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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
240/343

∥005-112 北海の大決闘・カーテンコール二

#前回のあらすじ:丸二日音信不通だった!どうする?コマンド



[真調(ましら)視点]



「―――報告は、以上ですよぉ」


「そうか」



薄暗いオフィスの一室、ダークブラウンの執務机を挟んで、二人の男が向かい合っている。


一方は白髪混じりの髪をオールバックにした、大柄な初老の男性。

その目元には深く年輪のような皺が刻まれているが、スーツの下から布地を押し上げる()()()()とした筋肉は、たたき上げの警察官としての彼の経験を物語っているかのようだ。


それに対するもう一人の男。

こちらは前者とは対照的な矮躯と、どこか()()()()()()締まりのない貌が印象的だ。


先程の場面でマル達の元を去った、()()()()()()()

真調と名乗る人物、その人であった。


―――ここは都内にある、政府関係のオフィスが多数、存在する()()()ビルの一角。

表向き上、この場所は動物衛生課―――()()への対策を主な業務とする部署に、割り当てられている。


しかし―――()()()()()()()()


()()()、あるいは()()()―――

生物として『()()』し、超常の力に目覚めた生物を監視し、秘密裏にそれを管理することを目的とした組織。


既知概念凌駕実体究明・対策室―――通称『()()()』の本拠地といえるのが、この場所であった。


『覚醒』により、生物としての()()が外れ、人の血を求めるようになった野生生物。

あるいは、力に振り回され犯罪を重ねるようになった人間―――『()()()


それらを、『既知対』ではひとえに纏めて『()()』として対処している。

それが故の()()()()()であり、所属するエージェント達は皆、一騎当千の兵―――現代における()()()達であった。


中でも古く、組織の発足当初から在籍していると噂されるのがこの老人、真調である。

そして、それに相対しているのが現在の、『既知対』室長に当たる人物であった。



「それで、件の―――【()()()()()】。お前の目から見て、どう映った?」


「そうですねぇ・・・」



話題が【イデア学園】へと移る。


この日本の地に於いて新たに確認された、覚醒者集団と見られる正体不明の組織の事を、男はとりわけ問題視していた。

これまで全くと言って良いほど、同組織に関する情報は報告されていない。


それは彼等が、『既知対』の持つ情報ネットワークを()()()()()()()か、あるいは完全に()()()()()()()()()()()()()か、その何れかであろう。

前者であれば()()()()()()()()()()、後者であれば()()()()()()()()()()()


どちらにしろ―――今、この国において最も注視すべき組織である事に違いは無かった。



「学園、というだけあって元気ハツラツ!という感じでしたよぉ?若い子達がい~っぱいでしてねえ。ボクチン、何だか活力を分けて貰った気分ですよぉ。・・・()()()()()!!」


「いや、そうではなく・・・。組織としての危険性や、攻撃的な思想に染まっていないか、という話だが」


「おやぁ?そうでしたか?いやはや、トシを取ると察しが悪くなっていけませんねぇ」


「いや絶対ワザとだろう!?頼むから真面目にやれよな・・・もう」



老骨に鞭打って単身、件の組織と対面してきたという男の口から、謎に包まれたその実体がついに、語られる。


―――そう意気込んで放った質問の答えは、()()()()拍子抜けなものだった。

百戦錬磨たる腹心の部下が見せるいつもの茶目っ気に、大柄な男は()()()()とうなだれ、長くため息をついた。



「ええ、では此処からは真面目に。―――結論から言えば、()()()()()()()()()()、でしょうな」


「ほう?だが()()()()()()()からは、()()()()()()()()()()()()()()()、と報告されていた筈だが」



今そ去る事数日前、室長は独自のルートから【イデア学園】なる組織の存在と、その性質。

そして構成員だという日本在住の学生―――丸海人(マルカイト)の情報を得ていた。


その折、情報提供者だという男とも対面し、確証の高い情報だと判断した、()だ。

何故か、その時の記憶を思い出そうとすると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――



「数については、確かに。ですが多くは弱兵、脅威たりえる精鋭も一握りのみ、ですねぇ。イザという時も()を押さえれば、鎮圧は用意でしょう。()()()―――」


「それに?」


「ボクチンにはねえ。どうにもあの連中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですよ」


「ほう―――?」



何時から生きているかもわからない、『既知対』きっての古株。

彼が零す言葉に、室長は興味深そうに呟く。


人が集まり、組織となるにあたって、そこには必ず『()()』が存在する。

学会であれば()()、スポーツ団体であれば()()()()()()()()()()()()()―――と、いったようにだ。


真調の言を信じるならば、【学園】のそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()


―――と、言うならば。

それは一体、()()()()()()()()()



「つまりは()()、あるいは()()()()。―――妖怪や、神話生物を相手取る事を想定した組織だ、と?」


()()、しれません。・・・ま、あくまでボクチンの勘なんですけどねぇ?間違ってたらゴメンナサイ!許してチョンマゲ!」


「そこはちゃんと言い切れよ・・・全く。まあ、話はわかった。奴等に関しては今後も様子見を継続、コンタクトを取ったという()()には、今後も定期的に探りを入れてくれ。それでいいか?」


「お安い御用で。()()()()!これからも老骨ながらに、頑張らせて貰いますよぉ?」


「助かる」



人を相手とした戦闘を主としない―――


つまり災害救助や、危険な覚醒生物(ヒト以外の、覚醒により進化を遂げた野生動物)に対処する為の集団。

室長の立てた予測に、類人猿めいた老人は()()()()と頷きを返す。


―――先述のような組織は、この世界において実際に存在している。


()()()()()()()、ツングースカ特異点の『独眼部隊』(バンニップ)

更には南極の『極地(ゼロ・)防衛軍』(ディフェンダー)などが()()に当たる。


彼等は人知れず、超常現象を起因とする災害や獣害に備え、この()()()()()を影ながら守り続けているのだ。

情報の裏取りは必要だが、この男の言葉が正しければ、【イデア学園】に向ける警戒の度合いを引き下げても問題ない可能性がある。


大柄な男は手元のメモに幾つか走り書きを書き留めると、真調の方へと視線を戻した。



「ひと先ずこれで、【学園】に関しては一段落だな。次は―――」


『―――アラアラ、()()()()()()()()()()


「「・・・!?」」



薄暗いオフィスルームに、甲高い男の声が響く。


弾かれたように、二人は部屋の中へと視線を巡らせた。

つい先程まで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


果たして、声の主は―――()()


真調の背後、ドアに背を預けるようにして、瘦身の男が一人。

燕尾服にシルクハット、吊りあがった口元には紫の口紅と、どこか()()()めいた様相の人物だ。


彼は大仰な仕草で帽子を取り礼をすると、深々と頭を下げる。

シルクハットで覆われていた頭頂部がこちらの目の前に来る。


そこは刈り取られたように、()()()と血色の悪い地肌が露出していた。



『挨拶もせず失礼。築野(チクノ)―――と、申しま()。そちらの方は()()()()()、そちらの方は以後、お見知りおきを・・・』


「お前は、()()()()()()―――」


「おや、()()()()()()。これはこれはどうも、ご丁寧に!()()()()も自己紹介した方が良さそうですねぇ?私、()()()()者でして・・・。こちらこそコンゴトモヨロシク!()()()()()!!」


『オヤオヤこれはどうも!ワタクシ名刺交換、大好きなんです()!それではこちらを・・・』



―――()()()()()()()()


現在、この部屋には『()()』と表すべき怪人が既に一人居るが、それと比しても霞む事のない、強烈なキャラクターである。

しぐさの一つ一つがオーバーで、あたかもコメディ映画のワンシーンを見ているかのようだ。


絵面として見れば、笑いの一つも巻き起こりそうなビジュアルなのだが、何故か、直接目にして沸き上がる感想は『()()()()()』の一言。

そんな()()()()()は、襟元から一枚の名刺を取り出すと、慣れた手つきで()()()()()()差し出した。


そこには『万金(バンキン)商事 総合取締役(C E O) 築野』とのみ、シンプルに印字されていた。



「万金商事の―――築野さん。・・・()()()で、お会いした事が?」


()()()!誓って初対面ですと()!ですがワタクシ、『既知対』のミナサマとは末永~~くお付き合い致したいです。の、()!―――()()とはキッパリ、手を切って頂きたいんです()


()()、とは?」


『ソレハ勿論―――()()()()が率いる、危険な危険な【イデア学園】の事です、()♪』



男の声が寒々しく、遠くから聞こえてくるように響く。

室長は()()をどこか、夢見心地で聞いていた。


心地いい響きだ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「あぁ・・・。そう、だな。()()()()、だ―――」


()()()()()


『・・・ッッッ!?』



焦点の定まらぬ瞳で、道化めいた男へ恍惚とした視線を送る。

様子のおかしい室長の紡ごうとしていた言葉は、普段の様子からは想像も出来ぬ程に冷たい、部下の声によってかき消された。


次の瞬間―――

不気味な男の胸には、()()()()()()()()()()()()()()()()


否。

何者かが、男の背後から刃物を突き立てたのだ。


先程、この部屋には室長と真調、二名しか居ないと記したが―――そ()()()()()


正しくは、()()

類人猿めいた男に常に影のように付き従う、姿無き守護者(ガーディアン)がずっと()()に居たのだ。



「霊験あらたかな高僧による破邪の祈祷が、た~っぷり込められた特性の懐剣です。よぉく()()でしょう?」


()()()・・・!!』


「初めて見た時から、ど~~~うにも()()と思ったんですよぉ。すえたような、滞った気のニオイ。貴方。どうやら、()()()()()()()()()()()()()ねぇ?」



口の端から()()()()と、コールタールのような血液ですらない()()を吐き出しながら、不気味な男がもがく。

白い手袋がとっさに胸の刃を掴むと、()()()、と音を上げて純白の布地が黒く焦げ付き、()()のような香りが部屋の中に広がった。


それをきっかけに正気を取り戻したのか、呆けていた室長は椅子を倒して勢いよく立ち上がると、きょろきょろと周囲を見回した。



「な―――()()()()()!?これは、一体・・・」


()()ですよぉ。いやはや、こんな所にまで入り込まれるだなんて。なってませんねぇ、室長?」


『グ・・・ゴガッ・・・!』



昆虫標本のように胸を貫かれ、もがく男へ歩み寄ると、真調は目を細め()()()()とその姿を観察する。

その瞳には青く、鬼火のような冷たい光が点っていた。



「―――に、しても。解せませんねえ。並みの怪異なら、刺し貫かれた時点で霧散していてもおかしくないんですが。貴方―――()()()()()()()()()()()()ぁ?」


「何だと・・・?」


『グ・・・舐める、な()―――!!』


()()()()!」



ピエロめいた怪人が絶叫を上げる。


次の瞬間。


人の形を取っていた『()()』は弾け飛び、墨のように周囲の床へと広がった。

()()()、と音を上げ床材を浸食する、『()()()()()()』に一早く気づくと、真調はすかさず一枚の札を取り出し、足元へ叩きつけた。


―――()()()()()()


眩い光が収まった時には、二人の前にはうっすらと燐光を放つ、光の壁が生じていた。

その表面に浮かぶ梵字を呆然と見つめながら、大柄な男はうわ言のように呟く。



「・・・()()()?」


「裏高野謹製の霊障避けの護符です。こ~んな事もあろうかと、持ってて良かったですねぇ。あんな()()()()の、直接触りたくなんてありませんから。・・・()()も、無事なようで安心しました」



にっこりと好々爺めいた笑みを浮かべると、何もない空間へと笑いかける老人。

奇妙な光景だが、恐らく、例の姿()()()()()()()()()()()()()であろう。


室長は一つ嘆息すると、結界を避けるようにして床にわだかまる、泥めいた()()へと視線を向けた。



「・・・それで。結局()()は―――何なんだ?」


「いやぁ、ボクチンにもさっぱり。そういう訳でしてぇ・・・、教えて下さいませんかねぇ?」


『―――()()()()()()()()



猿めいた老人から藪から棒に向けられた質問に、()が応えた。

記憶が定かならば、それは聖書の一節に記された、()()()()()()()()()()()()である。


そうとだけ言い残すと、()()()()()をその場に残し―――消えた。

後には、煤のような得体の知れぬ汚濁に塗れた床のみが残されていた。



「・・・どうやら、知らない内に事態は動き始めているらしい」


「ですねぇ」



二人はしばし、怪人が消えた一点を見つめた後、ゆっくりと互いに顔を見合わせる。


外では曇り空が晴れたのか、ブラインドの隙間から幾筋もの陽光が、部屋の中へと差し込み始めていた。

その内の一筋が当たると、床に残された黒いシミは次第に薄れ、元のクリーム色へと戻ってゆく。


その様子を見つめながら、真調は()()()()()()()()と、【()()】。

両者の関係性について、改めて考えを巡らせるのであった―――



今週はここまで。

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