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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
201/342

∥005-78 集団戦・第七幕

#前回のあらすじ:流氷に巻き込まれたシロクマ的な。



[マル視点]



一方、その頃。


一面の氷海―――()()()()

深い色を湛えた、静かな夜の海。


()』を挟んで反対側、左翼にあたるこの海域にもまた、驚くべき光景が広がっていた。



「こりゃあまた、ええ眺めばい!安宅船に唐の国の軍船、ガレー船に―――わしも見た事もありゃせん鉄の船まで!まるで船の見本市ぜよ!!」



木造船の舳先に片足を掛け、和装の男がよく響く声を上げる。

顔の前に手で()()()を作り、遠く眺める先には彼の言の通り、無数の船が引き波を立てて進んでいた。


その多くが木造船で、ごく一部が船体を鉄に覆われた軍艦である。

そのどれもが、【イデア学園】に属する船舶であり、此度の戦いに参戦した【神候補】達の乗艦だった。


勇ましい声と共に、両側から突き出したオールを荒々しく海面に突き立て、進むガレー船。

菫色の燐光を煙突の先よりたなびかせ、巨大な水車を廻し進む外輪船。


中には、如何なる手段を用いたのか、()()()()と水すましのように水面を滑る小ぶりなカヌーまで見える。

その景色を()()()、だとか()()()()、だとか、子供のような声を上げ子供のように瞳を輝かせ、男は飽きもせず眺め続けていた。



「おまさんもそう思うじゃろ―――のう、()()()()?」


「・・・・・・」



そうして幾度目かになる歓声を上げた後。

ふいに男は振り返ると、マストの側に佇む人物に向け唐突に声を掛けた。


―――船上に静寂が満ちる。


だしぬけに投げかけられた問いに対し、その人物が返したのは沈黙であった。

()()()()と、木の軋む音と小さな波音のみが流れる中、船員たちの胡乱気な視線が人物の佇む、マストの下へ集う。


奇妙な風体の男であった。


年のころは20~30ほど、くすんだ紺色の和装を上下身に着け、揺れる船上にも危なげなく佇んでいる。

裾から垣間見える腕はしなやかに鍛えられており、身長は低めではあるが体格もがっしりしているようだ。


腰に下げた刀といい、その立ち姿といい、時代劇の中から抜け出てきたような、見事な「()」っぷりである。


だが、彼に視線を向ける者達の関心はそこにはない。

専ら、周囲の視線が集中する先は―――その頭部に鎮座する、()()()()()()()()であった。


『猫の旦那』とは、何とも的確な例えである。


侍っぽい、だとか、和装のチビマッチョ、だとか。

そんな感想は全て、ドタマを覆う間抜けな猫面のインパクトにかき消されてしまっていた。


後に残るのは唯一つ、『何で猫?』の一言のみである。


マルの知己であり、【学園】における拠点を共にする仲間でもある人物。

猫侍の寅吉(トラキチ)その人であった。


そうこうしているうちに、目的地へ到着したのか船団は次第に速度を落とし、次々に停泊し始める。

海上にずらりと並んだ船達は波に揺られながら、じっと()()()を待った。


やがて、海の彼方よりまっすぐ陸を目指し、海中を突き進む影が視界に入る。

『深泥(ミドロ)族』の戦士団、その中でも地上への侵攻を担当する部隊である。


その姿を認めると、【学園】側もいよいよ迎撃に向け、準備を最終段階へと進めた。


砲門を開き、あるいは設置式のバリスタを構え、敵が射程範囲に入るその時を今か今かと待ち続ける。

そしてついに―――



発射(ファイア)―――!!」



鬨の声と共に、軍艦の舷側から轟音を上げ、火砲が放たれた。


【学園】の船で用いられる大砲は、【魂晶】(ジェム)を弾頭に用いた特別製のものである。

炸薬を用いない代わりに【魂晶】(ジェム)に封入されたエネルギーを解放し、推進力と破壊力を同時に得ることができる。


連続して放たれる砲撃は菫色の燐光をたなびかせ、はるか向こうに見える水面下の影を捕え―――見上げるような水柱を作り出した。

二発、三発と、立て続けに着弾した砲撃は轟音を轟かせ、着実に敵戦力を削っていく。


しかし、敵もやられてばかりではない。


砲撃を掻い潜りつつ、ミドロの戦士達は着々と船団の下へと近づいていた。

間近にまで接近されてしまえば、火砲による迎撃も難しくなる。


その為の備えとして準備されていたのが、弓矢や銃を主体とした遠距離火力部隊である。



「放て―――!」



間近に迫った影に向け、掛け声と共に、次々と矢の雨が放たれた。


通常であれば、水面下を高速で移動する『深泥族』の戦士相手に()()()な矢ごときが通用する筈もない。

しかし、今ここに居るのは異能に目覚め、超常の力を振るう兵達であり、その手に持つのは古今東西の名刀・名弓にもひけをとらぬ【神格兵装】(アーティファクト)だ。


水の抵抗を無視して突き進んできた矢雨に晒され、ハチの巣となった戦士達が次々と()()()()()()()()()()()()()()

そうして、次々と脱落してゆくミドロの戦士達だったが、やがて生き残りが船団へとたどり着き、海面を割ってその姿を表した。


とうとう船上にまで乗り込まれ、あちこちで剣劇の音が鳴り響き始める。

左翼側の戦況は、混戦の様相を呈し始めていた―――


今週はここまで。

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