∥005-101 抜剣、闘兵剣!!
#前回のあらすじ:切り札を抜かざるをえない!
[マル視点]
「『デモクラシア』の、切り札・・・!?」
「うむ。残存エネルギーの大半を消費するので、今まで出し惜しみしていましたが―――そうも言ってはいられないようです。皆さん、操作盤を見てください」
「操作盤の中心が―――割れた!!」
犬養青年の言葉をオウム返しにすると、詰襟姿の美丈夫は頷きを返す。
そして、ぱちりと指を鳴らした次の瞬間、操作パネルの一角が左右に開き、中から箱状の物体がせり出してきた。
固唾を呑んで見守るぼく達の前で、青年の語る『切り札』が、その全容を露にする―――!
「こ、これは―――!?」
「なんか、アレみたいだねー?投票箱」
・・・投票箱だった。
ジェラルミンのメタリックな輝きに包まれた縦長の箱が、操作盤の中央にでかでかと鎮座している。
その姿は選挙シーズンになるとニュースで見かけるあれ、即ち投票箱そのものであった。
これが―――切り札?
「な、なるほど・・・。これは確かに、民主主義の象徴。―――で。これでどうやって敵と戦うんですか?」
「「・・・」」
―――コックピット内に、乾いた風が吹いた気がした。
流石にこれは、どうかと思う。
勝手に盛り上がった手前言い出し難いのだが、期待を裏切られた感が物凄い。
無言の抗議を視線に込め軽く睨むと、何やら勘違いしたらしい短髪の青年は、懐から一枚の紙を取り出すと、再び声を張り上げた。
「えぇ、正しくこれは民主主義の象徴。今、ここに宣言しましょう!この危急の時において、『デモクラシア』は唯一無二の『剣』を得ると!さあ!ご照覧あれ―――!!」
『承認―――闘兵剣、抜剣』
「うわっ・・・!?」
犬養青年は手中の紙切れ――投票用紙――を、ジョラルミンの箱の頂きより投げ込む。
―――と、同時に室内の照明が落ち、並ぶモニターが全て同一の文字を映し出した。
サイレンが鳴り響き、回転灯が赤く輝く中。
ぼくらからは見えぬ『デモクラシア』の外観にも、大きな変化が起きようとしていた。
整然と並ぶレンガの継ぎ目が開き、巨人の胸部中央に裂け目が広がってゆく。
その中から現れたのは、コックピットに出現したものと同じ―――否、何倍にも巨大化した投票箱であった。
それをむんずと巨大な腕で掴み、一気に引き抜く。
瞬間、周囲を銀の閃きが満たし、束の間、泥の海は真昼のような輝きに包まれた。
視界を満たしたフラッシュは瞬時に収まるが、ある一点―――石造りの巨人の掌中に、その残滓が残されていた。
それは―――巨人の背丈程もあろうかという、白亜の剣。
えもいわれぬ輝きを纏った両刃のブレードが、先刻の箱の端から生えている。
ようやく照明が戻り、周囲の様子を映すようになったモニターの中にそれを見つけたぼくは、あまりの事態に口をあんぐり開けていた。
「は、箱から・・・投票箱から、剣が―――」
「そう!遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!これなるは『デモクラシア』最大の武器、その名も―――『闘兵剣』!!」
「おぉー・・・(ぱちぱちぱち)」
犬養青年の決め台詞に、感心した様子の後輩がぱちぱちと拍手を贈る。
コックピット内のムードが盛り上がる反面、ぼくは内心、これはもうダメかも知れないと、ひっそりと思うのだった―――
今週はここまで。




