∥001-25 決着!
#前回のあらすじ:ヒロイン参戦!
[梓視点]
「よッ、と」
『クェ』
少女と一羽の鳥が、ふわりと虚空より降り立つ。
足元に広がるのは見慣れたバスの床―――ではなく。
レンガらしき材質の敷き詰められた足場だった。
とん、とローファーに包まれた足裏で着地の衝撃をいなすと、トレードマークでもあるポニーテールの黒髪が長い尻尾のように揺れる。
スレンダーですらりと長い手足、均整のとれたほっそりとした体つき、愛らしく溌剌とした顔立ち。
学校指定のセーラー服に身を包んだ少女の名は、羽生梓。
マルの後輩であり、彼が乗っていたバスの乗客の一人でもある。
サマードレス姿の少女によって誘われた先にて、彼女はマルと自身を含むバスの乗客に迫る危機を知らされていた。
即座に戦うことを決意した少女は、マルと同じく切り札となる力を託され、この場へと戻ってきたのだった。
「あれー・・・?あの子は元の場所に戻してくれるって言ってたけど、なんだかちょっと違うみたい?」
『クェ』
そう一人ごちながら、きょろきょろと周囲へ、足元へと視線をさ迷わせる。
そんな少女の傍らには、褐色縞模様の羽毛に包まれた一羽の山鳥がちょこんと佇んでいた。
30cm程の体躯、落ち着いた様子のくりりと丸い瞳。
先程から主の言葉に相槌を打ちつつ、じっとその様子を観察しているようだ。
その姿は鳥獣と呼ぶには、いささか知性に溢れすぎているように見える。
梓の【神使】―――モモコと名付けられたメスの雉であった。
名づけの理由は、雉といえば桃太郎!という安直な連想からだ。
尤も、伝承に名高いお供のキジはオスなので、いささか的外れなネーミングなのだが。
「だよね?モモコちゃん」
『クェクェ』
「だよねだよね。先輩は・・・この下かな?―――あ!なんだかイヤーな気配!」
『・・・クェ!』
そんな経緯で付けられた名に不服など無いかのように、モモコは主に倣って眼下の足場―――正確にはバスを覆う防壁の天井を注視する。
その下では、二重の防壁の隙間をかいくぐり侵入したUFO達によって、今まさにマルがピンチに陥っていた。
無意識に感じ取った『敵』の存在に、少女はきりりと表情を引き締める。
「やっつけないと!・・・でも、どうすればいいんだろ?う~ん、う~~~~ん」
『クェ―――!!』
「・・・あれ?あたし、弓なんて持ってたっけ?」
敵は足元にあり。
持ち前の直感で倒すべき邪悪の存在を感じ取った梓は思わず身構えるが、すぐに首を傾げてしまう。
どうやら、敵はこのレンガの壁の向こうに居るらしい。
だがしかし、この壁はちょっとやそっとでは破れそうにない。
壁を越えられぬとなれば、先輩を助けることも能わず。
思わぬことで行く手を遮られてしまい、途方に暮れたその時。
細く高く、翼を持つ【神使】が鳴き声を上げた。
鬨の声が響き、気付いた時には一張りの古風な梓弓が、魔法のように手の中に現れていた。
シンプルな造りだが、厳かで神秘的な佇まいであり、そして―――どこか見覚えのある。
そんな弓が忽然と現れた事に少女は首を傾げたが、悩まない性の彼女はひとまず行動することにした。
「・・・ま、いっか!それじゃー・・・あっちいけー!ぺよ~~~~ん!!」
慣れた所作で弦を引き絞り、放つ。
びぃん、と乾いた音が周囲へと広がり、足元に感じていた邪な気配が驚いたように散り、動かなくなった。
それを確かめると、少女はためらいなく防壁から飛び降りた。
ふわりとアスファルトの上へ降り立つと、視線を上げる。
その先には―――鈍く輝く銀色の巨体を持つ、のっぺらぼうの怪物が居た。
『フライングヒューマノイド型シング』。
巨人の形を持つ死の運命に、少女は立ち向かう。
今度こそ―――結末を覆す為に。
「キジさん!!」
『クェーーーー!!!』
主の声と共に、甲高い叫びが上がる。
―――昔から、突拍子も無いことを急に始める子だとよく言われていた。
そういう時は決まって、誰も気付かぬような物事の『正解』を引き当てている。
羽生梓はそういう、どこか神がかった所のある子供だった。
彼女の耳には常に、静かに囁きかける声が届いていた。
その予感が、言語化できない確信が彼女を駆り立てるのだ。
目の前には、一本の壮麗なる白木の矢が在った。
己の分身として現れた、一羽の幻想がその身を変じ、運命を打ち破る為の『力』となったのだ。
ひとりでに手元へと収まった矢をつがえ、少女は呼気をゆっくりと吐きながら狙いを定める。
自然と、言葉が口をついて流れ出した。
「【神業―――天羽々矢/二射不要】」
『LILI―――!!???』
瞬間。
まばたき一つまでの間に、放たれた矢は薄紅色の光束と化し、周囲に潜む円盤の全てを貫いた。
まばたき二つまでの間に、一条の光は中空で複雑な軌道を描き、銀の巨人の全身を穿ち、修復不可能なまでに破壊していた。
甲高いきしりを上げつつ落下する【霧の巨人】の巨体。
戦いの始まりに気付き、周囲から集いつつある仲間達の眼前で、不死身かに思えた怪物が崩れ落ちる光景が広がっていた―――
※2023/12/31 文章改定




