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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
199/343

∥005-76 集団戦・第五幕

#前回のあらすじ:鎧の中身は黒髪ショート美少女だった!



[マル視点]



―――【イデア学園】、本拠地。


国会議事堂めいた建造物の前には、敵の襲撃を目前にして今、黒山の人だかりが出来つつあった。

ただし―――現在ここに居るのは大半が戦闘に向かないか、性格的に争いを好まず後方支援を選んだ【神候補】達だ。


戦える者は皆、海岸線にて防衛線を張るか、海上移動を可能とする異能持ちと共に既に討って出ている。

彼等は敵の進撃を阻む、肉の防壁であり、最終ラインだ。


それが突破されれば―――もはや【学園】側に()はない。


そんな状況下だからか。

自分達にも何か出来る事が無いか?―――と、思い立った者達が今、この場に集っていた。


そして―――熱く議論を交わす彼等に、触発された者がまた一人。

彼にしては珍しく、『力になりたい』と言い出した(かなえ)くんを輪に加え、本拠地前に臨時の作戦本部が立ち上げられたのだった。


そんな彼等が現在、どうしているのかと言うと―――



「・・・『Wild(ワイルド) tails』(テイルズ)中核メンバー、『フィアナ騎士団』と合流しました!」


「敵の第一陣、じきに侵攻部隊右翼左翼と接触します!」


「わ・・・わかりました!」



サーチライトに照らし出された本拠地前には、叶くんを中心に円陣を組むようにして、数名の【神候補】達が集まっていた。

彼等の視線が集う先、叶くんの前には半透明の(ボード)が浮かび上がっている。


そこへ、菫色の燐光を放つ小ぶりな【魂晶】(ジェム)を手にした少年少女達から、矢継ぎ早に各所の動きについての報告が上がる。

それを受け、白髪の少年が手元の盤面を覗き込むと、その表面に数度、指先を走らせた。



「えっと、えっと。敵が赤で味方が青で・・・()()!」


「叶くん、いけそう?」


「た、多分・・・?」



地面と平行に浮かぶ盤面と睨めっこを続けながら、悪戦苦闘すること数秒。

仕上がりを尋ねるぼくに対し、紅い瞳を不安に揺らしながらも、少年は小さく首を縦に振る。


―――が、すぐに指を引っ込めると、自信なさげに小首を傾げてしまった。

そうして平素からの心配性からか、不安そうに周囲を見回し出す叶くん。


だが―――

次の瞬間には彼が口にした通り、二色の光点が盤面を塗り分けていた。


真っすぐ進んでくる赤い光点と、帯状に広がってそれを迎え撃つ青い光点。

その両者が、盤面の上を滑るようにして、()()()()()()()()()()()()のだ。


固唾を呑んでその様子を見守っていた周囲から、()()、と歓声が上がった。



「―――凄いじゃない!キミ、こんな事できたんだ!?」


「戦場の様子が手に取るようにわかる・・・。これさえあれば、本拠地から各地とリアルタイムに連携が取れるぞ!」


「わ、わっ―――!?」



あっという間に周囲から揉みくちゃにされ、眼を白黒させる白髪の少年。

助けを求めるような無言の視線を感じつつも、あえて今は、彼の為した『成果』の観察を優先することにする。


―――半透明の盤面は、叶くんの新たなる能力の産物だ。


名を【伏龍(フクリュウ)盤】(バン)

空間の固定以外に、神業(スキル)の新たな方向性を開発できないかと、ぼくと一緒に試行錯誤した結果の産物である。


彼はどうやら、空間に作用する系統の能力全般に適性があるらしい。

空間の固定以外に何が出来るか試したところ、レーダーのように敵と味方の居場所を察知できることが判明したのが、()()の始まり。


そこからどうやって神業(スキル)として形にするのか、二人でああだこうだと議論を交わした結果、この形状に落ち着いたのだ。


盤面は、戦場全体の俯瞰図と対応している。

ぼくらで事前に決めた通り、赤い光が敵―――『深泥(ミドロ)族』の戦士達で、青い光が【イデア学園】の仲間達を表すアイコンだ。


更に。


もう一つの神業(スキル)【伝心(デンシン)絃】(イト)により、遠隔地との通話も可能となった。

これは、離れた場所に『()』を届ける効果があり、通話の基点として【魂晶】(ジェム)を利用している。


先程から、少年少女達が手にしていた【魂晶】(ジェム)がそれだ。

ぽつぽつと届く戦況を報せる声の内容と、盤面の表示には、今の所寸分の狂いも生じていない。



「・・・これなら確かに、全体を見ながら効率よく戦力を割り振ったりできそう、かな?」


「何だかSF映画に出てくる指揮室みたいで、ワクワクしてきた!」


「だよねぇ」



ぼくが()()()と呟いた一言に、先程まで叶くんを撫でくり回していた少女達の一人が眼を輝かせ、そんな事をのたまう。

・・・何となく合わせてみたが、多分、初対面の人だ。


同じぐらいの女の子達と連んでいるあたり、女性限定の有名クラン『Wild tails』のメンバーだろうか。

彼女達は姦しく談笑しつつも、先程から叶くんに()()()()と熱っぽい視線を送っている。


さすがイケメン。


―――しかし、改めて考えると。

【学園】と関わってそれなりに経つが、未だ交流できていないクランの人達は多い。


思案ついでに、臨時指揮所に居並ぶ面々の顔を()()()と盗み見てみる。


前に偶然縁が出来て以来、何度か農作業を手伝いに行っているクラン、『parivaar』(パリヴァール)のメンバーがそのうちの大半。

クランマスターの褐色全裸野郎こと、Arnav(アルナブ)さんは防衛ラインに行っているので今は不在だ。


他には、任務の発着地点である『大聖堂』で数度、見かけた事のある連中が混ざっている位だろうか。

―――さて、脱線はこのぐらいにしておいて。



「う、上手くやれば戦略ゲームみたいに少数で敵を翻弄したり、敵を引き込んで包囲殲滅したりできるかも・・・!?」


「それができたらいいんだけどねぇ。そーいうのはつけ焼き刃で、何とかなるモンじゃないでしょ?」


「うっ。む、無理かなぁ・・・?」


「・・・まぁ、()()()()()はともかく。せめて各所の様子が見えれば、もうちょい指揮所っぽくなると思うんだけど―――」



戦略ゲーム(SLG)好きなのか、盤面で動く光点を食い入るように見つめていた一人が、ぽつりと物騒なことを呟く。

しかし直ぐに、仲間らしき少女に駄目出しを喰らい、うめき声を上げた。


しゅんとなりながらも残念そうに呟く彼に、いささか()()が悪そうに、少女は急造の指揮所への不満を零す。

―――それに、()()()()()()()()が答えた。



『―――呼びましたか?』


「「「・・・()()()()()()!?」」」


「はい!お呼びの通りのヘレンちゃんです!皆さんイイ子にしてましたかー?・・・してましたよね!そんな皆さんにはハイ!()()()()()です!!」


「こ、これは・・・!?」



【神候補】なら聞き違えようもない、可愛らしい少女の声。

どこからともなく響いたそれを耳にした瞬間、皆は思わず口を揃え、()()()()を叫んでいた。


次の瞬間、()()と空中に純白のサマードレスが、次いで健康的に日に焼けた肌が現れ、ショートの黒髪が()()()と舞う。

【学園】で、任務(クエスト)の中で、幾度となく目にしたその姿が、ぼくたちの目の前にあった。


ヘレンちゃんだ。


彼女はにっこりと微笑むと、さっと手を一振りする。

その動きに合わせ、()()()()と中空に半透明のボードが現れた。


無数に出現したそれに映し出されているのは、各地で激戦を繰り広げる【神候補】達の様子だ。


最前線で、防衛ラインで、海上で。

『深泥族』の戦士達とぶつかり合うその姿が、半透明の板の上に克明に描き出されていた。



「凄い・・・!」


「すっかり忘れてたけど・・・。俺達には彼女が居たんだった!」


「うふふふふー。・・・驚いちゃいました?感心しましたかー?思う存分褒め湛えちゃっても、いいんですよー?」


「「「流石はヘレンちゃん!!」」」


「ふっふーん♪」



目を丸くして驚く皆を前に、()()()といたずらっぽく笑うと、()()()と意味ありげにこちらを流し見るヘレンちゃん。

見え見えのフリだったが、迷わずぼくらは口を揃え、その名を称えるべく叫んだ。


多少ウザかろうと、神出鬼没でいまいち考えが読めなかろうと、ぼくらには彼女が付いている。

唐突に現れた救いの女神はちょっぴり頬を染めると、自慢げにその薄い胸を反らすのだった―――



今週はここまで。

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