∥001-23 テンプレテンプレ(TAKE2)
#前回のあらすじ:ムカ着火ファイヤー
[梓視点]
「まことに残念ですが―――」
目の前には、一人の女の子。
シミ一つない純白のサマードレス、肩口まで伸びたくせのある黒髪、くりくりとした両のおめめと鼻と口。
誰だろ?知らない子だ。
でも、お人形みたいにとってもキレイ!
そんな女の子が、目の前の空間にふんわりと浮かんでいたのです。
「あなたは死んでしまいました。ですがあなたには―――あの?」
「・・・」
じー。
何だか話してるみたいだけど、あたしは知らない女の子の観察を続ける。
12歳くらいかな?
よく日に焼けてて、おめめもパッチリしてて外国の子みたい。
でも、喋ってるのは日本語なのよね。
そんなふうにまじまじと眺めていると、若干戸惑ったような声が上がる。
視線を上げると、先程の女の子が困ったような笑顔を浮かべていた。
「・・・なんだかさっきから、近くないですか?」
「えっ?」
そう言われてはた、と気付く。
女の子とあたしは目と鼻の先、息もかかるくらい近くにまで接近していた。
「おっといけね。・・・えへへ。可愛い子だなー、っと思ったからつい、まじまじと見ちゃった。ごめんね?」
「―――可愛いって。え~・・・オホン!」
可愛く咳払いをすると、すすす、と後じさり女の子は距離をとってしまった。
しまった、警戒されちゃったかな?
ダメだな、あたしって『可愛い!』とか『好き!』って思うと、ついつい今みたいに前のめりに突っ込んでいっちゃう。
先輩にはそれだとかえって逃げられちゃうよ、ってよく注意されてるし。
いけない、平常心、平常心。
あたしが内心失敗したなあ、なんて思っていると、仕切り直しとばかりにニッコリと微笑みながら、女の子は再び口を開いた。
「気を取り直して、っと。・・・改めて羽生梓さん、あなたは死んでしまいました」
「そうなんだ?」
「そうなんです」
二人して、向かい合ったままこてんと首を横に倒す。
視界が180度右に傾いたところで、周囲の様子が視界に入ってきた。
あたり一面真っ白、見事になんにも無い。
―――見渡す限り、白、白、白。
石灰岩ともガラスとも判別できない、白いモノで埋め尽くされた大地がはるか彼方、地平の果てにまで続いていた。
ここ、どこ?
「はい!はい!質問!!」
「はーい、羽生さん。ご自由にどうぞー?」
「ここって、天国ですかー?」
「ですです」
いけない、語尾が伝染ってしまった。
自分が置かれた異常事態にようやく気付いたあたりは元気よく右手を振り上げる。
そんなあたしを一瞥すると、女の子はそうですよー、とこちらも間延びした返事を返した。
・・・そしてなんということでしょう、あたし死んじゃったみたい!
「うそっ!?」
慌ててぺたぺたと全身を触って確かめる。
手足は4本、ないすばでぃ(!)な身体も頭も、きちんと付いていた。
よかった、ちゃんと足、ある!
「あれ?でもあの子はあたしが死んじゃった、って言ってたような・・・?」
ユーレイになると無くなるのって足?それとも頭?
わけがわからず首を捻るあたしに、女の子はおかしそうにくすくす、と鈴が転がるような声を上げた。
「うふふー。そうです・・・とは言いましたが、厳密には違います。ここはわたくし、ヘレンちゃんが作ったマインドとタイムの間的な空間でしてー。どの時間・空間にも繋がっていないのです」
「えーと。・・・それって?」
「あなたは死んじゃいましたが、それはまだ未確定です。此処にいる限りこうして、生きてる頃と同じように活動できるんですよー?」
「・・・?・・・??」
なんだかよくわからない、あたしって、結局死んだの?生きてるの?
実感がちっとも沸かない現状に、あたしは再び首をこてんと横に倒した。
それに、この場所は一体なんだろう?
さっき言ってたように、『何処にもつながらない』場所なら、何であたしはここに居るの?
それって、いつから?
首をひねりつつ、頭のてっぺんから煙を上げ始めたあたしを見かねたのか、ヘレンちゃん(でいいのかな?)は苦笑しながら再び口を開いた。
「よくわかんないのでしたら、なんか凄い謎空間!ってことで、流しちゃっても結構ですよ?」
「うん、そうする~。・・・ぷしゅー」
考えすぎで頭がぼーっとする。
今のはあの子が助け舟を出してくれたのかな?
優しい!
そうして、あたしはたっぷり時間をかけて頭にのぼった熱を冷ますと、改めて女の子を見つめた。
何から聞こうかな?
・・・とりあえず、まずはここからかな。
「えーっと、それじゃあヘレンちゃん。・・・で、いいのかな?」
「いいですよー」
「ありがと!それであたし、結局どうなるの?・・・どうなった、のかな?」
「はい、その質問を待ってました。・・・百聞は一見に如かず、コチラをご覧になってくださいな」
はいどーん!
と可愛らしい掛け声と共に、眼前の高さ2m地点らへんに、平べったいモニターらしきものが展開される。
何もない空間に、突如現れた四角く切り取られた窓。
その向こうには、見慣れた光景が映し出されていた。
おっかなびっくり、あたしは目をしばたかせる。
それは―――毎朝乗っている、町内巡回バスが田舎道を走る風景だった。
両脇を緑に包まれた坂道、そこを、オンボロな小型バスがするりするりと登ってゆく。
見た所、あたしの家のある停留所まであと30分、といった辺りみたいだ。
「時系列で行くと、『いま』から数分程前の光景ですねー。ここから、羽生さん達に何が起きたのかを3人称視点にてお送りしちゃいまーす」
「おおー。場面が移り変わって・・・?あ!あたしだ。・・・先輩も居る!ちっすちっす、うふふふー。やっぱ小っちゃいなー♪」
一瞬、画面が暗転すると映像は、小ぶりなバスの車中へと切り替わっていた。
景色の中央、後部座席のど真ん中を占拠して盛大にイビキを立てているのが、あたし。
その隣、学生カバンを挟んでちょこんと座席に収まっているのが、先輩―――丸海人であった。
先輩はあたしの一番の友達にして、『好き』の先生。
一言で言い表すのは難しいけれど・・・とても、大事な存在だ。
愛嬌のあるまるっとした顔立ちに、ぷにぷにふっくらとしたお手々。
そして、小学生とよく間違われるちっちゃな背丈。
本人はとても(とても!)気にしているけれど、あの、小さいのがいいのだ。
一方で、あたしは相も変わらず眠りこけていた。
乗車から降車まで、時間をフルに使って爆睡するのがここ最近のトレンドなのだ。(寝過ごしても、停留所で運転手のおっちゃんが起こしてくれるから安心!)
「もう少し先の場面まで飛ばして・・・っと。はい、ここからが注目です。以降は時系列に関わらず、『実際に起きた事』を順に映し出していきますよー?」
「うん。あれ、先輩消えた?・・・と思ったら戻ってきた?それに、なんか知らないヒト達もいるー。・・・あれ?あれ・・・??」
窓の中では、不可思議な光景が繰り広げられていた。
眠りこけるあたし含め、乗客達がバスごと静止すると同時に、画面端に居た筈のマルの姿が忽然とかき消える。
―――かと思えば、別の場所へ再び現れていた。
出現したのは先輩だけではなく、3人+3人の男女2組も何時の間にやら、車内に姿を現している。
彼等は性別・国籍・容姿すべてがバラバラで、少なくともあたしがこれまで会ったことのない人ばかりだった。
彼等が先輩と二言、三言言葉を交わすと、女子3人組の方が画面の外へと出て行ってしまった。
・・・入口のあたりの席が良かったのかな?
そうやって、目をぱちくりさせながらパネルの映像を眺めているうちに、あたしは画面端に映る異様な『もの』に気付いてしまった。
それはバスの窓ガラスの外、ちらりちらりと黒い影のような何かが、幾度となく通り過ぎている。
気付いてしまった。
それがいわゆる『空飛ぶ円盤』で―――それがバスの外を、無数に飛び交っていることに!
「えええええ!?なんかちっちゃいUFOがいっぱい!きもちわるい!!」
「見えるんですか?流石の動体視力ですねー」
あたしは自慢じゃないけれど、目はいい方だ。
でも、今ばかりはそれを呪わずにはいられない。
窓の外を飛び交うUFO達、それからは何故か、物凄く『イヤ』なものを感じた。
その予感を肯定するように、ヘレンちゃんがぽつりと呟きを漏らす。
「あれは【彼方よりのもの】、羽生さん達が死ぬことになった、その元凶―――のようなモノ、です」
「シング・・・?」
予感を肯定するような女の子の呟きに、あたしはつられるようにその名を口にする。
そして、パネルに映し出される光景もまた、次の場面へと移り変わっていた。
見知らぬ男女――【神候補】――達と、UFOの戦い。
【霧の巨人】の出現。
窓ガラス越しにほんの一部だけ見えた、銀色の巨体からは先程のUFOとは比べ物にならない程の、悪い『予感』を感じた。
それを肯定するかのように、幾度となく巨人はバスへと襲い掛かり、鋼鉄の車体は薄布を裂くかのごとく容易く引き裂かれてしまう。
それに対峙するのは、不可思議な力を身に着けた先程の男女たち―――そして、先輩だった。
信じられないような光景が、幾度となく繰り広げられる。
目まぐるしく移り変わる攻防、ピンチ、そして逆転。
あと一方、という所にまで追い詰められた巨人の叫びが、画面の外から木霊する。
だが―――嫌な予感はむしろ膨れ上がっていた。
再び弾け飛ぶ防壁、その奥から覗き込む、再臨の巨人。
泡盾を以て、一度はその一撃をいなした見知った顔の少年。
しかし―――敵は巨人だけでは無かった。
何時の間にか車内へ侵入していたUFO達が、先輩の身体に次々とへばり付く。
しゅん、と音を立てて車体を守っていたコバルトブルーの輝きが消え、そして―――
車体もろとも銀の巨椀が小さな身体を叩き潰し、パネルは沈黙した。
―――静寂が、その場を支配していた。
あたりに重苦しい空気が満ちている。
「繰り返しになりますが―――あなたは死んでしまいました」
ヘレンちゃんは繰り返す。
あなたは死にました。
唐突に思えるその言葉にちっとも疑問が沸かなかったのは、心のどこかでそれを理解していたからだ。
ヘレンちゃんは続ける。
「攻撃の余波でバスは大破、犬養さんは退避が間に合いましたが、まき散らされた破片で乗客の肉体はズタズタ。『フライングヒューマノイド型シング』の討伐は時間の問題ですが―――時間凍結が解除されれば、皆さん間違いなく死亡確定、です」
「・・・・・・」
「さて。状況はご理解いただけたと思いますが、わたくしヘレンちゃんから提案―――」
「教えて」
「・・・えっ?」
何となくわかっていた。
あれはきっと、『いまだ未確定の未来』。
このまま何もしなければその通りの事が起きるけれど、足掻けば変えられるかもしれない、そんな光景。
あたしは、昔からそういうのがなんとなく理解できてしまうのだ。
その代わり、誰にでもわかる事がちっとも身につかなかったりするのだけれど。
そんなあたしに出来る事で、あの人たちが―――先輩が、助けられるのならば。
「先輩を助けるには、どうすればいいの?」
茶色の瞳をまっすぐ見つめ、あたしはそう問いかけるのだった。
※2023/12/17 文章改定