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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
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∥005-97 両雄、相対す

#前回のあらすじ:ニチアサタイム開始!!!



[???視点]



本拠地左翼側―――


かつて、防衛ラインと『深泥(ミドロ)族』が熾烈な戦いを繰り広げ、『泥艮』(ディゴン)による攻撃が到来した際、急拵えの防潮壁が避難民の命を救ったこの地にて。

濁流が運んだ木石混じりの柔らかい泥をかき分け、一匹の亀が()()()と這い出てきた。


大きい。


全長1m半にも及ぶ巨大な()()は、重くまとわりつく泥から抜け出すと、緑色の巨体を横たえ、一息つくような仕草を見せる。

夜空に浮かぶ銀の月が、その翡翠色に輝くボディへ冷たい光を投げかけた。


否―――それは、()()()()()()()()()()()

金属製の、細かな装飾を施された、楕円形の器。


それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()のだ。

それは、人ならざるものによって創り出された偽りの生命―――


かつて、『宝貝』(パオペエ)と呼ばれた仙界の宝と同等の存在であった。


巨亀を模した器がその動きを止めると、甲羅にあたる部位がひとりでに持ち上がり―――

その中から、()()、と白い人間の手が現れた。


手に続き、腕が、肩が、頭部が、器の中から姿を現す。

女だ、それも若い。


群青色の、スリットも艶めかしいチャイナドレスに見事な肢体を収めた、妙齢の美女であった。

()()()、と立ち上がると、軽く二、三度頭を振ってから軽く息をつく。


その度に亜麻色の長髪が揺れ、月の光を受けて艶めかしく艶を放った。



「・・・ふぅ。流石に死ぬかと思った」



そんな事を一人ごちると、女はゆっくりと周囲を見渡す。

その顔は、口元を残し申を模した奇妙な木彫りの面によって覆われていた。


―――あの時、濁流から逃げまどう人々を先に逃がし、一人、急造の防壁を張り巡らせた女性である。

壁の崩壊と共に濁流に呑まれたと思われた彼女だが、間一髪、愛用の宝貝に隠れて地下へと逃れていたのだった。


無論、地下へ潜っていた間、地上で起きていた出来事を彼女は知る由もない。

まずは情報収集と、周囲の様子をつぶさに観察してゆく。


その視線が、()()()一点でぴたりと止まった。


そこに立ちはだかるのは、山のような体躯を誇る怪物―――『泥艮』。

巌のような肌、人と水棲生物の特徴を兼ね備えた異形、高層ビルと遜色のない巨体。


そして、その正面には怪物にひけをとらない巨大な物体が、一つ。

物言わず立ち塞がっていた。


四肢と胴体、頭部を備えたそれは人の形を模してこそいるが、全身を構成しているのは人のそれとは明らかに別物。

レンガと鉄筋コンクリートの塊が肌となり、四肢となり、全身を造り上げていた。


異形の巨人と、石造の巨人。

その両者が、海岸線に広がる泥の大地の上で、睨み合っている。


何とも形容しがたいその後悔を目の当たりにしてしまい、チャイナドレスの女は思わず()()()とした表情を浮かべた。



「・・・何だあれ」



いくらか呆れを含んだ声色が、泥の海に響く。

無人となったその場には、彼女の疑問に答える者は誰一人として居なかった。


一方、その頃―――




  ・  ◇  □  ◆  ・




[マル視点]



ぼくは混乱していた。


つい先程まで、ここは石造りの重厚な建物の中だった筈だ。

それが、今、謎の巨大ロボのコックピットへと様変わりしている。


わけがわからない。


呆然とした表情のままコックピット内を見渡すぼくとは対照的に、隣の後輩はただいま絶好調であった。

喜色満面の表情できょろきょろと視線を動かしながら、興味を示したものをつついたり引っ張ってみたりと、実に忙しそうだ。



「わー!わァー!なにこれ!なにこれなにこれすごーい!!ねぇねぇねぇ、先輩!見て見て、おっきなお魚が映ってる!」


「・・・あーちゃんは元気だなァ・・・」


「うん!・・・あれっ?ねぇ先輩、何だろ()()


()()()―――?」



シートの上で小刻みに飛び跳ねながら、落ち着きなくあちこち見回していた(あずさ)は、ふと()()()一点を指差すとこちらに向かって疑問の声を上げる。

つられて視線を向けた先には、山のような『泥艮』の肩の上に、人間らしきシルエットが一人、何時の間にか現れていた。


目を凝らし、よくよく見てみれば―――果たしてそれは、確かに()()()()()()()()であった。

彼(彼女?)がここにいる事実への驚愕を込めて、ぼくは小さく叫びを上げる。



玄華(ゲンゲ)さん・・・!?」


「ナマズのおっちゃんだ!!生きてたんだ?」


『ヌルフフフフ。生憎と、イイ女は長生きするものなのよぉん。・・・それにしても、やってくれたわねぇん?』



―――それは、地上へ進出した『深泥族』のリーダーにして、『泥艮』の産みの親。

スーツ姿の怪人こと、玄華孫六(ゲンゲマゴロク)を名乗る人物であった。


あの巨人の側に付かず離れず、常に共にいたことから、沖合より巨人が引っ張られてきた際、取り残されていたものと思い込んでいた。

しかし、どうやら彼()はずっと愛する息子の側を離れなかったらしい。


大した愛の深さだと感心すると共に、高速で引きずられる最中よくも振り落とされずに済んだものだと、素直に感心してしまう。

当の本人も、かなりの苦労があったと見え、その全身はぐっしょりと濡れそぼり、荒い息遣いになだらかな肩は絶えず上下していた。


そんな苦労もおくびにも出さず、スーツ姿のオカマさんは拡声器を片手に、再び奇妙な笑い声を上げるのであった。



『ヌルッフフフフフ!まんまと陸の上に引きずり出せたと思ってるでしょうが・・・。そうは問屋が卸さないわよぉ?アタクシのベイビーちゃんは、水揚げされた程度じゃビクともしないんだからねぇ・・・!!』


『・・・アノ。母上?モウ一度海ヘ戻レバ良イト思ウノデスガ―――』


『シッ!・・・(ヒソヒソ)いいから、このままイイ感じの台詞で場を繋げるのよぉん。おわかり?(ヒソヒソ)』


『エエッ!?・・・ワカリマシタ。―――愚カナリ、陸ノ者共ヨ。我ガ力、コノ程度デ僅カナリトモ衰エルトハ思ワヌコトダ!何処カラデモ掛カッテクルガヨイ、ソノ思イ上ガリヲ理解サセテヤロウ・・・!!』



母親の発言に対し、至極当然の提案を出す息子。

口の前に指を立て、それを制止した怪人はそのまま顔を寄せると、二人してヒソヒソ話を始めてしまう。


そんな光景を()()()としたまま、モニター越しに見つめていると、どうやら話が付いたらしい。

気を取り直した様子の『泥艮』はかっこいいポーズと共に、威厳たっぷりの低音ボイスでラスボス戦前のラスボスっぽい台詞を言い放った。


・・・あ、そのまま続けるんだ。


なんかもうグダグダになってしまったが、どうやら戦いの舞台は整ったらしい。

巨人と巨人、海に棲むものと人に造られしもの、対照的な巨体が互いに正面から睨み合う。


先程までの弛緩した空気を断ち切るように、詰襟姿の青年はコックピット内に据え付けられたマイクを手に取ると、よく通る声を張り上げるのであった。



「ヒトと異形、あまりに異なる両者が分かり合うには一度、ぶつかり合う必要があるようですね・・・!いいでしょう!この『デモクラシア』が!今!この戦いに終止符を打つ―――!!!」



今週はここまで。

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