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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
216/343

∥005-92 集団戦・第二十二幕

#前回のあらすじ:なんとか防げたっぽいけど二次被害がヤバそう



[叶(かなえ)視点]



「ハァ、ハァ・・・ハァ。た、助かっ、た―――?」


「ちょっと!ねえキミ、大丈夫なの!?」



浅く息を付きつつ、両足を踏ん張り崩れ落ちそうになる身体をなんとか支える。

()()()()と生まれたての小鹿のように震える様子を見かねたのか、背後から伸びた誰かの腕がボクを掴んだ。


覚醒者特有の怪力で()()、と引っ張り上げられる。

()()()と回った視界に一瞬、くらりと眩暈を感じて思わず目を瞑った。


もう一度目を開いた時、視界の中には心配そうなグレイの瞳が()()とこちらを覗き込んでいた。

先程、『伏龍(フクリュウ)盤』(バン)を通じて各地との連絡を取り始めた時から、何かと手伝ってくれている人達の一人だ。


彼女を心配させまいとして、ボクは笑顔を返す―――が、うまく笑えていない気がする。

もっとしっかりしないと・・・。



「だ、大丈夫、です・・・多分。ちょと、足、力入らなくって・・・」


「きっと【神力】(プラーナ)切れだわ。うちもちょくちょくなるけど辛いのよね、あれ」



ひどい疲労感のせいか、若干呂律の回らないまま答えたその言葉に、少女は小さく安堵の息を吐く。

その背後では、血のように赤く染まった光のヴェールが卵の殻を割るようにして、細かくひび割れながら上端の方から消え始めていた。


つい先程、ここを襲った巨大な怪物―――『泥艮』(ディゴン)の攻撃。

それを辛うじて受け止めることには成功したが、無理が祟ったせいか、障壁はついに限界を迎えてしまったようだ。


現在地となる国会議事堂めいた建物の屋根から、前面を覆うように広げられたそれは、役目を終えた今、ゆるやかに消滅の一途をたどっていた。



「それにしても・・・。まさか本当に受け止めちゃうだなんて。全く、キミには何度驚かされるのやら・・・」


「そ、そんなこと無い・・・です」



ボクに倣い、()()()と背後を振り返った少女は、ゆるやかに消失を続ける『静寂(セイジャク)帳』(トバリ)をしげしげと眺め嘆息した。

彼女にとっては何気ない一言だろうが、褒められ慣れていない叶にとっては少々、刺激が強い。


たぶん今、ボクの顔は耳まで真っ赤になっているだろう。


羞恥からさっと俯くと、()()()()()()と謙遜にもならない呟きを漏らす。

外部との交流が増え、若干ましになっていた人見知りがここへ来て、ぶり返し気味のようだ。


こういう時、それとなくフォローを入れてくれた小さな友人の姿が無性に恋しい。

―――が、何時までも甘えてばかりはいられない。


一人でも頑張るぞ、と決意を固め、密かに拳を握りしめる。

その時、だしぬけに少女の素っ頓狂な叫びが上がり、叶は()()()()と握りしめた手を後ろに隠すと視線を上げた。



「・・・って、いっけない!ねえキミ、今すぐあの光の壁、元に戻せないかな!?」


「ええっ?で、出来なくはないですけど・・・。また急に、どうして―――?」


「あれ!見て、折角止めたのに・・・。海水が入ってきちゃう!」


「あれは・・・いけない、水が!」



少女が指さした先では、渦巻く濁流が崩壊する障壁の向こうから垣間見えていた。

先刻、『泥艮』が放った水塊と障壁がぶつかり合った結果、現在、本拠地周囲には大量の海水が氾濫していた。


国会議事堂めいた建物の屋上を中心として、海側をカバーするように生じた障壁。

これまではそれが海水の侵入を押しとどめていたが、崩壊によってここは再び、水没の危機に晒されていた。



「じ、じゃあもう一度―――う、くぅっ!!」


「大丈夫!?」



両手を突き出し、体内の【神力】(プラーナ)を練り上げようとして―――

()()()、と走った痛みに思わずよろめく。


再び崩れ落ちそうになった華奢な身体を抱き留めると、少女は蒼白になった顔を覗き込んだ。

端正な顔には冷や汗が浮かんでいる、見るからに苦しそうな様子であったが、なおも少年は掌を掲げ続けた。



「大丈夫、です。・・・やれます、ボクが、やらないと・・・!」


「無茶よ!【神力】(プラーナ)切れで苦しい筈なのに、何でそこまで頑張れるのよ・・・?」


()()()()()―――」


「えっ?」



ぽつり。

少年が零した言葉に、少女は思わず聞き返す。


その時脳裏に浮かんだのは、唯一の肉親であり、親代わりでもある女性()の後ろ姿であった。

幼少の頃より彼の守護者であり、今は何故か、冷たく拒絶するようになったあの人の、面影。


それを思い浮かべながら、少年は独白する。



「たった一人の、家族が居るんです。ボクにとってあまりに遠くて、眩しい人が・・・。こんなボクでも同じ血が流れてるんだって、家族なんだって、誇れるように。そんな、自分でありたいと―――そう思うから」


「キミ・・・」



頑張れるんです、そう囁く姿に、少女は思わず息を飲む。


理由は、いつだってシンプルだ。

一度は諦め、小柄な友人(マル)の助けでもう一度目指した、あの場所。


―――()()()()()()()()()()()()()()()


自らの想いを語ったその姿を、少女は眩しそうに見つめていた。

眼を細め微笑むと、やがてぽつりと呟く。



「―――お姉さんのこと、大好きなのね」


「えっと、・・・はい」


「そっか。・・・ちょっと待ってて」


「?」


「確かここに―――あった!」



なんだか気恥ずかしくなり、俯いて()()()()し始めた少年。

それに対し、一言断るとポーチの中をごそごそと探り始めた少女。


無言に耐えられなくなり、ちらちらとその様子を伺っていると、だしぬけに少女は小さく叫びを上げる。

掌に収まる程の小さな竹筒を探り出すと、彼女は元気よく頭上に掲げて見せた。


それを前に首を傾げていると、()()、と先程の筒が眼前に突き出される。



「キミ、()()飲んで。今すぐに!」


「ええっ?」


「『霊水筒』よ。ちょっとだけ【神力】(プラーナ)が回復するの。こんなこともあろうかと、以前買って仕舞い込んでたのよね。・・・さあ、ぐいっと一気に!」


「うぅ。わ、わかりました・・・」



取り出したのは、RPG()()()怪しげな回復アイテムであった。

胡散臭さ満点のそれを手渡され、筒と少女の顔とを交互に見つめる叶。


少女の方はそんな様子には気付かぬようで、満面の笑みとともに筒を()()()ジェスチャーをしている。

元来押しの弱い少年に断る勇気なぞある筈も無く、ついに観念すると()()()()と筒の中身を飲み下すのだった。


・・・少し苦い。



「どう?」


「えっと。・・・少し、身体の内側が暖かくなったような―――?」


「効いてきたみたいね。・・・たとい効いてなかったとしても、()()()()()()()()!キミ、今ならやれそう?」


「ありがとうございます―――やって、みます!」



ぬるい液体を飲み干した後、胸の奥で小さな火が灯ったような感覚を覚える。


ほんの少しだが、全身を覆う倦怠感が紛れたような気がした。

眉唾物の水薬(ポーション)だが、どうやら本当に効果があったようだ。


・・・今なら、出来るかも知れない。


少年はひとつ頷くと、崩壊を続ける光のヴェールを見据え、再び掌を突き出す。

星空の下、透き通るような声が響き渡った。



「『静寂の・・・帳』ッ!!」



視界の中、罅割れ剥離してゆく光の幕がゆっくりと明滅する。

渦巻く黒い水のほんの手前、僅かに侵入を押しとどめるだけの高さを残して、障壁はその動きを止めた。


息をのみ、事の推移を眺めていた群衆の前で、とうとう気力を使い果たした少年は、石造りの屋根の上へ後ろ向きにへたり込む。

慌てて駆け寄る少女の前で、()()()()と満足げな笑顔を浮かべた叶は、意識の手綱を手放すのだった―――


今週はここまで。

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