∥005-84 集団戦・第十四幕
#前回のあらすじ:なんかクソ強いの出てきた!?
[Maryam視点]
「な、何が起きたのでございますか・・・!?」
「わからない。突然、何も見えなくなった」
乳白色に塗りつぶされた景色を見回し、和装の友人が困惑したように声を上げる。
それに同意しつつ、わたしは周囲の様子を少しでも探ろうと、意識を集中させた。
ここは、『フィアナ騎士団』達が陣取る光の桟橋の、頭上。
―――宙に張り巡らされた、石灰岩の回廊の上だ。
騎士団とは別行動を取りつつ、その動向を見守っていたわたし達・・・Maryam、抄子、Silviaの3名は、単独で騎士団と合流したリズの姿を今や完全に見失っていた。
彼等の様子は、『深泥族』の将らしき巨体の戦士と交戦に入るところまでは、遠目ながらに目撃していた。
しかし、その後突如として沸き上がった濃霧により、戦場全体がホワイトアウトしてしまったのだ。
「これを味方側―――騎士団の誰かが発生させた可能性は?」
「それも不明。でも、完全に霧に包まれるまでの様子を見る限り、彼等が事前に情報を共有できていたとは思えない」
白銀の鎧に身を包んだシルヴィが疑問の声を上げ、それにすかさず否定を返す。
霧にまかれて慌てふためていた騎士団の様子からは、とてもこれが策の内だとは思えなかった。
それは彼女達も承知の上、あくまで今の質問は事実確認程度のものだったようだ。
そろって一つ頷くと、抄子は再び口を開いた。
「・・・つまり、敵がこの状況を作り出した、という事でございますか?」
「恐らくは」
「私も同意見ね」
諸々の状況から、現状、濃霧の発生源として最も疑わしいのは敵―――『深泥族』の方だと断じる。
彼等は水にまつわる異能を操り、これまでの戦いでもそれを振るい、幾度となく【学園】側を苦しめている。
そして、霧とは空気中に細かい水滴が多量に含まれることで発生する自然現象だ。
いかにも、『深泥族』が使いそうな手である。
「仮に、これが敵の策だとして。問題は、向こうがここからどう動くつもりなのか―――ね」
「動くも何も、完全に視界がゼロでございますよ・・・?」
「それは、向こうも承知の上のハズ。―――あれは」
「!」
顔を突き合わせ、これからの行動指針について話し合うわたし達。
その時、ふと霧に包まれた眼下の一角にて、微かに光るモノが目に入る。
ほとんど無意識に、そちらの方向へ【猫女神の盾】を展開させた、次の瞬間―――
空気を裂いて、無数の鋭い氷片が石造りの盾に突き立った。
一同の間に、緊張が走る。
続いて、乳白色の霧を突き破り氷片の雨が飛来する。
それを、一早く察した白銀の騎士が両腕に令嬢達を抱いて飛び退り、辛うじて回避した。
「・・・敵襲」
「この霧の中で、見えているのでございますか・・・!?」
「元より、不利になるようなら視界を潰したりなどしないハズよ。最初から何らかの手段で、こちらの居場所は筒抜けだと考えるべきだわ」
石畳の回廊を器用に飛び交う白銀の騎士を、氷の矢は執拗に狙い続ける。
霧に閉ざされた状況下においてなお、その射撃は正確だ。
ほっそりとしながらも力強い腕に抱きかかえられ、和装の令嬢が悲鳴のような声を上げる。
それに落ち着いた声で答えつつ、シルヴィはミルク色に染め上げられた眼下をじっと観察し続ける。
―――風の音に紛れ、霧の奥からは鋭い金属音と、争うような声が漏れ聞こえていた。
「下ではもう、戦いが始まっているみたい」
「介入したい所だけど、これじゃ何処に何があるのかさっぱりね。・・・ショウコ、頼めるかしら?」
「お安い御用でございます。―――【現し筆・墨烏招来】!!」
シルヴィの声に応え、抄子は虚空より一本の絵筆を取り出す。
『五色筆』―――描いたものに命を吹き込み、意のままに操るという彼女の【神格兵装】。
その筆跡が空中に数羽の烏を描き出し、次の瞬間にはかあ、と声を上げ、実体化した烏達が夜空に向かって飛び立っていた。
筆によって生み出された生命は、己の分身。
限定的だが、視野の共有も可能だ。
和装の令嬢は緊張した面持ちで両目を閉じる。
そして墨絵の僕たちを降下させると、乳白色の海をくまなく探り始めるのであった―――
今週はここまで。




