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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
248/343

∥005-E 突撃!お宅の晩御飯!!

#前回のあらすじ:家庭教師することになった



[マル視点]



「はいよっ、お待たせ!いっぱい食べてきなっ!」


「「「「「いただきまーす」」」」」



天然木を加工したテーブルの上に、勢いよく()()、と大皿が置かれる。

乳白色の()()()()の上を彩るのは、キツネ色になるまでこんがり焼かれた羽根付きギョーザの山だ。


欠食児童よろしく両手に小皿と箸を構えると、我先にとギョーザの山を切り崩してゆく。

ギョーザ、白米、ギョーザ、ギョーザ、白湯スープ、も一度ギョーザ。


どれだけ崩そうと後から後から積みあがる、ここは正しく炭水化物の永久機関だ。

うず高く積みあがった餃子山の頂きに待つのは、伝説の黄金境(エルドラド)か、はたまた狂気に彩られた太古の遺跡(ダンジョン)か。


―――なんて、グルメ小説めいたモノローグはさておき。


マーケットでの一幕の後、ぼくは会取(えとり)姉弟の知己だという中年男女に誘われるまま、晩御飯を御馳走になっていた。

()()()のいい女主人といった風体の女性(()()、という名らしい)の案内で向かった先は、【学園】では珍しいくらいの純和風建築が待ち構えていた。


瓦葺きの屋根と、年季の入った色合いのシックな木造家屋。

生垣に区切られた空間の中には、古き良き田舎の古民家さながらの光景が広がっていた。


昔ながらの土間に驚きつつ、家に上がって早々に通された居間。

そこでキョロキョロ辺りを見回しているうちに、()()()()()()という間に宴会の準備が進み、先刻の場面という訳だ。


そこに居並ぶ面々は、先程から2人増えて6名。


ぼく、(かなえ)くん、(あきら)さん。

更に()()さんに加え、後から合流したコワモテの男性(茂羽賀(もうが)さんという)に、新顔の青年が一人、こちらはぼくとほぼ同年代の男性だ。


長く延ばした茶髪、縁なしのお洒落なメガネの下には知性的なマスク。

ダメージドジーンズと英語のプリントの入ったTシャツを着こなす彼は、兵二(へいじ)というらしい。


彼は現在、隣でギョーザの山と格闘している。

それに負けじと食べる、食べる。


そして―――30分後。


崩せど崩せど先の見えぬ戦いを続ける事、しばし。

早々にリタイアしたぼくは、畳の上に大の字になって伸びていた。


()()、と床を踏みしめる音に片目を開ける。

すると、そこには先程紹介したばかりの兵二さんが立っていた。



「ホレ、おめーの分」


「あざっす。・・・えーと、兵二さんも食休みですか?」


「ま、そんなトコ。それにしても・・・ふーん」


「・・・な、何スか?」



手渡された麦茶入りの湯飲みを一口飲むと、()()、と小さく息を吐く。

そんな仕草を、まじまじと見つめてくる視線に少し居心地の悪さを感じ、ぼくはわずかに身をよじる。


困惑混じりの声を上げたぼくを眺め、少しの間考えるようなそぶりを見せた彼は、突然()()()()()()()を言い出した。



()()が珍しく外の人間連れてきたって言うから、珍しいコトもあるもんだと来てみたが・・・。ひょっとしておめー、()()()()()()()()()?」


「んなっ・・・。()()()()()()()()!?」


「いや、だっておめー。俺らぐらいの野郎が考える事なんて()()()()っしょ?()()はあんな(ナリ)だけど男だし、消去法で自然と()()なるっしょ」


「いや、そりゃ確かにそうだけど。()()()()()()()()()?ぼくがそんな、叶くんのお姉さんがスキ、だなんて。・・・()()?」



藪から棒に飛び出した発言に、()()()、と胸が大きく弾む。


()()()()()()()

()()()()


大体、出会ってからこのかた、そこまで接点多い訳じゃないし。

・・・まあ、叶くん経由で顔を合わせる機会は結構、あるけれど。


そもそも、素顔すらロクに見ていない相手に惚れるだなんて、おかしな話だと思う。


うん。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


証明終了(Q . E . D)



「いかん!いかんぞー。あの女だけはやめとけ、やめとけ!」


「えっ。・・・()()?」


()()?って、そりゃあ・・・」



一方。


急に沈黙したぼくの反応を逆に捉えたのか、彼は大きく()()()を振って身振り付きで駄目出しを始めた。

()()()()、と目を瞬かせて疑問の声を上げるぼくに、何故か一瞬言いよどむ兵二。


そこへ、食事を終えたのか()()()()()が丁度、運よく(悪く?)通りかかった。



「・・・何だお前ら、もう仲良くなったのか?」


()()


「あ・・・。明さん、御馳走になってます。それでえーと、これはその、世間話、的な・・・?」



ジャージ姿の少女はぼくらを見つけると、()()()()とこちらへ寄って来る。

その姿にあからさまに呻きを上げる兵二と対照的に、何故か恥ずかしくなったぼくは視線をさ迷わせると、()()()()()()にそんな受け答えをした。


そんなぼくらの様子に何かを察したのか、()()()、と悪戯っぽく笑う少女。

次いで彼女の口からは、唐突に爆弾発言が飛び出した。



「本当かー?またぞろ()()()()()みたいに、いきなり告白()()()()()()()()んじゃないのかー?」


()()()・・・!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!??」


「!?」



()()!?

()()()()!?


驚きのあまり思考がフリーズするぼくを()()に、顔を真っ赤にした兵二くんがジャージ姿の彼女へ喰ってかかる。

どうやら、『告白した⇒された』というのは、『彼が⇒明さんに』で、合っているらしい。



「あれは忘れもしない幼い日。壁際に追い込まれた私は当時、初対面のこいつに言われた訳だ。『()()・・・()()()()()()()()』、と」


「ぎゃあああああああ!!??」



情感たっぷりに、声真似しつつ当時のやりとりを語る明さん。

ハスキー気味な声で囁くように言うものだから、耳元で再生されたら悶絶しそうな程の、それはもう見事な美声(イケボ)であった。


だがしかし、その時のぼくは何故かそんな気分になれなかった。

身体が寒い、全身から力が抜けるようだ。


震える唇を賢明に開き、ぼくは()()()()()()問いかけるのだった。



「そ、それ・・・。()()()()()()()()()んです、か?」


「確か、()()だったか。『()()()。あなたと私は初対面で、特に印象として思う所もありません。よってその要求に従う理由も必要も感じません。皆無です』」


()()()()()()()!!?」


「『ところで、今のは()()()ですか?それとも立場を背景にした()()?後者なら、保護監督者への告発も止む無しですが』」


()()()()()()()()()()()()!!!・・・ガクッ」


「し、()()()()・・・!」



死んでいた。


目の前には、少女の告げる一字一句に悶え、苦しみ、心の古傷(トラウマ)を暴かれのたうち回った末、微動だにしなくなった野郎の死骸が横たわっていた。

網手(あみで)兵二(へいじ)、享年19歳。


死因―――恥ずか死。


・・・察するに、故郷を離れおヨネさん達の下へ引き取られて間もない頃、明さんは当時の兵二くんと出会ったのではないだろうか。

そこで一目ぼれした彼は即、告白し―――見事玉砕した、と。



「つ、つまり・・・。()()()()()()()()()()()?」


()()()()()()()()


「・・・ほっ」



やはりというか、二人の矢印は完全に『彼⇒彼女』の一方通行だったようだ。

そして、それが完全にトラウマになっているのが兵二くんで、全く気にもしていないのが明さん、と。


・・・()()()()()()()()()()


不可解な自分の胸の内にひとり、ぼくが首を捻っていると。

()()()、と勢いよく起き上がったお洒落メガネの彼は、()()、と明さんに向け勢いよく指を突き付けた。



「・・・だから!こーゆー血も涙もないアクマはやめとけって話だよ!!!!!」


「何を人聞きの悪い事を。そんなだから、未だに彼女の一人も出来ないんだぞお前は」


「おめーーーーがそうやって事あるごとに()()()()弄るから!軽く女性恐怖症入ってんですよ俺は!!!??」


「そうか、お気の毒に」


()()()!!!」



南無南無(なむなむ)、と両手を合わせて瞑目する少女に、獣のように吠えつつも完全に腰が引けている青年。

二人の関係性が透けてみえるような光景を前に、ぼくは思わず苦笑いを浮かべる。


そこから少し離れた縁側では、()()()()と寝息を立てる叶くんの小さな頭を膝の上に乗せ、それを見守る火傷顔の男。

その傍らには、黄金色の液体が注がれたジョッキを片手ににこやかに微笑む、初老の女性の姿があった。



「ふふ。賑やかになりそうだねぇ」


「・・・ああ」



空はその半分が黒く染まり、茜色の太陽は遠く、『()()』の(へり)の向こうへと沈み行こうとしている。

【学園】の夜はこうして、賑やかに始まり、そして更けてゆくのだった―――


今週はここまで。

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