∥005-113 北海の大決闘・カーテンコール三
#前回のあらすじ:舞台裏でうごめくモノ達
[マル視点]
「マル!」
「え?」「あ!ほんとにマルオじゃん」「生きてたのか!」
「あはは・・・、お陰様でなんとか生きてます」
朝。
ひょっこり教室の中を覗き込むと、そこには見知った顔が数名、たむろしていた。
その内の一人がこちらに気付いたのか、ぼくの名を呼び立ち上がる。
教室のそこかしこで他愛のない雑談に興じていたクラスメイトたちも、それをきっかけに一斉に静まり返る。
そんな中、友人達は慌てた様子でこちらへ小走りに駆け寄って来た。
「二日ぶり?じゃなくて三日ぶり?休んでた間、何か変わった事あった??」
「いんや、特には。田村が学生カバン忘れたまま登校してきて、1限始まる前に家まで取りに帰ったくらいだらー」
「そーりゃまた、ダイナミックな忘れ方したもんだね」
「ねー。たむーもそのままバックれちゃえば良かったのに」
「一瞬迷ったけどな、実際」
バシバシと容赦のない激励のタッチを頭を低くして避けつつ、いつも通り軽口の応酬で級友たちと数日ぶりの旧交を温める。
うん、いつもの学校の風景だ。
ここに来る前若干の不安はあったが、どうやら、数日クラスメイトの一人が姿を消したくらいでは、ぼくを取り巻く日常はビクともしないらしい。
その事にそっと安堵の息をつきつつ、ぼくは話題の転換を試みる。
「ところで―――ぼくが休んでた理由について、誰かから聞いてる?」
「「「「・・・・・・」」」」
「??」
そうしてぼくの欠席に触れた、途端。
教室の空気がしん・・・、と静まり返った。
ぼくと対面に陣取る友人3人も、周囲で聞き耳を立てていたクラスメイト全員も、同時にだ。
周囲からチクチク刺さる視線に、くきりと首を傾げる。
そうしていると、キバヤシ(友人の一人)がおそるおそるといったふうに声を掛けてきた。
「マル、お前・・・」
「ん?」
「―――この2日、寝台特急で起きた連続殺人事件に巻き込まれてたって、本当?」
「・・・んん?」
休みの間、ぼくがどこでどうしていたのか。
越前の地で大怪獣とバトルしてました―――だなんて、流石に事実をそのままに言う訳にも行かない。
実の所、結局ぼくは犬養家の力を頼る事になった。
老執事の保科さんが音頭を取り、SNSを通してそれとなく噂を流してくれたらしい。
そうして偽のアリバイをでっち上げ、ぼくらはそれに口裏を合わせる事になったのだ。
北陸で起きた、とある事件に捜査協力していた―――と、いう具合にだ。
(あーちゃんの方も同様だが、正直かなり不安ではある)
警察に口止めされており、詳しい事は話せない。
その一点張りで級友達の追究を逃れる予定なのだが、正直心苦しい。
彼等を守る意味でも必要な嘘なのだが、それに突き合わせるこちらに良心の呵責が無い訳では無いのだ。
―――だがしかし、いざ蓋を開けてみればどうにも、様子がおかしい。
「少年探偵と名探偵の孫と魔界探偵の助手に挟まれて、第一発見者と容疑者の間を反復横跳びしてた・・・、とか!」
「・・・・・・んんんんん?」
「俺は、東尋坊の崖の端でヤケ起こした犯人に刃物突き付けられて、危い所を間一髪生き残った、って聞いたぞ!」
「ちょっとーーーーー!!?」
―――なんだか知らない内に、えらい事になっている。
友人達が語るここ数日の経緯は、あたかも火○スばりの大事件と玉突き衝突を起こしたかのような、酷い事態となっていた。
待って、それぼくも知らない。
そうこうしている内に、ぼくの周囲には何時の間にやら、黒山の人だかりが出来上がっていた。
無言のままに見渡せば、誰も彼もが好奇心に爛々と目を輝かせている。
あっという間に、事の真相を本人の口からきき出そうと、マシンガンの如く周囲から質問が飛び始めた。
次々に聞いたことも無いようなエピソードが飛び出してくる、まるでTVドラマのあらすじを流し聞きしているかのようだ。
「ま、待って待って!こっちにも心の準備とか必要だから!そういう訳で答弁はまた後日、秘書を通して―――あれ、メール?」
混乱のあまり素っ頓狂な声を上げると、タイミングよくポケットの中でスマホが自己主張を始めた。
反射的に手に取ると、長方形のパネルには犬養青年からのメッセージが着信していた。
一瞬、ちらりと級友たちの様子を見た後、すかさずタップしてメッセージを開く。
『―――すみません、どうやら先手を打たれていたようです』
「えっ」
液晶画面に表示されたシンプルな一文。
それに、思わず間の抜けた反応を返してしまう。
続いて一件、ぶるりとスマホが着信を報せる。
見計らったようなタイミングに、嫌な予感がぞわりと背筋を撫でた。
こちらも反射的に開く―――見覚えのないアドレスだ。
『お休みしてる間のアリバイ作り、ボクチンの方でやっておいて上げました。嬉しいですか?嬉しいですよねえ?キヒヒヒヒヒ!!』
「あっ―――」
ざあっ、と血の気が引く音が聞こえる。
そこに書かれていたのは、書き文字の時点で既に自己主張の激しい、怪文書と呼ぶべきシロモノだった。
送信者は―――『真調』。
疑いようも無く、北陸の地でさんざ煮え湯を飲まされた、あの類人猿めいたオッサンからのものだ。
「あ・・・あの、糞ジジイ~~~~!!?」
何故、ぼくのアドレスが?
一体、何のために?
沸き上がる疑問を吐き出すように、ぼくは思わず大音量で叫びを上げるのであった―――
今週はここまで。




