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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
221/343

∥005-94 島釣りの英雄

#前回のあらすじ:オイラがマウイさ!



[アルトリア(Arturia)視点]



「ほ、本当にやるの・・・?」


「アッハッハ!まさか、もう怖気づいたのかい?」


「そ、そんな訳無いでしょ!やるわよ・・・やったろうじゃない!!」



ローブを目深に被った乙女が吠える。

刺青のある少年は()()()()と笑い声を上げると、携えた木製の竿を()()()、と一振りさせて水平線の彼方へ視線を向けた。


その行く手には、サーチライトに照らされ白くきらめく海原と、光源の届かぬ闇の奥深くに佇む、()()()()が待ち受けていた。

数kmは離れたこの場所からも、その巨体は圧倒的な威圧感を伴い、見る者に畏怖を抱かせる。


水棲生物の特徴を持つ神話生物、『深泥(ミドロ)族』。

その祖霊である、巨大な怪物―――『泥艮』(ディゴン)だ。


その威容を目の当たりにして、その場に居る者たちが思わず息を飲む中。

なおも不敵に微笑む刺青の英雄は、獲物をしっかと握りしめると、いかにも楽し気に声を上げた。



「いやーしっかし、本当にでっっっかいなあ!あれだけの大物は、太陽の16本脚にかけてオイラの人生でも初めてだ!ワクワクしてきた~~~!!」


「はっはっは、やる気に溢れているようで何よりだね。・・・それじゃあ先生、そろそろ始めてもらっても?」


「どんとこいだ!」



アルナブの問いかけに、瞳を煌めかせ水平線の向こうを見つめていた少年は、やる気十分といった様子で逞しい胸を叩く。

そして木の竿を振りかぶると、海目掛けて勢いよく振り下ろすのだった。



「それじゃあ・・・いっくぞーーーーーっ!!!」




  ・  ◆  ■  ◇  ・




―――冒頭の場面から数分前。

国会議事堂の屋上に集められたメンバーは、自分達の役割を褐色の偉丈夫、アルナブ(Arnav)から聞かされていた。



「・・・という訳で、この計画のキモは先生ことマウイの力に掛かってる、という事だね。ここまでで何か質問はあるかい?」


「あるというか・・・。本気なの?あの巨人―――『泥艮』を()()()()()、だなんて」



その計画の驚くべき内容に、一同は揃って驚愕の声を上げる。

いたって単純ではあるが、問題なのはその内容。


英霊マウイの持つ魔法の釣竿を用いて、『()()()()()()()()()()()()()()()()


そんなバカげた作戦が、【学園】最後の切り札なのであった。

まるでおとぎ話か法螺話のような内容であるが、そのキーとなる人物は、南太平洋に広くその名を轟かせる偉大なる英霊、マウイその人である。



「まっかせてよ!島よりでかくなけりゃ何だって釣り上げて見せるさ!」


「だってさ」


「えぇ・・・?」



団子っ鼻を人差し指でこすりながら、()()()と笑って見せる少年。

その屈託のない様子に、ベリーショートの金髪少女は思わず怪訝な表情を浮かべる。


しかし反対しようにも、対案を出せる者はこの場にはおらず、一見無茶なその作戦は決行に踏み切られるのだった―――




  ・  ◇  □  ◆  ・




―――そして、再び現在。


振り下ろされた竿の先端より、()()()と煌めく釣り針が空の彼方へ向かって飛ぶ。

その軌道はゆるやかに上昇した後、落ちる事無くどこまでも遠く、遠くへと伸び続けている。


既にそれは視界から外れ、遥か地平線の向こうに届かんという距離にまで到達していた。

無論―――()()()()()()()()()()()()()()()、である。


完全に物理法則を無視した、ありえない挙動であった。

始めは半信半疑で様子を見ていた者達も、今では一様に、唖然とした表情で空を見上げている。


―――やがて、どこまでも続くと思われたその時間も、終わりを迎える刻が訪れた。


重力を無視して飛び続けていた釣り針は、次第にその高度を下げると、()()()()目掛け落下を始める。

その先―――巨大な怪物の脚の上へ()()()と落ちると、鋭利な針先はその分厚い皮膚に()()()と喰いこんだ。



『ム・・・?』


「あらぁん、どうかしたのかしら、ベイビーちゃん?」


『イヤ、一瞬何カガ―――』



ほんの一瞬、()()()と微かな痛みを覚えた巨人は、違和感に周囲を見回し始める。

()()の異変に玄華(ゲンゲ)は声を上げるが、この時二人は結局、違和感の正体に気付くことができなかった。


自らも肩の上から異変の正体を探すが、結局見つからず、顔を見合わせる親子。

しかし―――()()()()()()



「よーし、それじゃあ・・・フィーーーーッシュ!!!!!」


『ヌ・・・オオオオオッ!!?』


「ベ、ベイビーちゃん!?」



()()()と唇を舐めると、愛用の釣り竿を握りしめるマウイ。

勢いよく()()()たその瞬間、得体の知れぬ力により姿勢を崩され、巨人は勢いよく水しぶきを上げ、()()と後ろ向きに倒れる。


轟音と、周囲に降り注ぐ飛沫の中。

巨体へ必死にしがみ付きながら、コート姿の人物は短く悲鳴を上げた。


―――そして、一方。


【学園】側本拠地。

こちらでもまた、めまぐるしく状況は動きつつあった。



()()()!・・・それじゃあオイラはここで見てるから、後、よろしく!」


「うんうん。そういう訳だから君達、頑張ろうか!はい、これ、持って」


「えっ。・・・えっ?」


「やったろうじゃない!女は度胸ぉ・・・おおおおもいいいいい!!?」



フッキングを確認した褐色の少年から、()()、と手渡された釣り竿を受け取るフード姿の人物。

見た目軽そうなそれを握りしめた途端、凄まじい重量が手元に掛かり、危く取り落としそうになる。


慌てて周囲の者達が手を伸ばし、辛うじて彼等の生命線は保たれた。

しかし―――まだまだ戦いは始まったばかりであった。



「よーし、それじゃそのままよく聞いて!竿は握ってれば勝手に糸が縮むから、手を離しさえしなきゃ勝手に釣り上げられるよ!でも、この魔法は()()()()()()()()()()()から、()()()()()()()()()()()()()踏ん張るんだ!」


「り、陸の方を向いてればいいんですか・・・!?」


「ちょっと男子!アンタ達も手伝いなさいよ!?」


「こ・・・これは男らしさを見せるチャンス到来でござるか!?」


「日頃鍛えた筋肉でイイ所、見せるのである・・・!!」



女3人、文字通り姦しく竿を握って踏ん張り始めたところで、叱責に追い立てられるように男性陣もそれに加わる。

()()()()()()()()()と掛け声を合わせながら引き絞られる糸の向こう側では、更に引力を増した得体の知れぬ力に、仰向けのまま巨人はなおも抗っていた。


しかし力及ばず、右脚を始点に陸へ向かって()()()()と引っ張り上げられてゆく。

轍のように引き波を残し、『泥艮』の巨体は凄まじいスピードで陸地へと移動を開始するのであった―――


今週はここまで。

今回から作中の表記を一部変更しています。

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