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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
206/344

∥005-82 集団戦・第十二幕

#前回のあらすじ:最前線で激闘開始!一方その頃・・・



[???視点]



「あうっ・・・!!」



草の根に足を取られ、砂地の地面の上に一人の少女が倒れ伏す。

柔らかい砂の上であったことが幸いしたのか、彼女の手足には僅かなかすり傷が付いたのみで、大きな怪我を負うには至らなかったようだ。


少女は上体を起こそうと、()()、と両腕に力を込めるが、先程出来た傷口が鋭く痛むのか、あどけなさの残る顔を苦痛に歪ませる。



「痛っ―――!」


「おやまあ、大変じゃないか。・・・ほら、立てるかい?お客さん」


「・・・えっ?」


「おっと、このままじゃいけないね。それじゃあちょいと失礼して―――」


「わ、わ、わっ?」



唐突に降ってきたハスキーな女性の声に、少女は()()()()とブラウンの瞳をしばたかせる。


―――彼女の視界には、ほっそりとした手がひとつ。

真っすぐにこちらに向けて、差し出されていた。


そこに向けておそるおそる右手を差し出すと、握り返されたその手は細さからは想像も出来ない程に、力強く少女の身体を引っ張り上げる。

()()、と小さく声を上げる間に少女は立ち上がり、気づいた時には両の脚で大地を踏みしめていた。


―――かと思えば、無遠慮に衣服に付いた砂ぼこりを()()()()と振り払われ、少女は再び目を白黒させる。

突然の出来事に動転するうちに、さっさと砂を払い落とし終えた人物は己の作業の出来栄えに満足そうに頷いた。


そして背をかがめ、視線を合わせて少女の顔を覗き込んでくる。



「・・・よし!()()()()の出来上がりだ。これからは走る時にゃ気を付けるんだよ?」


「―――()()()



()()、と悪戯めいた笑顔を浮かべる人物。

その姿に少女の視線は自然と吸い寄せられ、()()()とうわ言のように呟きが漏れ出ていた。


黒い瞳、流れるような亜麻色の長髪。


濡れたような艶を放つ髪は頭の後ろで二つ、白いシニョンで纏められている。

切れ長の眼には端に軽くアイシャドーが施され、強い意志を感じさせる瞳は真っすぐに、こちらを見つめ返している。


細身ながら、メリハリの利いた肢体を包むのは群青色のチャイナドレス。


大胆にスリットが入った脚部からは、なまめかしい太股が垣間見えている。

()()()と覗く抜けるように白い肌に、少女は思わず()()()と鼓動を早め、慌てて視線を反らしてしまった。


十人がすれ違えば、十人が振り向くような、正に掛け値なしの美しさ。

その容姿を端的に表す言葉はたった今、正に少女が()()()と開けた口の端から漏らしたばかりのものだ。


―――もしこの場に、『()()()()()()()』こと会取叶(えとりかなえ)を知る者が居たとすれば。

この世に双璧を成す()()が存在する事実に驚くと同時に、『()()』の容姿がどこか、『()』の面影を思い起こさせることに首を傾げたことだろう。



「―――ちょいと、お客さん?もしや何処かに頭でもぶつけたのかい・・・?」


「・・・ハッ!?い、いえいえいえ、そんな事実はありませんけれども!そ、そんなことより・・・!」


「ぅん?」


「に・・・()()()()()()()!早く・・・ッ!!」



切羽詰まった少女の様子に、チャイナドレスの麗人がどこか優雅なしぐさで小首を傾げる。

が、すぐに彼女の背後に迫る『()()』を認めると、()()と膝を叩き大きく頷いた。


―――ここは【学園】側本拠地近くの、陸上側。


草地と砂地が入り混じった地面の上は、今や、慌てた様子で逃げまどう人々でごった返していた。

その背後から迫るのは、水棲生物の特徴をその身に強く残す、異形の怪物。


【深きもの】(ディープワン)―――その一氏族である、『深泥(ミドロ)族』の戦士達である。


先刻、左翼側の防衛ラインが交戦状態となった後。

【学園】と『深泥族』、両軍の戦況は更に様変わりしていた。


なんとか敵の侵入を食い止めていた防衛ラインだったが、左翼海上に展開した船団が()()()により機能不全に陥り、結果、更なる敵の増援が追加されたのだ。

増え続ける敵を受け止め切れなくなり、防衛ラインから溢れた敵の一部がこうして、本拠地近くにまで迫った―――というのが、今の状況となる。



「なんとか食い止めろ!・・・ここを抜かれたらマジで()()()だぞ!!」


「うぉおおおお!!」


『押シ通ル―――!!』



一丸となった異形の戦士達は、周囲の【学園】側勢力のまばらな抵抗を無視し、進路上に逃げ遅れた()()()()をなぎ倒しつつ進む。

目指す先は陸上側の奥、国会議事堂めいた石造りの建造物だ。


そこまでを、さっと見て取り把握すると―――チャイナドレスの美女は()()()とした笑顔を浮かべた。



「つまり、()()という訳だ。―――さあさ、皆様お立合い!明峰商店(メイホウショウテン)出張店舗、()()()()の始まりだよ!!」


「・・・えっ??」


「何だ・・・!?」



唐突に、良く通る女性の声が夜の浜辺に響き渡る。


怒涛の勢いで突き進む異形の戦士達を相手に、決死の抵抗を続けていた者達も。

敵襲から逃げまどう若者達も、一時、突然のことに皆が足を止め、声の方向へと視線を向ける。


―――今、注目の的となるのは一人の麗人。


群青色のチャイナドレスを身に纏い、見事なボディラインを惜しげも無く晒した彼女は周囲の視線を一身に受けなお、平然と微笑んでいる。

彼女は【神候補】向けの雑貨を取り扱う商家、『明峰商店』の主。


人は彼女を、謎の東洋人『メイ』の名で呼ぶ。



「ここに取りい出したりまするは当店自慢、霊験あらたかなる道士の手による摩訶不思議なる一品!戦国の世に名高き太閤秀吉、その逸話に端を発すると話題の逸品にございます。その名も―――『墨俣(スミマタ)城址(ジョウシ)』!!」


「墨俣、城址・・・!?」



女店主が掲げた手には、ミニサイズの木片に何やら朱墨で細かく書き込まれた、得体の知れない物体が握られていた。

()()に視線が集中したことを確かめると、チャイナドレスの麗人は再び声を張り上げる。



「かの軍神、豊国大明神の御力宿りしこの木片。こうして地に撒き、【神力】(プラーナ)を込めますれば!たちどころに拡大、荘厳華麗なる一夜城を築くと専らの話。この日、これよりこの場にて、噂が真たる証拠を皆々様へご覧に入れてしんぜましょう!―――さあさ皆様!御照覧あれ!!」


「おおっ―――!?」


『何ダト・・・!?』


「・・・凄い!」



口上に合わせ、握りこんだ木片をぽいぽいと放り上げる女店主。

砂地の上に落ち、そのまま動かなくなった木片は―――ふいにうっすらと燐光を放ち出す。


何気なくその様子を眺めていた聴衆が、思わず()()()、と身をすくめるのを他所に、チャイナドレスの麗人による口上は今やクライマックスに達していた。

天高く振り上げられた片手、それと呼応するようにして光を放つ木片が震え、()()()()()()()()()()()()()


―――そして次の瞬間には、『深泥族』の戦士達を待ち構えるようにして、彼等の眼前には()()()()()()()()()()()()()()()()()


唐突に出現した得体の知れぬ障害に、破竹の勢いで突き進んでいた異形の戦士達は思わず()()()を踏んで立ち止まる。

その反対側、城壁の傍に歩み寄った女店主はそのできに満足そうに頷くと、口上を再開した。



「・・・只今、築き上げましたるこの城壁。木造なれどこの厚み、重量感。軍神の加護を受けし装甲の前には、たとい砲弾であろうと傷一つ付けること叶わぬでしょう。更にはこうして、狭間を通して攻撃すれば―――」


『ウ・・・ギャアアアアッ!!?』



城壁の只中に配された隙間目掛け、女店主は()()に輝く宝珠を投げ込む。

()()、と砂地の上に落ちた()()を異形の戦士の一人が覗き込んだ、次の瞬間―――


()()()()()()()()()()()()()()


【魂晶】(ジェム)の内に封じられていた雷光が解放され、轟音と共に『深泥族』の一団を貫く。

()()()()と倒れ伏し、()()()()()()()()()()()()()異形の戦士達。



「と、このように。攻め入らんとする不埒な輩を壁の内に居ながらにして撃退することも、容易ということでございます。―――それでは皆様、明峰商店の目玉商品。この『墨俣城址』をなんと!250(ジェム)のところを特別に、こちらの『雷鳴珠(ライメイジュ)』もセットでお売りいたしましょう!勿論、お値段は据え置きの250G!・・・ただしお品は現品限り、先着順と相なります。さあさお客様方、買った!買った!」


「う・・・売ってくれ!今すぐだ!」「俺にもくれ!」「あたしも!」


「はい、はい。皆様押さず走らず騒がすに、仲良く並んでお待ちくださいな。急いだってオマケはしやしないよ―――まいどあり!!」



女店主の威勢のいい口上に、色めきだった観客たちはたちまち長蛇の列と化す。

彼等が手にした木片は、空白地帯であった防衛ラインと本拠地の間にあっという間に、()()()()()()()()()()を築き上げていた。


壁の内側から投げ込まれる雷弾の脅威もあり、続々と到着する『深泥族』側戦力はしばし、その場に立ち往生せざるを得なくなる。

こうして、敵側に大きく傾きつつあった戦況は再び、膠着状態へと逆戻りするのであった―――


今週はここまで。

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