁状態から始まった彼女の生活は、今ではこうして、監視付きだが外を出歩けるにまで至っている。


朝には出来立ての食事の匂いと共に優しく揺り起こし、身だしなみを整え、笑顔で職場へと送り出す。

その帰りを蕩けるような笑顔で迎え、暖かい食事と心休まる言葉を与え、眠りに落ちるまでの束の間、微笑みながら見つめ返す。


そんな些細な、しかし揺りかごに包まれたような()()()()()()()を。

心休まる夢見るような日々を、少女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


それと引き換えに―――家の()()()()()に掛けられた錠前を、心の()()()()()()()()()()()()


暖かい食事を作る為に、火を扱う権利を。

より高度な調理を可能とする為に、包丁を含む調理具を解放する許可を。


雑事を片付ける為に家の周囲へ出る許しを、事ある毎に申し出、交渉し、その全てを勝ち取ってきた。

既に、駐在は半ば少女へ依存している、()()()()()()のは未だ7歳の、年端も行かぬ少女だ。


駐在は孤独な心を紐とかれ、彼女なしには生活を送れないレベルにまで心酔しきっていた。

甘く狂おしい底なし沼にどっぷりとその全身を、頭の先まで引きずり込まれていた。


それでも―――()()()()()()


仮に今。

()()()()()()()と少女が言えば、ここまで築き上げた駐在からの信頼は一挙に崩れ落ちるだろう。


―――()()()()()()()()()()()()


焦燥にも似た胸騒ぎに、()()()と小さな掌を握りしめる。

少女は視線の先、整えられた寝床の中で()()()()と寝息を立てる、弟の姿をじっと見つめていた。


()()()()の綿毛のような白い髪に、()()と指を絡める。

数日前までは苦しそうだった呼吸も、ようやく幾分か落ち着いてきていた。


完全復調まではあと1,2日といった所だろう。

弟の回復は今後に向けた、()()()()()()()だ。


()()が実現できただけでも、駐在の下へ取り入った甲斐があったと言えるだろう。



「でも―――あの人は(かなえ)()()()()()



()()()、と。

昼下がりの部屋に、少女の呟きが落ちる。


その表情からは、一切の感情を排したように。

灰色の瞳は冷たく、氷のような光を宿していた。


―――この家において、弟の存在は()()だ。


()()()()()である私と違い、駐在にとって邪魔者以外の何物でもない。

この事実はいずれ、()()()()()()()()()()()()()であろう。


会取本家による捜索の手も、既に村中に及んでいる。

今、この瞬間にも扉を破り、大人達がここへ踏み込んでくるかもしれない。


ここから先、何か一つボタンを掛け違えれば、瞬く間に二人の未来は闇に閉ざされるであろう。


()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()


それがはっきりする時が、刻一刻と近づいていた―――


今週はここまで。

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