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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
207/342

∥005-83 集団戦・第十三幕

#前回のあらすじ:商売上手なあの人は何者?



[Elizabeth(エリザベス)視点]



白く、幻想的な光の桟橋が闇夜の中心に向かって伸びる。

その行く手に聳え立つのは、見上げるような異形の神の姿。


―――『泥艮』(ディゴン)


桟橋の根本にて、水平線の彼方に見た姿は今や、記憶にある()()とは比較にならぬ程に(おお)きく、()()だ。

ここまで進軍を続けてきた【学園】の若者達が、その足元にたどり着くまで、もはや幾許も無いであろう。


だが、しかし。

彼女達の前には今、予想だにしない強敵が、()()()()()として立ち塞がっていた。



「くっ、この・・・!!」


「これ程までか!固く、速く、そして―――強い!!」



赤熱した黒鞭がルージュを引くように残光を残し、夜空を引き裂いて二度、三度と打ち下ろされる。

音を置き去りにし、炸裂音を残しながら放たれた必殺の一撃は―――しかし、いとも簡単に受け止められていた。


()』は超音速の鞭打を軽々と()()()と、合わせるようにして横薙ぎに飛来した、虹色の輝きを()()()と飛んで避ける。

その巨体からは想像も出来ぬ程の身軽さで()()、としなやかに桟橋の上へ着地したそいつを、金髪の令嬢は歯がみしながら鋭く睨みつけた。


その外見は、縦に潰れたような扁平な頭部を持つ水棲生物のそれと、ヒトを奇妙に融合させたような異形。

『深泥(ミドロ)族』としては、比較的ありふれた特徴ではあるが―――その()()()が大違いだった。


ざっと見積もっただけでも、()()3()M()()()


種族共通の特徴として、常に前傾気味である彼等の姿勢を鑑みるに、その全長は4()M()()()()()()()()()()であろう。

赤黒く、()()()()と節くれだった肌には石筍のような突起が無数に突き出ており、その見た目通りの硬度のせいか、攻守共に隙が見当たらない。


更に、この怪物は現在進行形で周囲から呼び寄せた海水を身に纏い、高密度に圧縮させつつ体表を循環させていた。


つい先日、マルがとっさの思いつきで使った『深海の鎧』と同系統の―――()

更にその()()()となる異能である。


()()()、と重々しい足音と共に一歩前に進み出でて、巨体の戦士が挑発するかのように手招きする。



『ドウシタ?陸ノ戦士タチヨ―――()()()()()


「ッ!見くびらないでくださいまし・・・!!」


「待て!早まるな――――」



巨兵の言動を侮蔑と取ったのか、金髪の令嬢は己の愛鞭にありったけの【神力】(プラーナ)を注ぎ、大きく振りかぶった。


鎧の偉丈夫の制止も聞かず、裂帛の気合を込めて振り下ろされた黒鞭。

―――その先端が()()()()()()()()し、次の瞬間には赤熱化し、膨大な熱量を発した。



【Crimson(クリムゾン)-Flexible(フレキシブル)-Whip】(ウィップ)!はああああ―――ッ!!!」



複雑な軌道を描き、超音速で飛来する灼熱の鞭―――!


触れれば、厚い鋼板であろうとたちまちに焼き切るであろう、必殺の一撃。

たとえ異形の巨戦士であろうと、それをまともに喰らえば絶命は避けられなかったであろう。


()()―――



『若イナ』


「そんなっ!?」


「あれを、無傷で()()()()だと―――!??」




それはあくまで、()()()()()()()()、の話である。

流れるような動きで掌を交差させると、巨戦士は飛来する無数の鞭の()()に突き入れた。


触れれば火傷では済まない筈の、赤熱化した黒鞭。

それを間近にしてなお平然としているのは、生来の頑強さゆえか。


―――否。


()』は身体を覆う流水の鎧を高速で循環させ、熱を周囲へ()()()ことで熱傷を免れていた。

刹那の間、複雑な鞭の動きを見切った巨戦士は動きの()となる一点へ割り込み、()()()()()()()()()()()()()


戦士の巨体をわずかに掠め、左右へとばらばらに流されてゆく赤熱の鞭打。


リズの両目が驚愕に見開かれる。

そして、次の瞬間。


―――その視界一杯に、()()()()()()()()()()()



「ひゅうっ―――」


「・・・盾隊―――ッ!!()()()()だ!気張れェェェ!!!」



視覚情報の処理が追い付かず、ただ、硬直したまま息を吸い込むリズ。

正しく、絶体絶命の瞬間。


その時反応していたのは、傍らにて戦う鎧姿の偉丈夫であった。

Oscar(オスカー)は叫ぶと同時に身体を()()()()()()()へと盾を構えた一団が滑り込む。



「フ、フィアナ騎士団万ざ・・・ぐわああああーーーっ!!?」


「ッ・・・!?」



流れるような連携と共に、リズの前に出現した『()』は―――しかし。

次の瞬間には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


指を一列に揃えた、いわゆる『貫き手』が()()()と半回転する。

()()()、と痙攣と共に飛び散った赤黒い血糊が白い頬に飛び散り、盾手の身体と共に()()()()()()()()()()()()()()


目と鼻の先でそれを目にした令嬢は、薄れゆく光の粒子の奥に冷たい光を湛えた、巨大な瞳を見た。



「野郎!よくもマルコを―――!!」


「落ち着け、馬鹿者!!指示も待たず私情で隊列を乱すな!それに・・・()()


「足元に、()()()()・・・!?」



フィアナ騎士団と、異形の巨兵との、間。


夜の闇に白々と続く光の桟橋の上には、何時の間にか()()()()が無数に姿を現していた。

無音のまま足元より這い上がり、ついには口元にへばり付いて息の根を止める、『深泥族』の悪辣なトラップである。


つい先刻、苦悶の内に息絶えた仲間のくぐもった悲鳴が脳裏に蘇り、突っ込もうとしていた団員達の間に緊張が走った。



()()()カ。良キ判断、良キ将ダ。強敵トノ逢瀬ハ(モノノフ)ノ誉―――喜バシキ事ダナ』


「ふん。・・・おい、『Wild(ワイルド) tails』(テイルズ)の主よ、立てるか」



追撃はないと見るや、()()と軽く飛び去り距離を取る異形の巨兵。

それと同時に形を失い、()()()()と崩れ落ちる水塊を目にして、団員達はほっと安堵の息を吐いた。


その様子を見届けると、先程のやりとり以降、尻もちを付いたままの令嬢の下へ、Oscarは歩み寄る。

差し出された手を前に、きょとんとしたまま()()()とひとつ瞬きするリズ。



「ッ・・・心配は、無用でしてよ!先程はちょっぴり―――肝が冷えました、けれど。・・・まだまだやれますわ!!」


「それは僥倖だ」



しかし、次の瞬間に()()と我に返ると慌てて立ち上がり、スカートに付いた砂ぼこりを払い始める。

()()、とそっぽを向いてしまった金髪の令嬢を前に、差し出した片手を後ろに隠しつつ鎧の偉丈夫は苦笑を浮かべた。


先程から色々と、()()()()()()()()()()を目の当たりにし続けた彼女だが―――この分なら、どうやら大丈夫そうだ。

それを確かめると、Oscarはすぐに表情を引き締め再度、口を開いた。



「―――だが、状況は依然として最悪だ。ここまで快進撃を続けてきた我々だったが、敵本陣を前にしてとうとう、()()()()()に突き当たってしまったらしい」


「まったく・・・何ですの?あのでっかい魚人(ギルマン)は!」


「察するに―――敵にとっての()()()()といった存在であろう」



【学園】にフィアナ騎士団が、その副長たる勇士Oscarが居るように。

更には彼等全ての憧れである、神代の英霊たる『()()』が居るように。


『深泥族』にもまた―――他を凌駕する、驚異的な戦士が存在したのだ。

敵の動向に神経を尖らせつつ、副長の推理は続く。



「奴は恵まれた体格と身体能力、常在戦場の精神性を持ち―――そして恐らくは、()()()()()()()()()()()()


()()、ですって・・・!?」



大型肉食獣に匹敵する体躯と、不死身とも言われる無限の生命力。

それを本能のままに振るうのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()


そんなものが実在すれば、それは正しく―――神話に名を残す程の()()、あるいは()()と呼ばざるを得ないであろう。

目の前の巨兵が()()であると、鎧の偉丈夫は語る。



「・・・だがッ!何が相手であろうと、我々の行く手を阻むのであれば打倒するのみ!!たとい圧倒的な『()』であろうと、『()』としての我等に敵う者など居ないのだと!今からそれを証明してやろう―――!!」


「「「おおォーーーっ!!フィアナ騎士団に栄光あれ!!!」」」



鬨の声を上げ、副長の周囲に展開する騎士団達。


たちどころに組み上げられたフォーメーションは、強大な力を持つ『()』を『()()』でもってすり潰す為のものであった。

静かな闘志を秘めた声が、異形の英雄へ向けて放たれる。



「元よりこの戦は【学園】と『深泥族』、群れと群れとのぶつかり合い!今更卑怯とは言うまい・・・!!」


『云ワヌサ』



一方。

涼しい表情で己の敵を眺めると、異形の巨兵は()()()と不敵な笑みを浮かべた。



『コチラハ最初カラ―――()()()()()ヨ』


今週はここまで。

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