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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
197/343

∥005-74 集団戦・第三幕

#前回のあらすじ:退路の確保はマジ大切



[Elizabeth(エリザベス)視点]



フィアナ騎士団が絶体絶命の危機に陥る、一方。

ここ、空の上にはその様子を、じっと見つめる者達が居た。



「・・・ねえ、ショウコ」


「は―――はい!なんでございましょう?」


()()、見えてますわよね?」


「えっと・・・はい。ピンチみたいでございます―――ね?」


「・・・ですわよね!」



()()()()と動かしていた筆を止め、友人の言葉に一人の少女がほっそりとした顔を上げる。


黒い瞳に、艶のあるロングの黒髪。

名前の通り日本人的な顔立ちの少女は、眼下に見える光の橋に()()と視線を落とすと、どこか自信無さげにそう答えた。


それが期待通りの答えだったのか、ナイトドレス姿の少女は豊かな胸を反らすと、満足げに大きく頷く。

そして白魚のような指先を伸ばし、()()()、と眼下にて戦闘中のフィアナ騎士団を指差すのだった。



「でしたら!この!Elizabeth(エリザベス)=F=Miller(ミラー)が!颯爽と助けに―――」


「む、無理でございます!」


「・・・・・(コクコク)」


「―――ん、もう!何でですの!?」



流れるようなブロンドの髪をかき上げ、白色人種(コーカソイド)の令嬢は助太刀を宣言する―――が。

仲間達から返ってきたのは、ハッキリとした否定の言葉であった。


()()()()と慌てながらも、黒髪の少女は必死に両手と首を振ってジェスチャーする。

その背後では、もう一人の少女が無言のまま、()()()()と頷いていた。


三番目に姿を表したこの少女、その小さな体躯をすっぽりと、全身の大部分が隠れるローブに包んでいる。

その縁から覗く幼げな顔は、夜目にもはっきりとコーヒー色に色づいていた。


この3名、マル少年が初めて【彼方より(シング フロム )のもの】(ザ ビヨンド)と遭遇したあの日、あのバスにもその姿を表している。


黒髪の少女が清水抄子(しみずしょうこ)、金髪の少女がElizabeth(エリザベス)=F=Miller(ミラー)、最後の浅黒い肌の少女がMaryam(マルヤム)=M=Jibrīl(ジブリール)という。

ともに、クラン『Wild(ワイルド) tails』(テイルズ)の幹部であり、マルと同じく【神候補】の一人であった。


額に青筋を立て、ブロンドの令嬢は抄子に詰め寄る。



「貴女、さっきもそう仰ったじゃない!そうこうしている内にあのおバカさん達、すっかりピンチですわ!?もっとこう、スピーディーに行動できませんの!?」


「そ、そう言われましてもぉ・・・。こうして墨鴉を描いて、空を移動できる手段を用意できるまでは無理でございますよぅ」


「・・・案外、快適」



対する黒髪の少女は、困り顔でそれに応じつつも()()()()と、見事な手際で一羽、鴉の墨絵を空中に描き上げる。


ただの平面でしか無かった鴉は、少女の絵筆が離れたと同時に、()()()と身じろぎし()()()()()()()()

かと思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


彼女が持つ【神格兵装】(アーティファクト)―――『五色筆』(ごしきふで)は、()()()()()()()()()()()()()()()()


そして、創り出したものに命令を聞かせ、自在に操ることが出来るのだ。

たった今やって見せたように、既に幾羽もの墨鴉達が3人の周囲に生み出され、夜空を旋回しつつ主の命を待っていた。


そのうち数羽は、小柄なMaryam(マルヤム)のローブを脚で掴み、宙に吊り上げている。

()()()()()により、空中で取り残されてしまった彼女達は思案の上、筆の力で『()()』から脱出することに決めたのだった。


それはそれとして―――あまり待たされると、()()()()()()が痺れを切らしてしまう。


リズ(Elizabeth)がいつ爆発するか、内心ハラハラしつつも黒髪の少女は、筆を執る右手は決して休ませなかった。

そして、当の御令嬢はそうした諸々を理解した上で、なおも逸る気持ちを押さえられずにいるのだった。



「・・・ああ!もう!まどろっこしいですわ!!なんちゃって騎士団が活躍してると言うのに!わたくし達はお空で待ちぼうけだなんて―――理不尽!です!わー!!!」


「どうどう・・・まだ、慌てる時間じゃない」



白い肌を紅潮させると、ブロンドの令嬢が黒い地面の上で地団駄を踏んで悔しがる。

マイペースな小柄な友人は鴉にお願いしてその近くへ下りると、()()()()とその肩を叩くのだった。


―――夜空にお嬢様の怒声が吸い込まれた後。


大声を上げて少し落ち着いたのか、ナイトドレスの少女は()()、と息を吐き出す。

そして己の足下にあるものをじっと見つめると、()()と手を叩き満面の笑みを浮かべるのだった。



「―――()()()!時間はこんな風にいたずらに費やすより、行動によって消費されるべきですわ!時は金なり、ですのよ!」


「・・・でも、移動手段ない、よ?」


「あるじゃないですの、()()()!そういう訳ですから―――聞いていらして?貴方、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


『グルルル・・・?』



ダン、と足下の地面を踏みしめると、『()()』に向け令嬢は命じる。


少女の足下に広がる()()―――否。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


大きい。


遥かな下方、海の只中に佇む巨人(デイゴン)と比較しても、決してひけをとらぬ巨体が鎌首をもたげ―――眼を開いた。

無数の黒雲を纏い、うねる巨体の表面には()()()()と月の光を纏い、鱗が黒々とした艶を放っている。


先刻、『泥艮』(ディゴン)を施設より連れ去った異形―――黒龍。

それが現在、リズの足下に存在する『()()』の正体であった。


―――何を隠そう、この龍。

抄子の『五色筆』によって生み出された存在である。


あらん限りの【神力】(プラーナ)を込め、描きあげられた一枚の墨絵。

それが仮初の命を授かり、こうして実体を伴って顕現したがこの黒龍だった。


・・・それが元で【神力】(プラーナ)が尽きかけ、慌てて黒龍を休眠状態に入らせた訳なのだが。

そうした諸々の経緯をスッパリ忘れ去っていたのか、自信満々に令嬢は号令を発する。



「それでは、行きますわよ!騎兵隊のお出ましですわーーー!!」


『グゥ・・・オォオオオオオ!!!』


「ヲホホホ!快速快調!このまま一気に敵陣まで殴り込みますわよー!!」



ノリノリでアクセルよろしく龍の頭を踏みしめながら、リズは空のドライブに出発する。

吠え声を轟かせ、うねる巨体に黒雲をたなびかせると、巨龍はぐんぐんと加速し始めた。


周囲の景色が流れ、お嬢様一行はあっという間に『()』の間近にまでたどり着く。


加速度と向かい風に真紅のナイトドレスは荒々しくはためき、夜空に美しい金髪が舞い踊った。

絶好調のお嬢様とは対照的に、黒髪の少女は黒龍の背にしがみつきながらも器用に、顔色を白黒させている。


彼女の顔色が悪い理由は、乱暴なドライブだけではない。

そこには黒龍の巨体に吸い上げられる、途方もない【神力】(プラーナ)も大いに関与していた。


―――この黒龍、()()()()()()()()()()



「ま、待ってくださいまし!?あぁあ、せっかく節約してましたのに・・・。【神力】(プラーナ)が・・・抜け・・・()()()



とうとう可愛らしい悲鳴を残し、意識の手綱を手放す抄子。

白目をむいて気絶した友人の身体が、()()()と糸が切れたように落ちる―――ところを、小柄な少女が危なげなく抱きとめる。


友人の暴走を一早く察していた彼女は、墨鴉から降りて抄子の側に付き添っていたのだ。



「ショウコ?しっかり・・・」


「うぅっ・・・リズのばか・・・」



小柄な少女は()()()()と眼を回す友人を覗き込むと、いまいち焦っているのかわからない調子で、ほっそりとした肩を揺さぶる。

黒髪の少女は、顔を青くしながらうなされるように、小さくうわ言を呟くのだった。


一方。

創造主が気絶した影響は、黒龍の身に早くも表面化し始めていた。



「オーッホッホッホ!オーッホッホッホッホッホ・・・あ、あら?何だかスピードが落ちてきたような―――」


『グォオ・・・モウ、ムリ・・・』


「・・・な、なんだか身体が滲んで・・・?消えかけてますわ!?この龍!!」


「いけない―――()()()



描きたての水彩画に水滴を垂らしたかのように、黒龍の巨体がぼやけて()()になってゆく。

異変に気付いたリズが身構えるよりも早く、巨龍の身体は空中に溶けるようにして、あっという間に消え失せてしまった。


―――そして、空中に放り出される3人の少女。


()()()、とローブ姿の少女が残した呟きを最後に、彼女達は真っ逆さまに上空から落下し始めた。

はるかな眼下に広がるのは、黒々とたゆたう深夜の海。


それが見る見る間に迫りくる様子を、少女達は為す術も無く見つめていた。



「あ~~~れ~~~ですわ!?」


Nefertiti(ネフェルティティ)―――!」



スカートを手で押さえながらも、あらん限りの悲鳴を上げるリズ。

正しく絶体絶命―――!


しかしこの状況に、一際小柄な少女が唯一、動きを見せていた。


己が【神使】(ファミリア)の名前を小さく叫ぶと、()()()、と可愛らしい鳴き声がそれに応じる。

ローブの裾が一瞬盛り上がると、そこから()()()()と二つの立て耳と、闇夜に輝くまあるい瞳が現れた。


Maryam(マルヤム)【神使】(ファミリア)―――それは、()()()()()()()()()()()()()を持つ、一匹の黒猫である。


エジプト第18王朝の女王と同じ名を持つ【神使】(ファミリア)は空中に飛び出すと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その足跡はたちどころに拡大され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


小柄な少女は黒髪の友人の身体を抱き寄せると、虚空に現れた石畳目掛けて()()()()()()()()()

硬度を最小限に調整された石床は、少女二人分の荷重にあっけなく砕け、しかしその下に新たな石畳が姿を表し続ける。


幾度となく石畳のクッションを踏み破り、ようやく加速度を殺しきると、二人は固く乾いた床の上に着地するのだった。



「―――ッとと、危ない・・・」


「・・・」



辛うじて落下を免れた小柄な少女は、()()()と急に両腕にかかってくる体重に、今度は危く友人を取り落としそうになる。

覚醒者として強化された腕力で何とかそれを支え、少女は友人の身体を冷たい石灰岩の上に()()と横たえた。


()()、と小さく嘆息すると、Maryam(マルヤム)は無言のまま視線を落とす。

これだけの騒動にも関わらず、黒髪の友人は未だ気絶したままだ。


―――急激な【神力】(プラーナ)不足は時として、覚醒者の身に昏睡状態を引き起こす。

それは、失われた力を取り戻す為のものであり、今しばらくはこの状態のまま回復することはないだろう。



「ともかく、無事でよかったわ」


『なうー・・・』


「・・・あなたも、お疲れさま」



()()()()と規則正しい寝息を立てる友人を見つめると、小柄な少女はすっと視線を上げる。

その先には、虚空に浮かぶ石灰の回廊を足場に、()()とこちらを見つめる影絵の小猫の姿があった。


一仕事終えた相棒にねぎらいの言葉を掛けると、ローブ姿の少女はもう一人の友人の姿を探す。

この騒動のきっかけとなった、そそっかしい御令嬢は二人の下方―――海面の間近にまで迫っていた。


―――このままでは、数秒と経たずその体は海面に叩きつけられるであろう。


思わず腰を浮かせかけた少女は、しかし視界の端に見えた()()()()()に気付き、再び動きを止める。

それは、闇夜を引き裂くようにして、一直線にリズの元へと向かっていた。


流星のように見える()()を認めると、少女は全身の緊張を解く。

―――リズの事は、『()()』に任せておけば大丈夫だろう。


そう結論づけると、Maryam(マルヤム)()()()と石畳の上に腰を下ろした。

そして、側に寄ってきた黒猫の厚みの無い頭を()()と撫でると、束の間の休息を堪能し始めるのだった―――


今週はここまで。

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