∥005-109 北海の大決闘・メイキングその五
#前回のあらすじ:敵、どんどん強くなるってさ
[マル視点]
『ま、私たちの方の事情はざっとこんな感じですねー』
「成るほどねぇ」
新情報のシャワーに脳が追い付かず、半ばフリーズしたぼく。
それをそっちのけに、コート姿の怪人と褐色少女の二人は互いに頷き合っている。
別次元から襲来する怪物―――【彼方よりのもの】。
奴等による全世界規模の大襲撃が、残すところあと、7か月あまりで地表を蹂躙するのだという。
そして【イデア学園】は、それに対抗するために作られた組織・・・らしい。
うん、今知った。
衝撃の事実の連続に、正直頭がパニックだ。
知らず知らずのうちに、ぼくは世界の命運を掛けた戦いに巻き込まれていたらしい。
なんかぼく、明かされてない事実が多すぎじゃないだろうか。
ヘレンちゃんには説明責任を果たせと、声を大にして言いたい。
『・・・本来、この地のイザコザに介入するつもりは無かったんです。ですが、お兄さんのお節介のお陰で事情が変わりました。勝ち筋が見えたからには、全力です。有用な戦力は少しでも欲しいですからねー』
「それで、ワタクシ達を懐柔しようって訳?」
『ですです。来たるべき災害を止める為に、被害を最低限に抑える為に。皆さんの力を、貸していただけませんか?』
「そう。・・・でもねぇ、アナタ達から肝心なトコロがまだ、聞けてないわよぉん?」
「肝心な所・・・?」
「この地に再び姿を現した、朝廷の使い。あのボウヤが持つ浄眼から、どうやってアタクシ達の事を誤魔化すつもりかしらん?」
一方、ヘレンちゃんとしても、『深泥族』のスカウトは可能な限り成功させたいものらしい。
その意気込みを語って見せる彼女に対し、玄華が見せた反応は尤もなものだった。
確かに、彼女に対し今のところ、『やること』と『こちらの事情』だけしか明かしていない。
ひとつ首を振ると、じろりとこちらを睨みつける。
そんな彼女の言葉をぼくがオウム返しに呟くと、ミドロの知恵者は一人の政府関係者の名前を出した。
―――真調と名乗る、類人猿めいた奇妙な外見の、あの老人だ。
全ての邪なるものを見抜くという、『浄眼』。
その力を持つ人物が、よりによって今、この地へ訪れている。
彼の役割は十中八九、ぼくらと『深泥族』の見定め役だろう。
政府の目の届かない所へ彼等を逃がすには、奴の監視を掻い潜る手段が必須であった。
言われてみれば当然の言葉に、褐色少女は宙を漂ったままこくこくと頷きを返す。
『そこは確かに重要ですよねー。・・・と、いう訳でお兄さん!どんなプランがあるのか、改めて説明して貰っていいですかー?』
「そこでぼくに振る!?・・・まあ、しますけど」
急にお鉢が回ってきたぼくは軽くツッコミを入れると、改めて気合を入れなおす。
肝心な所は言い出しっぺのぼくがやれ、という事だろう。
ここからが正念場だ。
「え~・・・。それではぼく、マルから改めまして、今回のプランを説明したいと思います」
『いよっ、待ってましたー(パチパチパチ)』
「はいはいどうもー。・・・さて、計画について一言で説明すると、『死んだ振り』です」
「ふむぅん?」
「具体的に、説明します。まずは、ぼくらと『深泥族』の皆さんで戦って、それを真調に目撃して貰います。ここまでが第一段階。そして戦闘を続ける傍ら、戦場一帯を監視して、真調が現れた事を確認したら、第二段階終了。続いて派手にバトルして、数を削り合います。―――互いに全滅寸前になるまで」
計画の詳細を、事細かく詳らかにしてゆく。
それを聞くコート姿の表情が、内心の不快感を表すように歪んだ。
無理もない。
実際に二勢力間による殺戮ショーを見せようと、そう言っているのだ。
だがしかし、このショーには裏がある。
「―――と、いうフリをします」
「・・・フリ?」
「そうです。勿論、視覚に関する異能者を騙すからには、それ相応のものを見せる必要があります。具体的にどうするかは・・・ヘレンちゃん、お願いしていい?」
『はいはーい。ご紹介に預かりました、ヘレンちゃんです!あのお爺さんを騙す仕掛けですが、先程説明した【影の国】の原理を使います』
「ニセモノの世界を作るとかいう、あれ?」
『アレです』
再び説明役のバトンを渡された褐色少女が、二枚目となるホワイトボードを引っ張り出してレクチャーを開始する。
白板の上にはコミカルなイラスト付きの図解が踊り、聴衆の視線がそこに集う。
カツンと教鞭を鳴らすヘレン。
彼女によって、政府の目を欺くショーの『仕掛け』が今、明かされようとしていた。
『【彼方】から流入する『β粒子』には、情報を転写して自ずと構造を変化させる働きがあります。私たちはこれを利用して、色んな仕組みに利用してる訳ですねー。今回はこれを、舞台となる『片洲の町』、『演者の肉体』の両方に適用―――そのニセモノを造ります。世界の裏側に、ニセモノの片洲を丸ごと造り上げる訳です。・・・ショーの舞台として』
「この町の裏側に、偽物の町を・・・?」
『ですです。実のところ、この『ニセモノの片洲』の作成は既に終わってます。―――今、貴女達が居るのが、そうです』
「・・・なんですって!?」
予想外の情報に、コートの怪人は思わず驚愕の声を上げる。
無理もない。
今、自分達が立っているこの場が、得体の知れない物質によって形作られたイミテーションだというのだから。
予想通りの反応を確かめ、少女はくすりと小さく笑う。
『情報を受け取り、形状を変える。ということは、情報を保存する機能があるという事です。それは形や色、大きさや重さに限りません。遺伝的な形質、感情、動作に至るまで、容量の許す限り全てを再現可能という事です。それこそ―――肉体や、魂すらも』
「・・・まさか」
「そのまさか、です。実は、この場に居る全員が既に、『β粒子』で作られた仮初の肉体なんです」
『何・・・ダト!?』『我々ノ肉体モマタ、偽物・・・?』
ミドロの戦士が呆然と呟いた言葉に、少女はゆっくりと頷く。
この場に存在する物体、生物、その魂に至るまで。
その全てが既に、贋作とすり替えられていた。
ヘレンちゃんが用意した『舞台』とは、この世界―――『ニセモノの片洲』そのものだったのだ。
普通であれば到底、考えられないような現象。
正しく、神の御業である。
「信じられない・・・。一体、何時の間に?」
『ついさっき、ですね。苦労しましたよー?今回は特に『目がいい』お客さんも居るので、すり替えの瞬間には神経を使いました。褒めてくれたっていいんですよー?』
「はいはい、えらいえらい」
『ぶー、愛情が籠ってませーん。・・・この肉体は、仮に死んだとしても元の肉体へ意識が戻るだけです。この仕組みを利用して、『【学園】と『ミドロ』の両者が争い、その殆どが命を落とした』という状況を作ります。―――そうですよね、お兄さん?』
「はい。真調にはその場面の目撃者になって貰って、『深泥族』の皆さんにはそのまま姿を晦ましてもらいます。被疑者全員失踪(死亡扱い)による迷宮入り。―――これが、ぼくの提案する作戦の全てです」
今週はここまで。




