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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
232/343

∥005-104 決着、そして

#前回のあらすじ:勝った!!!



[泥艮(ディゴン)視点]



(何ガ、起キタ―――?)



刹那の間、『泥艮』は思考する。


既に彼の上半身は左右に割断され、その命の灯も間も無く尽きるであろう。

その原因となった『()()』―――白亜の大剣を携えし巨人は見事、千載一遇のチャンスを逃さず強大な敵を撃ち果たしたのだ。


だが―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


大剣が届くよりも一歩早く、逃げ場のない空中にて彼の操る円刃に『デモクラシア』は貫かれ、そこで勝敗は決する筈だった。

しかし、背後から襲い来る円刃が石造の巨人に到達する直前、()()()()()()()()()()()()()()()()()―――ように見えた。



(莫迦ナ、在リ得ヌ。彼奴等ニハアノ一撃ヲ防グ手立テナド、アリハシナカッタ筈ダ―――)



巨人の自問自答は続く。


幾度振り返ろうとも、あの時起きた出来事の正体が一向に掴めない。

それもある意味、仕方のない事ではある。


何故なら、あの時―――

『泥艮』が放った水刃の前に立ちはだかった水の防御壁には、とある概念が付与されていたのだ。


それは―――『()()()()()()()』。


あの土壇場において、マル少年は直感的なひらめきから、水の防壁に『()()()()()()()()()()()()()()』性質を込めていた。

―――刃物による切断のメカニズムには、大きく分けて()()()()()が存在する。


刃の接触面を細く、小さくすることで、切断する物体にかかる重圧を大きくする『()()』。

そしてもう一つが、刃物を押し引きする際発生する『()()()()()()()』である。


鋭利な刃物の切っ先を拡大すると、ノコギリ状の凹凸が細かく並んでいる構造が見て取れる。

これが高速で接触することにより、物体を削り取ると同時に摩擦熱で分子結合を断ち切るのだ。


それを、真正面から受けずに反らすことで威力の大半を逃がし、『デモクラシア』は間一髪で難を逃れたのである。


無論、水圧による切断を原理とする『深淵刃』と、金属の刃物とでは多大に異なる点はある。

・・・が、【神力】(プラーナ)の行使において、()()()()()()()()()()


実際、マルの行動はそこまで原理を把握した上でのものではなく、『水に濡れて刃が滑る』イメージを防壁へ込めただけであった。

その強固なイメージが、『デモクラシア』の力で増幅された結果、水刃の切れ味を上回ったのである。


無論、その事を『泥艮』は知る由もない。


今はただ、体中から失われてゆく力と体温を、消えゆく意識の残り火で感じ取るのみ。

そんな中、彼へと呼びかける誰かの声が、彼の消えかけの意識へと届いた。



『誰・・・ダ・・・?』


「アタクシよぉん。随分な有様になっちゃったけれど、調子はどう?どこか痛む所は無いかしらぁん?」


『母、上―――』



声の主はコート姿の怪人物―――こと、玄華孫六(ゲンゲマゴロク)であった。

次第に暗くなってゆく視界に映る母の輪郭に、彼はゆっくりとその指先を伸ばす。



「・・・負けちゃったわねぇん」


『面目・・・次第モ・・・ゴザイ、マセ、ヌ・・・』


「いいのよぉ。負けたって何があったって、残されるものはあるもの。アナタにはこうして、アタクシがついててあげるわ」



大木のように太く、ごつごつと節くれだったその肌を慈しむように、ゆっくりと撫でる。

その体温が、急速に失われつつあることを孫六ははっきりと感じ取っていた。


子守歌を奏でるように、コート姿の人物は言葉を紡ぐ。



「どれだけ姿形が変わろうとも、変わらないものはある。アタクシとアナタは血を分けた親と子よぉ」


『アリ、ガ、ト―――』


「アタクシのベイビーちゃん。最後まで一緒よ」



―――巨人の体から、命の灯火が消える。


それと同時に、巨体を両断した傷跡に残留していた白亜の光が弾け、周囲を光の爆裂へと巻き込んだ。

白く染まる景色に、『泥艮』の巨体が、それに寄り添うコート姿が、全てが塗り替えられていく。


そして―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




()()()


『彼』は再び目を覚ます。

頭上にはどこまでも広がる青空と、白く筋状に伸びる雲が続いていた。


意識を取り戻した彼は、それをただひとすらに見つめていた。



(ココハ・・・何処ダ?)



霞が掛かったような意識に、ふと疑問が生じる。


視線を下ろすと、視界の彼方にうっすらと、水平方向に続く『壁』のようなものが微かに見える。

更に視線を下ろすと、遠方に広がる森の緑と平原、そして色とりどりの瓦で彩られた家々が続く。


―――つい先程までとは、あまりに違う光景。

何もかもが突然の状況に、『泥艮』は意識が急速に覚醒すると同時に、驚きのあまり完全に硬直していた。



(我ノ身ニ、何ガ起キタ?皆ハ・・・?)



混乱する意識は答えを求め、視線を更に移ろわせる。

閉じることのない眼は()()()と動くと、眼下に広がる石畳と、遠巻きにこちらを伺う群衆の姿を映した。


両者の視線がぶつかると共に、群衆の中からどよめきが上がる。

同じく呻き声を上げそうになった所で、肩口へ()()()と躍り出た人影に気付き、彼はその名を小さく叫んでいた。



「はぁい」


『―――()()ッ!?』


「お目覚めかしらん?無事に着けたみたいで良かったわぁん。―――あぁ、言っておくけれど、あの世や来世じゃ無いわよ、()()。・・・ある意味似たようなモノだけど」



それは、彼の生みの母であり、今となっては父でもある人物―――玄華孫六その人だった。

今はあの、重苦しいコートを脱ぎ捨て、樽のような腹を惜しげも無く陽光の下に晒したままだ。


巨体に並ぶ突起を足場に、リラックスした様子で佇む母。

その様子に危険はないと見て取り、彼は周囲に対する警戒の度合いをいくらか引き下げた。



『母上。此処ハ一体・・・?貴女ハ何カ御存知ノヨウデスガ―――』


「はいはーい。それには私、ヘレンちゃんからお答えしちゃいますねー?」


『・・・!?』



胸の内に渦巻く疑問をようやく口に出したその時。

突如として、どこからともなく少女の声が響く。


かと思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

少女だ、それも若い。


肌は浅黒く、体つきは華奢でほっそりとしている。

それでいて、その全身には太陽のような溌剌とした活力と、未知のエネルギーが満ちているように見えた。


肩口までのショートカットが、()()()と空中で姿勢を変える動きに合わせ()()()と広がる。

丁度、彼の視線と同じ高さで静止すると、ヘレンと名乗った少女はにっこりとこちらに笑いかけてきた。



「―――【()()()()()()()()()()!我々は『深泥(ミドロ)族』の皆さんを歓迎します。どうやらバトルも白熱してたみたいで、中々来ないからやきもきしちゃいました!お二人が()()()()だったんですよ?」


()()、トハ―――?』



無邪気そのもの、といった様子の少女に、思わず面食らったままにその言葉尻をオウム返しに呟く。

それに答えるように、周囲に広がる人だかりの一角から、()()()()()()()()が耳に届いた。



『オォー・・・イ!』『我等ガ祖霊ーー!!』


『コノ、声ハ。同胞ノ・・・!?』


「あそこよぉ。見てみなさいベイビーちゃん、皆、手を振ってるわぁん」


『郷ノ皆・・・、ソレニ、戦士長マデ・・・!皆、命ヲ落トシタ筈デハ!??』



見れば、水棲生物の特徴を持つ『深泥族』の者達が、こちらに向かい手を振りながら駆け寄ってきている。

あっという間に彼の足元には、平目顔(インスマス面)の集団が出来上がっていた。


その中に、彼が師と仰ぐ古兵の姿を見つけ、思わず安堵の息をつくと共に新たな疑問が沸き上がる。

それを口にすると、眼前の少女は口元に指を当て小首を傾げて見せた。



「それにお答えするにはですねえ、『()()()()()()()()()()()()()()()?』という所から、ご説明しないといけないんですよねー」


『ソレハ、郷ニ帰ロウトスル我等ニ対シ、立場ノ違イカラ止ム無ク―――』


「違うわよぉん。確かにそれっぽく口上を述べたけれど、本来の狙いは別。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『何、ダト・・・!?』


「もしくは、お兄さんみたいに『()()()()』と表現してもいいですよー?お気づきじゃ無かったかもしれませんが、あの戦いの場には皆さんの他に『()()』が居ました。そのヒト達にそれとなく我々の戦力を開示して、()()()()()()()()()()()()退()()()()()()必要があった訳ですねー。・・・まあ、後半部分はと()()()()の希望で付け足した訳ですけど」



つい先程までの激闘。

それが全て、『()()』に向けたアピールの場だったと明かされ、思わず絶句する。


―――彼は知る由もないが、あの時、ぶつかり合う【イデア学園】と『深泥族』を観察する、一人の老人が居た。


真調と名乗る、類人猿じみた奇妙な風貌の人物である。

政府直属の異能管理団体に属するという彼の目を通し、二つの勢力は()()()()()()()()()()()のだ。


それに気付き―――あるいは、()()()()()()()()()()()()()()結果が、今の状況である。

その事実に愕然とすると同時に、心のどこかでそれを納得する自分が居た。


今、目の前に浮かぶこの少女。


その外見からは想像も付かないが―――己と同じ、『()()()()()()』。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


彼はそれを、一目見た瞬間から直感的に理解していた。

己と同格の存在が口にした言葉だからこそ、たった今知らされた信じがたい話も、すんなり事実として受け止める事が出来た訳だ。


青空に浮かぶ少女は語る。

片洲の町を舞台とした、大がかりな茶番劇の舞台裏を―――


今週はここまで。

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