∥001-02 チュートリアルチュートリアル
#前回のあらすじ:死んでた
オッス!おら丸海人!
地方都市の高校へ通うピッチピチ(死語)の17歳!!
けど・・・下校中のバスが崖下へ転落して、死んじまったんだ。
そしたら、謎の幼女に『生き返らせてア・ゲ・ル』って言われてビックリ!!
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「ちょっとちょっと、お兄さーん。危険なモノローグ流してないで、こっち見てくださいよー?」
「ヒトの思考読まないでくれます?(2回目)」
ぱたぱたとこちらに向けて右手を振る、サマードレス姿の謎少女。
その眉間に向けてびしっ、と指を突き付けると、彼女は何が楽しいのか、
けらけらと笑い転げながらくるくると宙を漂った。
・・・うん、間違いなく浮いている。
重力から解き放たれたように、少女は常に目線の高さらへんにふよふよと浮遊していた。
宇宙ステーションの中継映像くらいでしか見る事のない、マジモンの人体浮遊である。
一体全体、如何なる原理で少女は浮遊しているのか?
疑問は尽きないが、そんな彼女の説明によれば、ぼくはすでに死んでいる―――らしい。
そして、同時に彼女はぼくに生き返らないか、と問うている。
ある意味、矛盾した状況。
改めての説明を求めるぼくに、やれやれ、といったふうに肩をすくめ、口を開く少女。
いよいよ話題は、事の核心部分へと進むのであった。
「えー、それでは。知能指数クソザコナメクジなお兄さんにも理解できるよう、3行で説明しますね?」
「わーいやったー(パチパチ)」
「いいですかー?よーく聞いてくださいねー?
1.あなたは死にました。『これは既に確定した事実です』
2.『死んだ』という原因を排除して、あなたの霊魂が『神化』すれば1の状態を有耶無耶にできます。
3.2までが済めば、わたしがこの空間と現世を完全に繋げて『死ななかった世界線を改めて確定できます』」
「・・・はい先生、質問!」
びしっ、と勢いよく手を上げると、銀縁眼鏡に白衣姿のヘレンがふよふよと漂いつつどうぞ、と返事を返した。
何処から出したんだよ、と内心ツッコミつつ、ぼくは言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。
「先生!わかるけど・・・わかりません!」
「え~?これでもですか??本当、お兄さんは知能指数汚物くんですねー」
「サーセン!!・・・あーでも、一つだけ。結局のところ―――ぼくは、どうすればいいのさ?」
軽い調子で結構な罵倒を浴びせられたが、不思議とイヤな気分にはならない。
彼女から嘲るような雰囲気がしないからだろうか?
ぺろりと舌を出して頭を下げるぼくに、少女はやれやれ、といったふうに頭を振る。
そして、ぼくが次いで放った問いかけに、至ってシンプルに応えるのだった。
「それは簡単です。―――お兄さんには、『神様』になってもらいます」
・ ◆ □ ◇ ・
「神様、と聞いてお兄さんはどんなイメージを抱きますか?」
「え~っと・・・」
空も色も果てもない、ただ白一色に塗りつぶされた謎空間にて。
夏色少女と、小柄な少年は1:1で向かい合っている。
このマインドとタイムのルームっぽい場所は、つい先程、ぼくが意識を覚醒させた時から目の前にあった。
その中心にぽつんと浮かぶ奇妙な少女は、『神』とはなんぞやと問いかける。
ぼくは小首を傾げ、たっぷり時間をかけて考えながら口を開いた。
「お爺さん、白いローブなんかを纏ってて、偉そう。高い所に住んでて、凄い力を持ってる。それから―――何時までも変わらず存在する、とか?」
「いい視点ですね。今、お兄さんが言った中に、神様を構成する要素が幾つか含まれています。中でも『何時までも変わらない』というのが、神性の3要素の一つ―――『偏在性』です」
「・・・『偏在性』?」
彼女の言葉にオウム返しに呟くと、ですです、とヘレンは頷いた。
耳慣れない言葉だ。
説明を求めて視線を送ると、彼女はふよふよと漂いながら再び口を開いた。
「『偏在』とは。時・場所・肉体に関わらず、あらゆる状況で存在しうる、という意味です。つまり―――神様には時間も、場所も、死んでいようが生きていようが関係ありません。それらに関わらず、変わりなく存在できるのが、神様。そういう事ですねー」
「!」
神についての要素を語ってみせる少女。
―――生きていようが死んでいようが、変わりなく存在できる。
それはつまり、先程彼女が語った『生き返る為の方法』へ、そのまま繋がるのではないだろうか?
「ひょっとして・・・。ぼくが神様になると、『死んだ』という事実を有耶無耶にできる?」
「はい。・・・それでも、死んだ『原因』が存在する限り、あなたが死んだという事実に変わりはありません。神様といえど、因果律を無視できる程、万能では無いからですねー」
「だから―――『死んだ原因を排除する』?」
「ですです」
先程聞いた、ぼくが生き返る為の3つの方法。
その2つまでが、今、どのようなものか明らかになった。
『神様になる』のは、死んだという事実を曖昧にし、後に覆す為。
『死因の排除』は、因果律に縛られた死の運命から、ぼくの未来を解き放つ為。
ようやく正当にたどり着いたぼくに、ヘレンはにっこりと微笑んで見せるのだった―――
※2023/07/24 文章改定




