表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
204/344

∥005-80 集団戦・第十幕

#前回のあらすじ:全裸が象に乗ってやってきた!



[Silvia(シルヴィア)視点]



「・・・どうだった?」


「防衛ライン右翼側は、Mannerheim(マンネルヘイム)隊が単独で。左翼側は余剰戦力もかき集めて、なんとか敵を押し返せたみたいね」


「なら一安心、ですわね!」



兜の面甲を上げ、本拠地からの声を伝える【魂晶】(ジェム)を耳に当てる黒髪の少女。

通信を聞き終え、菫色に淡く光る欠片をポケットにしまい込んでところで、その様子を見守っていた小柄な友人が口を開いた。


影絵の黒猫(ネフェルティティ)を足元に侍らせ、宙に浮かぶ石灰岩の回廊に佇む少女に笑いかけると、たった今聞き取った戦況を端的に伝える。

無表情のまま()()()と彼女が頷くと、その前を歩いていた金髪の令嬢(リズ)がにっこりと微笑んだ。


―――ここは最前線、海の彼方へと続く光の橋を進んだその先だ。


各陣営の下へ、通信の異能が封じられた【魂晶】(ジェム)を配りがてら、空中に取り残されピンチに陥っていた友人3名と合流したSilvia。

彼女達はその足で、『フィアナ騎士団』の下へたどり着いていた。


単独で突出し、結果として敵の罠に掛かった彼等ではあるが、4人が合流した頃には何とか襲撃者を退けていた。

視線を横に向ければ、小さな晶片を耳に当てた青年を中心にして、板金鎧(プレートメイル)に身を包んだ男達が円陣を組み、()()と耳を澄ませている。


やがて通信を聞き終えたのか、円陣の中心から青年は顔を上げ、こちらをちらりと見やる。

それを確認すると、黒髪の少女はその場の全員に届くように努めて大声で、再び口を開くのだった。



「―――と、いう訳で。わたしから提案が一つ。このまま()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なんだと・・・!?」


「・・・フィアナ騎士団も、いっしょに?」


「そうよ。―――【学園】側は現在、後方に攻め込まれてはいるけれど、今直ぐに本拠地が落とされるような状況じゃないわ。幸い、戦力なら十分に揃ってるし・・・。ここは()()()でしょう」



唐突な白銀の騎士の提案に、()()()と鎧姿の男達がざわめく。

動揺し浮足立つ団員達の中心で、精悍な顔立ちに苦い表情を浮かべた青年が一瞬、()()()、と光の橋の根本―――()()()()()()へと視線を飛ばした。


彼は少しの間、考え込んだ後に絞り出すような声を上げる。



「し―――しかし。()()()()()・・・もとい。本拠地の非戦闘員を守るには、我々がすぐにでも引き返さねば・・・」


「その為の提案でしょ?敵だって本陣が危なければ、戦力を下げざるを得ないでしょうし。それよりも先に総大将を討ち取れれば、私達の勝ちですもの。()()()()()()()()、ですわ!」


「た、確かに・・・」「4人だけど援軍も居るし、いけるか・・・!?」


「ぐぬぬ・・・!」



副団長が上げた否定的意見は、ナイトドレスの令嬢によって即座に斬り捨てられていた。

()()()()を上げ押し黙る青年の傍ら、団員達は口々に攻めに転じるメリットを呟き始める。


自分でも、消極策が現実的ではないとは理解しているのか、彼からはそれ以上の反論は無かった。

それを肯定と見ると、白銀の騎士は面甲を下ろし正面へと向き直る。


板金のスリットから覗く、視界の中。

夜の海を引き裂くようにして、光の橋が真っすぐ水平線の彼方へ伸びている。


その向こう――ー淀んだ色の水を湛えた海の上。

ぼんやりとけぶるようにして、異教の神のシルエットが悪夢のように佇んでいた。


物言わぬ巨像の如き()()を睨みつけ、少女は呟く。



「ここで、わたし達が暴れれば暴れる程、味方は有利になる筈よ。―――()()()()()()()()


「わ、わかった。・・・提案に乗ろう」


「ありがとう」



―――『()()』と、わたし達はこれから戦わなければならない。


今、ここで攻めるメリットと合理性を理解しつつも、絶望的なまでの彼我の戦力差に背筋が()()()寒くなってくる。

生命体として覚醒し、異能を得た今、海の彼方に待ち受ける()()の秘めた力がどれほどのものか、おぼろげながらに理解できてしまっているのだ。


騎士団の副長が渋々ながら了承したことを確かめると、少女はひとつ深呼吸をして意識を切り替えた。



「そういう訳で、ここからの侵攻ルートは騎士団が()()の中央を。リズとMaryam(マルヤム)はそのまま、回廊を進みながら臨機応変に行きましょう。―――それでいいかしら?」


「・・・ああ」


「大丈夫でしてよ!」


「・・・ん」


「ショウコは―――そろそろ動けるかしら?」


「な、なんとか・・・うぷ」


「良かった。なら、リズと一緒にお願いね」



―――Silvia達は現在、空中を蛇行する石灰岩の回廊の上を移動している。

『フィアナ騎士団』が陣取る光の橋へ寄り添うようにして伸びるそれは、Maryamの【神使】(ファミリア)である影絵の黒猫によって生み出された、異能の産物だ。


傍目には心許なく見えるかも知れないが、部分鎧を随所に纏ったSilviaが着地しても、ビクともしない程の強度を持っている。

平素より、空中に張り巡らせた回廊の上を戦場としている彼女達にとっては、()()()の方がより慣れ親しんだルートだった。


その上をまず、豊かな胸を張ってリズが。

それに付き従うように、小柄なローブ姿のMaryamが、そこから数歩分遅れて、青ざめた表情の抄子(ショウコ)が進む。


そうして頼もしいものを眺めるように、彼女達の後ろ姿を見つめていると、光の橋の方角より声が掛かった。



「待て!―――話はわかったが、お前はどうするのだ?」


「どう、って?」


「ルートの事だ。その回廊では、一人か二人が通るので精一杯だろう。何なら我々と一緒に―――」


「大丈夫よ」



視線を向けた先では、鎧姿の偉丈夫がどこか緊張した面持ちでこちらを見つめていた。

それを一瞬、小首を傾げ見つめ返すと、銀の騎士は短くそう返し回廊の外へと一歩、軽やかに踏み出す。


()()、と男達が声を上げる中、軽やかに暗色の海へと降り立つ少女。

()()()、と音も無く()()()()()するその姿に、Oscar(オシーン)は彼女が持つ神業(スキル)を思い出していた。


―――その姿は銀の星。

万物を踏みしめ、いかなる障害も彼女の走りを阻むには能わず。


故に―――万踏(オールマイティ)走破(・ステップ)



白銀の(シルバー)脚甲(グリーブ)が通る先が、わたしの()よ」



今週はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ