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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
219/344

∥005-95 集団戦・第二十五幕

#前回のあらすじ:ここは任せて先に行きな!



[マル視点]



―――()()()、という言葉がある。


巷のにゃんこを愛する少々()()な方々の間で囁かれるスラングであり、その()()な愛情表現を『()()』という行為を以て表現するという・・・。

まあ、いわゆる()()だ。


それが今、ぼくの目の前で行われていた。



「んすぅーっ、んふすぅーっ。・・・うへぇえへへへへへ」


『・・・・・・』



簡素な白のバンの中では、茶虎の毛並みに鼻先を埋めたぼくの後輩こと、羽生梓(ハニュウアズサ)が緩み切った顔で微笑んでいた。

()()に夢中なのか、彼女はぼくが近くに居る事なぞちっとも気付いていない。


その手の中には、小柄な一匹の猫が微動だにせぬままに、()()()()と収まっていた。


ぼくの身内であり、『()()()』における飼い猫でもある猫又の()()だ。

奇行の当時者は言わずもがな、小猫の方もまた、どちらもぼくと親しい間柄である。


当然、ここは声でも掛けてしかるべき場面なのだが、ぼくは思わずそれをためらってしまった。

親御さんが目撃したらさぞかし嘆くであろう、乙女らしからぬ醜態を見られたと知れば、いくらあーちゃんが()()と言えど、深く傷つくかも・・・知れない。


―――()()()()()()()()()()()


ぼくは数舜考え込み、そうと決めると開きかけのドアを()()と閉じようとして―――

どこか諦めきった表情の小猫と、()()()()()()()()()



『うにゃにゃ~~~~~!!!』


「わわっ!?ちょっ、待って―――!?」


「・・・うわひゃあ!?」



ぼくの姿を認めたその瞬間、急に暴れ始める小猫。


突然の出来事に反応できず、目を丸くした少女の腕の中から()()()と抜け出すと、シートの端に着地する。

・・・かと思えば、りんは素晴らしい跳躍力で一気に飛びあがると、ぼくの顔に()()()()と張り付いてしまった。


急に目の前が真っ暗になり、わけもわからずぺたんと尻もちを付いてしまう。

目隠しされた状態のまま、ぼくは手探りで顔を覆うものを引っぺがした。


目の前には、少しうるんだ二つの緑の瞳が見つめ返していた。



「びっくりしたぁ・・・。りん、きみもお留守番ありがとう。でも、急に飛びつくのはやめてね?」


『にゃあ』


「うう・・・。猫ちゃん~、何処行ったの~?―――あ、先輩だ」


『・・・!!』



一方。


りんに逃げられた我が後輩は()()()()と戸口から姿を表すと、ぼくの姿を認めて()()()()と目を瞬かせる。

その声に()()()と背筋を毛羽立たせると、()()は途端にぼくの背に隠れてしまった。


そのまま顔を半分だけ出し、警戒心全開であーちゃんを睨みつけている。

そんな小猫の姿を数舜見つめた後、ぼくは呆れ果てた視線を彼女へ向けるのだった。



「あーちゃん。・・・一体何やってんのさ?」


「う"っ。で、でも、だって・・・」


「デモもストもありません。おりんちゃんが怖がってるじゃないですか。駄目でしょ?そうやって嫌がる相手に無理やり迫ったりしてると、そのうち本当に嫌われちゃうよ?」


「そ、それはヤダっ!・・・でもこれはその、好きが溢れちゃっただけというか。えっとぉ―――」


『・・・(ジロリ)』


「うぅっ!」



たしなめるようなその一言に、眉を八の字にすると、がっくりとうなだれる梓。

その眼の端にはちょっとだけ、涙の玉が浮かんでいる。


彼女も流石に嫌われたくは無いのか、ぼくと背後のりんの間とを交互に見つめると、情けない声を上げるのだった。

それをジト目で睨んだまま、『もっと言ってやれ』とでも言いたげな表情で頷く愛猫の姿に、ぼくは思わず苦笑を浮かべる。



「全く、もう・・・。ホラ、おりんちゃんにごめんなさい、は?」


「はぅ・・・ごめんなさぁい」


『・・・にゃあ』


「よくできました」



りんの方もそこまで気にしていなかったのか、あっさりと許してくれた。

素直に謝罪の言葉を述べた少女に向かい、彼女は小さく鳴いて応える。


ぼくはそれを見届けると、よっこいしょ、と勢いを付けて立ち上がった。

その動きに合わせ、りんはぴょんとぼくの肩へ飛び乗り、後ろから頭の上へとよじ登り始める。



「あいてててて。おりんちゃん爪、立てないで!・・・そ、それはともかく、あーちゃん。ぼく等もそろそろ動くよ?」


「は~い。・・・あれっ?でもでも、あたしたちが前に出るのってマズいんじゃなかったっけ?確か、()()()()()()()()()()()、とか―――?」


「そうそう。ぼくたち二人と、犬養さん達は()()()()()()()からね。―――でも、それももう終わり。ここから先はクライマックスまでまっしぐらだ。―――さあ、乗って!」


「うん!」



白のバンの運転席側に回ると、ぼくは車内に勢いよく乗り込む。

隣からはぼくと同じく、あーちゃんが乗り込んだ音が響いた。


それを聞きながら、ぼくは運転席のパネルに目当てのものを探す。

―――果たしてそれは、オーディオ関連のスイッチが並ぶ端に存在した。


()()()、と指先に手ごたえを残して、スイッチの一つに光が点る―――




  ・  ◇  ■  ◆  ・




「―――マル君。君にはこれから、()()()()()()()()()()()


「・・・え、今からですか?」


「えぇ、()()()()()



それは今から数分前。


未だ出来上がったスロープを通して国会議事堂の屋上へと、大量の避難民が続々と登り続けていた時のことだ。

(かなえ)くん達と()()()()に、屋上へと乗り込んでいたぼくは、スロープの制作者である精悍な青年―――犬養(いぬかい)さんから話しかけられたのだ。


出し抜けに告げられたその一言に、ぼくは()()()()としたまま首を傾げる。

青年は疑問の声ににこやかに応じると、足元に見える一角―――開戦の時にも見た白のライトバンを指差した。



「最後の仕上げの為に、君にはあれを()()()()()まで運んで頂きたいのです。君と同じく、()()()()()()()()()()()()()には、先に車内で待機して貰っています。合流して、二人で向かってください」


「ち、ちょっと待ってください。・・・ぼく、()()()()()()()()()()()()()!?」


「そこはご安心を。車の形こそしていますが、あれはあくまで私の異能で創り出した()()です。フロントパネルのスイッチさえ入れて貰えれば、後はこちらで遠隔操作しますとも」


「そ、それなら、まぁ・・・?」



言い渡されたその内容に、免許証未所持を理由に断るぼくだったが、どうやら運転について心配する必要は無いらしい。

急な展開に若干釈然としないものを感じつつも、こくりと一つ頷く。


それを見て()()、と鷹揚に頷くと、犬養青年は再び口を開くのだった。



「良かった。君の異能なら下への移動も簡単でしょう、ここから先は時間との戦いです。―――頼みましたよ?」


「わかりました。・・・()()!」


『・・・!!』



青年と互いに頷き合うと、ぼくは短く呼びかけを行う。

行く手の虚空に淡い光が生じると、それは次の瞬間に紺碧の輝きに包まれた、不定形の水塊へと変じていた。


物言わぬ無形の【神使】(ファミリア)は主の意図を瞬時にくみ取ると、眼下に広がる地表へと降下する。

次の瞬間には瞬く間に、巨大な水玉へと姿を変えるメル。


既に屋上の端へと走り出していたぼくは、勢いよく空中へと飛び出すと、即席のクッション目掛けて落下を始めるのだった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




そして―――()()


車外では、未だ逃げ遅れた人達が続々とスロープを目指し、決死の逃走を続けている。

『泥艮』(ディゴン)の攻撃が障壁とぶつかるまで、もはや時間の問題。


・・・今の状況は()()()()()だ。

一方のぼく達はと言うと、スピーカーを前に二人して耳をそば立て、聞こえ始めた青年の声に神経を集中させていた。



『(ザザッ)―――待っていましたよ。お二人とも、ちゃんと揃っていますか?』


「はい!」


「いるよ~」


『なうー』


『それは重畳。では、早速ですが出発しましょう。お二人とも座席にしっかり座って、シートベルトをきちんと付けてください』



二人(と一匹)の前で、スピーカーは青年の声でそう告げる。

()()()、とベルトの金具を留めると、ぼくらは再び前へと視線を戻した。


そのタイミングで、頭の上から重みが消える。

()()()と小さな衝撃を感じると、膝の上には茶虎の小猫が座り込んでいた。


そのまま彼女が()()の姿勢を取った後、見計らっていたかのように、小さな振動音が車体を揺らす。

白くヘッドライトを点し、ライトバンはゆっくりと滑るように移動を始めた。


スピーカーから再び、青年の声が響く。



『ご協力に感謝を。これより君達には、()()()()に備えて待機場所まで移動して貰います」


「わ、動き出した。・・・待機場所、って?」


『言わずともわかりますよ―――()()()()


()()()()()―――!?」



走り始めたライトバンは、議事堂の裏へ回り込むと、丁度正面の真浦にあたる辺りで進路を変える。

その先では、石壁が左右に割れ、()()()()()()()()姿()()()()()()()


ためらいなくその中へと進み、白い車体が出来立ての出入口へと吸い込まれる。

ライトにより僅かに確保された視界が、黒一色へと塗り替えられた中を進んでゆく。


異様な状況に何となく圧倒され、ぼくらが黙りこくる一方。

車はしばらく直進し―――止まった。



「こ、ここが終点?―――うわぁ!?」


『フーッ!!』


「エレベーターだ!どこに行くんだろ・・・?」



()()()、と急に身体を襲った衝撃に、ぼくは何事かと周囲を見回す。

りんが威嚇の声を上げる一方、あーちゃんはマイペースにこの状況を楽しんでいるようだった。


()()()()()()

暗闇の中、まるくライトに照らされた構造物がゆっくりと下に流れてゆく―――()()()()()


長いようで短い時を暗闇の昇降機で過ごすと、次に揺れを感じた後、目の前には縦に一筋、光が走った。


否―――()()()()()


光と感じたのは、左右に開く扉の向こうに広がる、()()()()()()()()()()()()()()()

それは―――

今回はここまで。

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