∥005-96 変形!発進!正義の巨大ロボ!!
#前回のあらすじ:とったどー!
[泥艮視点]
怪物は、混乱の渦中にあった。
奇妙な偶然が重なった末、祖霊としての肉体へと変じた己の巨体。
山のような体躯、歩く度に重く地響きを上げる脚。
それが、為す術も無く引きずられている。
それも、高層ビルに匹敵する超重量を支えているのは、たった一本の糸のみである。
あらゆる意味で、常識の埒外にある事態が進行していた。
(コレハ―――何ダ!?不可思議ナ力ガ、我ノ肉体ヲ陸ヘト引キ寄セル・・・!)
山のように引き波を立てながら、『泥艮』は海面近くを滑るように移動していた。
そのあまりのスピードに、水切りのように巌のような巨体が数度、海面をバウンドしては膨大な量の飛沫を上げる。
それに対し、怪物はあらん限りの抵抗を続けていた。
身をよじり、海底に爪を突き立て、巨体にものを言わせパワーと重量を以て、謎の引力に真っ向から立ち向かう。
その甲斐あってか、彼は不可思議な力が僅かに緩んだことを感じ取った。
『シメタ!今ノ内ニ体勢ヲ整エ―――ウォオオオオオ!!?』
引力に綻びが生じたその瞬間、身を翻し、どうと地響きを上げて海底へと着地する。
そのまま上体を沈め両の脚を踏ん張り、ここから一歩でも動いてなるものか、と気合を入れた、その時。
突如として、先程までより倍以上に増した力が足元へと掛かる。
たまらず巨人は尻もちをつくと、そのまま悲鳴を上げて水面を滑り始めたのだ。
―――そして、永遠に続くかと思われた謎の力との綱引きが終わりを迎えた、その時。
ふらつく頭を押さえ、上体を起こした巨人の眼前にあったのは、かつて遠目に眺めた荘厳なる石造りの建物―――国会議事堂であった。
己の気が確かなら、謎の引力が収まるまでのたった数分にて、彼は沖合数kmからここまで運ばれたことになる。
『泥艮』はその巨大な瞳を驚愕に見開くと、地鳴りのような呻きを漏らすのであった―――
・ ◇ □ ◆ ・
[マル視点]
『グゥゥゥゥウ・・・!!』
『ギャー!助けてー!!』
『なんというデカさである・・・!ここはジェームスに任せて、吾輩達は逃げるのである!!』
『薄情者ーーー!!!』
スピーカを通したくぐもった声が、仲間達の危機的状況を伝えてくる。
薄暗い部屋に並ぶモニターの一つが、『泥艮』の巨体と至近距離から対峙し、腰を抜かしているバスネットヘルムの少年と、それをアッサリ見捨てて逃げ出そうとするバケツヘルムの少年を映し出していた。
ぼくが現在居るのは、得体が知れない無数の機械と計器、そして前述のモニター群が所せましと並ぶ部屋の中だ。
重厚なつくりのシートへ腰かけ、3点式シートベルトでがっちり体を固定されたぼくは、隣でむやみにスイッチを触ろうとするあーちゃんをたしなめつつ、事の推移を見守っていた。
彼女の反対側には、腕組みしたまま微動だにせずモニターを睨みつける犬養青年と、膝に柴犬のツンを座らせ窮屈そうにシートに収まる西郷どんの姿もあった。
―――ここは先刻、ライトバンの自動操縦によりたどり着いた国会議事堂めいた建物の内部、その最奥にあたる場所だ。
「た、助けに行った方が良いんじゃ・・・!?」
「うむ。―――だが、今少し待って欲しい」
「そんな、悠長な・・・!」
「まあ、そう焦っな。犬養どんが動かんのは、動かんなりん理由があっでばい」
ぼくが彼等の方へちらりと視線を走らせると、詰襟姿の青年はゆっくりと頷いた後、おごそかに口を開く。
今は動けない、との言に思わず抗議の声を上げると、その隣に座る巨漢の少年から助け舟が入った。
「そーなの?」
「うむ・・・。恥ずかしながら、その通りです。―――が、雌伏の時もここまでのようですね」
小首を傾げ、その真意を問う梓の言葉にもう一度頷くと、犬養青年はじっと計器盤の一角を注視し続ける。
つられて見れば、『審議中』と表示された拳大のパネルが、消灯したまま無数の計器類の中に収まっていた。
周囲からの視線が集う中―――それまで沈黙を保っていたパネルに灯が点る。
『承認』と表示を変え、煌々と蛍光色の光を放つパネルを前に、短髪の青年は獰猛な笑みを浮かべると、勢いよく右拳を振り上げた。
「時は来たれり!イデア学園二百余名の信任を背負い、私、犬養剛史は!今!民主主義の剣を抜く!!!」
『デモクラシア―――起動』
裂帛の気合と共に振り下ろされた拳は、先刻のパネル下部に位置していたボタンへ強かに叩きつけられた。
突如として、部屋内の照明が深い青に、立ち並ぶパネル群は赤く表示が切り替わる。
周囲に生じた変化に、ぼくと梓が落ち着きなく見回す中。
続いて全てのパネルが同時に、同じメッセージを映し出した。
―――と、同時にメッセージと同じ内容を、抑揚の欠いた女性の機械音声が告げる。
高鳴るサイレン、鳴動を始める部屋。
天地がひっくり返るかのようなその振動に、厳重なシートベルトはこの為だったのか、と内心納得しつつ、ぼくはだしぬけに襲ってきた急激な横Gに耐える。
水平方向へ、上へ、下へ、再び上へ。
幾度となく襲い来る加速と急制動に、胃の中のものが上がってくる感覚に耐えつつ、必死にシートへしがみ付き続ける。
そうすることしばし、最後に上昇を終えると、並ぶパネルが同時に切り替わり、外の様子を映し出した。
「『泥艮』・・・!!」
「改めて見るとやっぱデカい・・・あれ?でも何だか、視点が高すぎるような―――?」
モニターの大半を占有する、水棲生物と人間を歪に混ぜたような巨人の姿に、思わずごくりとつばを飲み込む。
しかし、その映像の違和感に気付くと、ぼくは怪物を映したモニター以外へと視線を走らせた。
その先で、奇妙なものを見つけてしまい、思わずくきりと首を傾げる。
(あれは―――壁?にしては何と言うか。形状が、人の身体、みたいな―――)
「待って。まさか、これ・・・!!」
それは、レンガとコンクリートによって構成された人体の模倣図であった。
腕が、脚が、胴体が、頭部までもが。
その全てが鉱物と鋼の骨格で構成され、一つの巨体を造り上げていた。
何故、こんなものがモニターに映っているのか?
先程まであった、国会議事堂めいた建造物は何処へ?
―――考えるまでも無く、答えは既に出ていたのだ。
「ロボだっ!これーーーーー!!!??」
そんな素っ頓狂な叫びが、巨大ロボの頭部に位置するコックピットに木霊する。
一族の意思を背負い、ぼくらの前に立ちはだかる巨神―――『泥艮』。
【学園】の信任を束ね、今、大地に立った石造りの巨人―――『デモクラシア』。
両雄による最終決戦の火蓋が、今、落とされる―――!!
今週はここまで。




