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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
200/342

∥005-77 集団戦・第六幕

#前回のあらすじ:さすヘレ!



[マル視点―右翼側侵攻部隊]



―――宙に浮かんだ長方形のプレートに、遠方にて戦う仲間達の様子が映し出されている。

そのうちの一つ、右翼側に配された侵攻部隊の様子を映すプレートには、異様な光景が広がっていた。


()()()()


穏やかな春の海が一面に凍り付き、冠雪した山脈のように白く連なっている。

既に寒気も払拭され、穏やかな気候が続く5月の時候としては、明らかに異常な風景だ。


氷結は水面下にまで及び、厚く重なる氷の層が深く深く、海底近くにまでその領土を広げている。

陸を目指していた『深泥(ミドロ)族』の戦士達は一早く異変を察知し、危く氷塊にぶつかる寸前のところで停止した。


幾重にも折り重なった氷の壁は、鉄壁の城門の如く彼等の行く手を阻んでいる。

様子を伺う為、海面にまで浮上するミドロ達。


()()()、と海面を割って異相の男達が姿を表したところで―――()()は起きた。



『ゲエ―――ッ!!?』


『敵襲・・・!?』



乾いた発砲音が立て続けに響く。


水面から顔を出し、周囲を伺っていたミドロ達のうち数名が、()()()()()()()()()()()()()()

瞬時に危機を察知し、一斉に()()()、と波紋を残し戦士達は姿を消す。


銃声の残響が消え、()()、と静寂が周囲に満ちる。

やがて、獲物の気配が消えたことを確認すると、先程の襲撃を敢行した()()がその姿を表した。


それは、全身を白一色に統一した装備で身を包んだ一団であった。

すっぽりと頭部を覆うフードを目深に被り、背には艶消し加工されたマスケット銃を背負っている。


彼等は油断なく辺りの気配を探ると、氷塊の隙間に隠していた物を掘り起こした。

それは一対のスキー板と、ストックであった。



「・・・次へ行くぞ」


「「「了解!」」」



言葉少なに意思疎通を済ませると、氷上を()()()()滑るように移動し始める純白の集団。

その先陣を切る一人の男が氷上にシュプールを描くと、細かい氷の粒子がぱっと舞い上がり、周囲を白く染め上げていく。


やがて、集団の姿は白く煙る雪の中へと消え、後に残された轍も降り積もる雪片に覆いつくされてしまった。


―――彼等の名は『白き(белая)死神』(смерть)

フィンランド出身者を中心に構成されたクランである。


豪雪地帯を故郷に持つ彼等は、【イデア学園】においても雪深い祖国を守る為、特異な戦術を自ら作り上げていた。

それはスキーによる雪上移動と、【魂晶弾】(ジェムバレット)を打ち出すマスケットによる狙撃を主体としたものである。


その特色と、雪原仕様の白一色の装備から、いつしか彼等はクラン名として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の異名で呼ばれるようになっていた。


日々、祖国の地を【彼方より(シング フロム )のもの】(ザ ビヨンド)の脅威から守る為に戦う彼等。

しかしそれ故に、雪国以外での活躍は難しいと思われた。


―――()()()()()


一人の【神候補】が目覚めた力により、その前提は覆された。

氷雪を振りまき、滑った場所を氷に染める魔法のスキー板。


現クランマスターであるMannerheim(マンネルヘイム)の持つ異能の前では、如何なる場所も彼等の得意とするフィールドへと塗り替えられてしまうのだ。

そして今、穏やかな春の海は一面の氷海へと塗り替えられていた。


そこは彼等―――『白き死神』にとっての狩場に他ならない。



『グエッ!?』『ギャッ!!』


「2体撃破、次だ」


『グオォッ!!?』


「―――次」



西へ東へ。


再び偵察に浮上した『深泥族』の戦士をすかさず狙撃し、居所を探られる前に雪の中へと消える。

海中より僅かな隙間をたどり、氷上へと抜け出した先遣隊をすかさず潰す。


『白き死神』の凍てつく鎌は例外なく、己の領土を侵した者の上へと振り下ろされた。


とうとう侵攻を諦めたのか、『深泥族』による氷海への侵入は次第になりを潜め、()()()と収まった。

しばしの間、油断なく敵の反応を探っていたMannerheim(マンネルヘイム)達であったが、敵襲が一段落したことを察すると小休止を始める。



「ふう。・・・おー寒っ!しかし今日はまた、一段と冷えるな」


「ま、()()()()()のは俺達なんだがな。そのお陰でこうして戦えてる訳だが・・・。それもこれも、我等が将軍様々って事だな」


「違いない!ワハハハハ!!」



糧食や水筒を取り出し、小声ながら談笑を始める彼等。


保温ポットからコップに注がれた琥珀色の液体を、()()()()と吹き冷ましながらちびりちびりと飲んでいく。

凍てつくような外気の中、喉を滑り落ちるホットコーヒーは涙が出る程に美味い。


()()と白く息を吐き出し、束の間の平穏を噛みしめる。

しかし直ぐに表情を引き締めると、死神たちは現在交戦中の『()』について言及するのだった。



「・・・連中、これで諦めてくれますかね?」


「さてな。()()()のお陰で他の防衛ラインの様子は耳に入ってくるが―――敵は精強で、粘り強い。十中八九、また来るだろう」



部下が零した一言に、青年は掌中にある菫色に輝く宝石を指先で叩きつつ、そう答える。

出発前に白髪の少年から手渡された【魂晶】(ジェム)は、驚くことに遠方から『()』を伝える力があった。


そのお陰で、この場に居ながらにして陸上側の本拠地や、左翼側の仲間達の戦況を知ることが出来る。

孤立無援での戦いには慣れているが、音声だけでも繋がれることは彼等にとって、意外な程に心地よい経験であった。


心中であの少年へ感謝の言葉を告げると、すぐに表情を引き締めMannerheim(マンネルヘイム)は続ける。



「まあ、どちらにせよ俺達のする事には変わりはない。息を潜めて、よく狙い、撃ち抜くだけ―――」


()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。練習の成果を出せば、問題は無いぜ」



()()()()、と息を潜めた笑いを交わす。

―――そして死神たちは意識を切り替えると、再び戦場へと戻って行った。


()()()()と集中力を削られながら、じっと身を潜めながら敵を待つ。

静寂の立ち込める氷の上、無限に思える時間が流れた。


そして―――その静寂はやがて、()()()()()()で破られることになった。



「この音は・・・?」


「敵襲―――では、ない様だが。何かわかるか?」


「お待ちください。これは・・・?」



()()()()()()、と、氷床から軋み上げるような音が立ち昇る。


異能により固められた氷の海に不釣り合いな、不気味な音であった。

首を傾げた男達は、すぐに索敵に優れた仲間の一人に様子を伺わせる。


()()と耳を潜め、周囲の様子を伺うことしばし。

()()、と何かに気付いた青年は、敵に居場所を知られることも厭わず鋭く叫ぶのだった。



「―――いけない!皆、()()()()()()()!!」


「どうした・・・うわっ!!?」


()()―――」



()()()


断末魔のように嫌な音を立てた氷床は、()()()()()()()()()()()()()()()

小さく悲鳴を上げる死神たちを乗せて、小刻みに鳴動を始める氷の海。


やがて、()()()()と盛大に破壊音を響かせながら、一面の氷塊は()()()()()()()()()()()()()()()()()



「やられた!連中、俺達の守りを抜くのが難しいと知って()()()()()()()()()()()()()!!」


「姿勢を低くしてどこかに掴まれ!()()()()ぞ―――!!」



その時―――『深泥族』が取った行動はシンプルだった。


厄介な敵のいるフィールドごと、海全体を押し流す。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


結果。


極圏の海を漂う流氷の如く、『白き死神』の陣地はゆっくりと陸地側へと押し出される形となった。

勿論、その上に陣取った彼等にとってたまったものではない。


圧力に負け、折れ曲がり隆起する氷塊。

逆に氷点下の海中へと没する巨大な氷山。


それに巻き込まれまいと、嫌な音を立てる白い大地を右往左往を始める死神たち。


幾人かは隆起に巻き込まれ、突如生じたクレバスの間へと滑落し、凍てつく海の中で()()()()()()()()()()()

それを見送ると、死神の長は強く奥歯を噛みしめた。


右翼側の戦況は、『深泥族』優勢のまま移り変わってゆく―――



今週はここまで。

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